超魔術転生~最強の7歳の俺に嫁と娘がいた~

暁える

第一章

第一話「29歳人生を後悔する」

 俺は29歳。名を語るまでもない。

 引き籠り歴10年以上の、ベテランヒキニートだ。

 究極のブサメンで、この世に生を受けた俺は生まれながらにして、リア終だと悟った。


 小中学校は理不尽にバカにされ、イジメに耐えながらも乗り切った。

 ゴブリンのような醜悪な顔をしてる俺でも、両親だけは優しく愛情を注いでくれたからだ。


 人の価値は顔なんかじゃない。

 顔や身体なんて魂の器でしかない。

 いつも優しく俺に接する両親の言葉を、励みに生きてきた。


 そう、生まれて初めて恋心を抱くまで。


 高校二年の夏。俺は恋をした。

 ブサメンに恋愛なんて無縁の長物だと、俺は頑なに拒絶していたのだが、クラスメートに、はにかむ笑顔が天使のように素敵な女の子がいた。


 授業中、俺の落とした消しゴムを隣の席にいた彼女は、優しく拾い上げてくれた。

 俺の私物に触れることすらキモいと躊躇ためらうヤツらが大半という混沌とした、環境の中でだ。


 彼女は消しゴムを拾い上げ手渡してくれただけでなく、にっこりと微笑みかけてくれたのだ。

 それはまさに俺にとっては奇跡ともいえる大事件であった。


 女の子に優しく微笑みかけてもらったことなんて、高校二年までの17年間の人生で未だかつて一度たりとも、なかったからだ。

 俺の心は何かに揺り動かされた。

 胸がじーんと熱くなって、思わず涙がこぼれそうだった。

 両親以外で俺に微笑みかけてくれる存在など、皆無であったからだ。

 

 ある日。

 夕焼けが射し込む放課後の教室で俺は偶然、彼女と二人っきりになった。

 消しゴムの件から俺は彼女に淡くも切ない想いと期待を寄せていた。

 多くの女生徒が俺を冷たく拒絶し避ける中、彼女だけは俺を見てもイヤな顔ひとつ見せたことが無い。

 むしろ視線が合うと微笑みかけてくれる。


 そう俺にとって彼女だけが希望だ。


 彼女は美少女とまでは言えないが愛橋ある顔立ちの癒し系。

 クラスでも3,4番目ぐらいに人気がある。

 もし彼女を恋人にできれば俺の17年間のリア終は終わりを告げ、起死回生のリア充となることだろう。


 それにイジメられっ子でダメダメな究極のブサメンの俺でも、可愛い恋人ができれば頑張れる、勇気を貰えると心の隅では感じてもいた。


 気がつけば俺の恋心は彼女に本気になっていた。

 二人っきりになるチャンスなんて早々巡ってこない。

 もっと仲良くなりたいと気持ちがはやる。

 恋人まではいかなくとも距離を縮めたい。

 そう考えると気持ちが抑えきれなくなり、俺は一歩二歩と彼女へ告白しようと極度の緊張状態で歩を進めた。


 黒髪を夕焼けで幻想的に焦がす彼女が、俺の接近に気がつき振り向いた。

 目が合った。告白した。

 いつものように微笑みかけてくれる。

 そう信じてた。


 ところが……。

 彼女は俺を見るとギョッと驚き、足が縺れ姿勢を崩しその場に転んだ。

 慌てて手を差し伸べると、彼女が土下座しながら震え声で俺に言った。


「ゆ、ゆるしてください……」


 彼女は一言、俺にそう告げると怯えたように走り去った。

 俺はその後ろ姿をただ茫然と見守る。

 なぜだろう、窓から覗く夕焼け空がやけに哀愁を誘った。


 翌日から惨憺たる有様だった俺の学校生活は更に加速した。


「おい見ろよ、あいつが告白魔だぜ!」

「うわぁ~……きっも!」

「告白が許されるのはせめてフツメンまでだよね~!!」


 校内で俺を見た生徒は揃って同じ言葉を口にする。

 たった一度の告白で『告白魔』たる、あだ名が付いた。

 不名誉なあだ名が俺の胸を抉るように貫いていく。

 周りの目から逃げ出すように俺は走り出した。

 後ろ指をさされようとも、走り出した足はもう止まらない。


 気が付くと俺は男子トイレの中にいた。

 息も絶え絶えで全身から汗がびっしょりと滲み出ている。

 少しでも心を落ち着かせようと思い、静かに鏡の前に立つとそこには……。


 はぁはぁ……と息を荒くしたブタ公爵さながらのブサメンがいた。


 ちょっとばかり微笑んでみる。

 死にたいぐらい醜悪で下品な顔だ。


「あんた、キモいんだよ!」

「寄るな! この豚! 変態が感染するだろ!」

「こんなのに告白されたら流石のあたしも自殺しそうだわ……」


 彼ら彼女らの罵詈雑言が未だに耳を突く。

 自殺したいのは俺の方だ……。

 

 ――――翌日から俺は不登校になり、引き籠りとなる。

 罵倒の飛び交う監獄の中を悠々と歩く鋼の心も、もはや砕け散った。

 限界だ……。

 それからというもの……食う。寝る。ゲーム、ラノベ、漫画に没頭した。


 人は生まれながらにイケメン、フツメン、ブサメンの三種族に区別される。

 残念ながら俺はブサメンたる種族の中でも究極のブサメンだった。


 この事件をきっかけに不登校になった俺は、ヒキニートのまま29歳の誕生日を通り越した。

 語ること少なきクソみたいな人生だ。

 今では無精ひげが生え、髪もボサボサ。

 来年は30歳。もはや溜息しか出ない。

 この歳になると両親も諦めたのか、昔のように口酸っぱく小言を言うこともなくなっていた。

 ただただ俺の現状を哀れ悲しんでいた。

 俺はブサメンの上、親不幸な最低なクズ野郎になり下がっていた。


 本来なら家から一歩も出たくないのだが、そうも言ってられない。

 俺は今、両親の墓前に添える花を買うため花屋に立ち寄った。

 レジに運ぶと店員の女性は、何かおぞましいものでも見ているかのような目付き。

 スマイルの欠片もない。


 俺は投げやり気味に突き出された花束を受け取りそそくさと花屋を後にする。

 周囲の視線を気にしながら俺は更に徒歩10分の距離にある両親の墓前へと辿り着いた。

 

 父さん、母さん……

 両親の墓前に花を添え俺は、胸が張り裂けそうな思いで謝罪した。

 一ヶ月ほど前、両親は交通事故で命を落とした。

 一人っ子な俺は何一つ親孝行ができぬまま、天涯孤独となってしまった。

 

 過去の俺にもう少しだけ、ほんのちょっぴりの勇気があれば、もう少しはマトモな人生が送れたかもしれない。


 もしかしたらブサメンの俺でも奇跡的に家庭を築き、家族と呼べる存在がいたかもしれない。

 時間は過去には戻らない。

 一人ぼっちは寂しい。

 もはや後悔しかない。


 心のどこかで俺は死を求めるように帰路、彷徨った。

 だからと言って自殺する勇気すら俺は持ち合わせてない。

 それでも死ねる機会を切望してた。


 神の悪戯なのか悪魔の囁きなのか、わからない。が、その機会は謀らずとも訪れた。

 少女がトラックに轢かれそうになっていた。

 俺は29年の人生を清算するかのように無我夢中で駆けだした。

 

「あ、あぶなっ!!!」


 少女を突き飛ばした瞬間。

 ――――ドガアアアァ、グッ、カハッァ。

 俺の身体はトラックに激突し宙を舞った。

 最後に「ドカッ」っと転げ落ちた。

 意識が薄れゆく俺は死を覚悟した。

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