第34話 ヤス君

 三学期は全校生徒によるお化け屋敷という一大イベントを終えて、あっという間に過ぎて行き、私達生徒会は終わりの時を迎えた。

 三年生を送るのに何かをという抽象的な、相変わらずゴミ箱行きのアンケート用紙の中から見つけ出されたその要望は、毎年三年生は音楽で送るというなんかこの学校の音楽に対するこだわりで打ち砕かれた。顧問もそこはこだわりがあるようなのか誰かの意向なのか。



「つまらない!」


 という本当は一番忙しい橘の要求に榊が答える。


「春休みにも俺の家で勉強会だな」

「宿題もないのに?」


 という私の案は


「宿題だけが勉強じゃないよ」


 という笑顔の柏木に却下された。

 が、ほとんど勉強会じゃなくそれぞれ持ち寄ったゲームでゲーム大会となってるだけなんだけどね。まあ、夏休みも冬休みもこんな感じで終わったんだけど。橘だけクラブに行くので宿題が遅れているので主に榊と柏木がゲームして終わったんだけど。春休みは宿題がないだけゲーム大会に気合が入ってるね三人とも。



 榊の家からの帰りは橘と柏木と一緒に榊と私も家を出てそのままいつものスーパーに買い物い行くか、そのまま玄関を出て柏木君達を見送って、榊の家に私が戻っている。隣の部屋なので不自然じゃないけど、まさかそのまま私が残ってるなんて二人は思ってないだろうというか、そう見せてる。晩御飯は私の当番。昼ごはんが榊だから。榊の家の台所で私が料理したらおかしいんでそうなった。もちろん夏休みも冬休みもこれを続けた。


「じゃあ、また明日な!」

「あ、俺明日からバスケ部!」


 橘は相変わらずハードスケジュールだね。


「じゃあ、またね」

「またな」


 スーパーに向かう曲がり角で柏木達と別れる。




 榊のわがままな要求を却下して私が食べたい食事の食材をカゴに入れるが昼ごはん担当の榊もカゴに食材をいれてくる。結局話合って買い物が終わる。



 マンションの前の道を榊と二人で並んで歩いているのに後ろから誰かに早足で追い越された。その誰かは私達を追い越してそして振り返った。同じ年くらいの男の子だ。


「よお! 久しぶり陸!」

「おお! ヤス! どうしたんだよ。いきなり。来るなら連絡よこせよ」


 じゃれつく二人。それを見る私。どうしよう……もない。私の晩御飯は榊の持ってるスーパーの袋に入ってるし。


「とりあえず上がれよ!」


 榊テンション高いな。前の学校の友達かな。

 と、三人でマンションへ。


「彼女か? 可愛いな!」

「あ、香澄っていうんだ。こっちは友達の田辺ヤスハル」

「どうも」


 彼女かっていう友達の問いにさらってかわしたよね? 今のはどうとでもとれる言い方だった。前の学校の友達には必要ないもんね。私を彼女にする必要が。


「よく後ろからわかったな」

「向かいの道を歩いてたんだよ。お前んとこのマンションどこかわからなくて。前から見たんだけど距離があったから。ほら陸、メガネしてるから自信なくて。陸かどうか確認するために後ろから来たんだよ」

「え? 榊、前はメガネじゃなかったの?」


 驚いて思わず二人の話に入っちゃたよ。


「うん。違うよ。メガネかけてるとこは見たことなかったし、コンタクトだったのか」


 榊、人のメガネをとっといて自分もこの学校に来てからメガネじゃないか!


「二人で買い物して、いいな。一人暮らし満喫してるなお前」

「ヤスも食べてくか?」


 榊ってば相当嬉しいんだな。友達が来てくれて。私はコンビニでも行くか。今さらスーパーに戻る気力ないし。


「いいのか? じゃあ」


 二人とも楽しそう。

 榊の家の玄関の前で榊に別れを告る。


「じゃあ、私はここで」


 コンビニに行くために逆戻りだね。


「香澄も食べてけよ! 晩御飯ないだろ!」


 え? 私も参加するの? ゾロゾロと三人で玄関から榊の家の中に入って行く。

 榊が買った食材をしまい料理をはじめる。さすがに初対面の人に料理を作るのはどうだろうって思ってたから良かった。


「香澄ちゃんって陸と同じ学校?」

「あ、うん」

「陸、モテるから大変だろ?」

「あ、いや、まあ」


 なんと答えたらいいの? 確かにあの投票以来一度はなくなった朝の黄色い声は続いてる。私が横にいるのに。


「ヤス! 質問攻めするな。それに、香澄の方がモテるから」

「そうだな。可愛いもんな」

「いや、モテてない!」


 勝手に人をモテさすな。




 ヤス君は親戚の家に用事があって、それが榊の住所の近くだったのでサプライズで寄ったらしい。サプライズすぎるよヤス君。




「出来たぞ!」


 榊の声を合図に榊の作った料理をテーブルに運ぶ。食卓テーブルは二人用なので使えないから、いつもはゲーム機が乗っているテーブルに料理が並ぶ。

 ヤス君の悪気はなんだろうけど、困ってしまう質問に答えるのには参ったよ。私はどう対応したらいいのか。


 そうだ、質問攻めには質問で返そう。


「榊って金髪だったんだよね? ケンカばっかりして」

「え? 陸が? 黒、いや茶髪程度だったけど。今みたいに真っ黒じゃないし、メガネはしてなかったけど。ケンカも知らないよ。ってか、お前がケンカしたらダメだろ!」

「あ、もう香澄何聞いてるんだよ! ヤス言うなよ」


 榊かなり慌ててるけど、ケンカはダメだろって?

 私の期待を裏切らずおしゃべりみたい。ヤス君は。


「こいつ剣道もやってるし、合気道も確か柔道もしてたよな?」


 ……ケンカ反則だな。それは。それで傷なんてほとんどなく大人数とケンカできたのね。


「少しだ」

「クラブには入らなかったんだ」


 橘より酷いよ。生徒会長なったのその為?


「剣道も柔道も嫌なんだよ。同じ帰宅部やってる香澄に言われたくないね」

「そ、それはそうだけど」


 そんな感じで、榊を困らせる人物、第二号ヤス君に榊は慌ててる。榊はヤス君にどんなに困らせられても追い出さない。お姉さんとは違って追い出すこともできない、したくないから。


 食器を洗ってるとまたじゃれ合う二人。ヤス君は榊の金髪になる前の学校の友達だったんだね。学校も家も居づらくなったんだから、あれだけ仲良くできる友達がいるなら金髪にしてケンカしていないか。



 食器も洗い終わったんでソファーに腰掛けて二人を見守る。


「香澄ちゃんとは仲いいな! サオリちゃんの時とは大違いだな」


 サオリ?


「おい! ヤス!」

「あ、ごめん! ついうっかり。マジでごめん!」


 ヤス君は手を合わせて真剣に榊に謝ってる。そのヤス君の真剣な表情で本当に彼女だったサオリという子に嫉妬する私。サオリという子は私と違ってフェイクじゃない彼女だったんだ。


「あ、その私もう帰るね。遅いし」


 いつもより早いけど、このままここにいられない。気持ちが頭がごちゃごちゃしてきた。


「や、あの俺が帰るな。陸ご馳走さま。相変わらず料理美味いな。香澄ちゃんごめんね。あの、邪魔して。じゃあ、行くわ!」


 矢継ぎ早に言葉をつないで玄関へと向かうヤス君。それを見送りに榊が玄関に向かう。


「じゃあ、またな。今度は連絡して来るから」

「最初からそうしろ! ヤス!」

「またな」

「ああ、また」


 少し間があり、玄関のドアが開いて閉まる音が響く。

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