第10話 反則?

 

「ふーん。いい男って感じだけど、タイプじゃないんだ」

「そうだね」


 私はさっき自分が口にした言葉を思い出す。榊は強引だけど強制的だけど逃げれなかった事など一度もない。足掻くことも抵抗することもいつでもできた。ただ私がしなかっただけ。


 桐山は怖かった。だから先手を打って別れようとした。別れることが出来なくって二人きりになるのを避けた。キスを強引にされようとして何度も桐山を引っ叩いてたな。


 だから、さっきの私の無抵抗、いやそれ以上に榊を受け入れてる私を見て桐山はショックだったんだろう。桐山と私が付き合ってたって言葉は今になると嘘だったってわかる。


 メガネをしてても三つ編みしてても私はまた同じ間違いをしてたのかも、榊がいなかったら。


「無口だな。やり過ぎた? 痛い?」

「痛い! 冷やし過ぎ!! 凍るよ」


 榊は大げさに冷やしたからかえって赤くなった私の腕を今度はさすって温めてる。本当に読めない奴。


「大丈夫。そこまでしなくったって」

「いや、だって夕飯が」


 バコッ


「痛て!」


 榊の肩を叩く。


「そこの心配? もう!」

「香澄の腕前が心配になってきた……料理作れるの大丈夫?」


 榊の心配の焦点が完全にズレてるよ。


「さあね」

「なんでボヤかすんだよ」

「さあね」



 なんてどうでもいいやり取りを続けて榊は料理してる私を見張る。なんだよ、トボけたらやらなくていいかと思ったのに!


「ウマッ!意外に」


 榊の私の料理を食べての感想。榊! 最後の言葉が余計だし。


 洗い物が終わって……昨日榊が料理したから私が無条件で洗い物だと思ってやってたけど、なんで今日も私なのよ。また榊はゲームしてるし。


「ちょっと、榊! 洗い物はあんたの番でしょ!」

「え!? いや、今いいとこなんだ。」

「何のいいとこよ!!」


 洗い物が終わったんでゲームしてソファーに座ってる榊の後ろに回り、こちょばしてやろうと思って回ったのに、榊の背中を見て私は榊に抱きついてた。あれ? なにしてる? 私。


「お前それ反則!」


 なぜか、ゲームオーバーの音が流れる。ん? 何が反則? さっと榊から離れる。

 あー、榊の顔見たら自分がした事を思うと顔が熱くなる。見れないよ。


「あ、じゃあ、帰るね」

「あ、うん。また明日」


 なぜか、榊も振り向かない。別にゲームをはじめてるわけじゃない。後ろ姿のまま手を振っている。

 カバンを持って玄関へと行く。何が反則?


「じゃあ、明日」


 奥のリビングにいる榊に声をかける。


「うん」


 という榊の声が奥から聞こえてきた。

 榊の家を出て自分の家の玄関の鍵を開けてたら隣のドアが少しあいて手だけがドアから出て振ってる。

 少し考えて私はその手の方に行きその手をそっとつかむ。握られた榊の手は少し驚いたようだったけど、ドアが開いた。

 気づけば私は榊の腕の中にいる。なんだろう。後姿を見たまま帰れないって思ったらこうなってる。榊って本当にわからない奴。

 そのまま私に優しいキスをして、なんか榊は考えてる。


「玄関の鍵、もう開けた?」

「あ!? うん。そうだ。じゃあ、帰るね」

「うん。ああ」



 そうして私は部屋に帰った。

 榊はさっき何考えてたんだろう?

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