佐藤さんの浮世離れ

天野月葉

第1章

第1話 佐藤さん

 私の趣味は読書だ。なぜ読書が私の趣味になっているのか、その理由は単純なものだ。

 インターネットやスマートフォンといった便利で使い勝手の良い物が溢れかえっているこの世の中、本以前に紙自体に触れる機会が少なくなっているように感じる。

 私は学生であるから、読書が趣味ではなくても紙に触れることは当たり前かのようにそこに存在しているが、電車の中のサラリーマン達は大抵皆スマートフォンに釘付けで、きっと、会社で扱う白黒の紙以外に自分から自ずと紙に触れる機会はそうそうないだろう。テクノポップという音楽で世界の人々を虜にして来たあの音楽プロデューサーや、イケイケな服を来て渋谷を歩いてそうなお兄さんも皆が皆、本を読んでとしたら、私はきっと本を読む事はなかった。けれど、今の日本では本を読む人は少し珍しい、または、賢そうだと思われる。(勿論、例外もあるが )だから、私は本を読む。

 電車の中で女子校生の象徴であるブレザー姿の制服を身にまとい、手作りの薄茶色いブックカバーを被せた本を読んでいるならば、「今時、若い子でも読書好きがいるもんなんだな」と思われる。それこそが私の狙いであり、私の趣味が読書である最もな理由である。

「他人と少しでも違ったことがしてみたい」――。

 そう私が感じていたのはいつ頃からなのだろうか。私は、「佐藤」というそれこそありきたりで当たり障りの無い苗字の下に、「真美」というこれまた無難でどこにでもあるような名前を親から貰った。小学3年生の頃、クラスにちょうど感じは違っても「まみ」という名前を持った女の子は、私を含めて4人いた。私の学年は5クラスもあったのに、なぜそんなに同じ名前の子を同じクラスに配分するんだと幼心に感じていたのを覚えている。私は昔から「普通の子」だったのだ。


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