彼女は親友
織祈
プロローグ
チャイムが鳴って教室から大勢の生徒が雪崩れのように出てくる。わたしは埋もれないようにしっかり鞄を抱きかかえて次の教室へ向かう。急がなくては。焦る気持ちが反対に体の動きを鈍くさせる。
ふと隣を女の子2人が駆けていった。彼女たちのスラリと伸びた美しい足を見て思わずため息が溢れてしまう。
足が悪くなってどれくらい経つだろうか。あんな風に自由に駆けていたころが、惜しげもなく足をさらけ出していたのがひどく遠い記憶のように思えた。
階段を登ろうと一段目に足をかけたところで後ろから声が聞こえた。
「大丈夫?手伝おうか。」
生憎振り返ることはできなかったが、気づかってくれた声は男の子のものだった。
わたしは一瞬思案したが、声をかけられたときの不快感がどうにも拭えずにそのまま首を振った。
「ありがとう。でも大丈夫です。」
そう?と軽く返事をすると男の子はわたしを通りすぎ軽々と階段を上がっていった。
「はぁ…。」
二度目のため息は先ほどより重い。
彼の親切を受けるべきだったかと考える。しかしどうして初対面の、名前も知らないような人に突然あんな馴れ馴れしく話し掛けられなければいけないのか。
優越感とか哀れみを優しさとはき違えるのはやめてほしい。
もう今日はこのまま帰ってしまいたい気分だ。
「帰るのも面倒…」
「え、みっちゃん帰るの?サボり?」
またも後ろから声がかかる。先ほどより数段上がった階段の踊り場でゆっくり振り返ると友人の高本月見がこちらを見上げていた。
「月見ちゃん、おはよう。」
「おはよ!もうお昼過ぎたけどね。で、帰るの?珍しいね。」
ヒールをカツカツと鳴らしながら月見が隣に並ぶ。つい先日切ったばかりの前髪にまだ馴れない。以前より大分幼く見えるようになった。
「帰らないわよ。あなたじゃないんだから。」
少し冗談めかして言えば、ケラケラと月見が笑った。
「みっちゃんたらひどい!わたしそんなに休まないよ。この間はどうしても行きたいライブがあっただけ。1回くらい、許してよ。」
「そうね、わたしが許しても先生は許してくれないかも。」
たしかに、なんて言いながら隣をゆっくり歩いてくれる彼女に、先程感じた不快感はどこかへ消えてしまった。
「ねぇ、急がないとあなたまで遅刻するわ。」
「んー?」
「んーじゃなくて…。」
彼女はまたケラケラと笑った。わたしの些細な心配を、星屑にして身に纏っているようで。少しだけヒールで高くなった顔を見上げて目を細めた。
「どうせ先生も遅刻だよ!」
だからゆっくり行こうと笑う彼女が、わたしの親友だ。
彼女は親友 織祈 @nogii
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