生徒会長は隣のメガネ君
日向ナツ
第1話 面白い?
飲み物もなくなった。いい加減食べ物もない。
ファーストフード店で、一時間も一人で時間を潰せたのは、この店の二階の窓から見える彼の観察で時間を潰せたからだろう。
私はさっきから返事の全く来ない携帯をテーブルの上からカバンの中にしまい、ファーストフード店を出る。そして、ずっと観察していた彼の元へ行った。
普段なら見知らぬ男に声をかけたりしない。だけど、返事の来ない携帯のせいなのか、その相手のせいなのか、いろんなことが重なったせいなのか……私は吸い寄せられるように、ガードレールにもたれて立っている彼の元へ行った。
彼の目の前で私は、彼のもたれたガードレールに足を上げ、ガードレールに足を着く。
ガン
すらりとした鼻筋に先ほどとは違う色に光る瞳の彼は、面白い物を見るように私を見る。
「ねえ、さっきからやってる、それって面白いの?」
彼に話かける私。
「それって?」
「ケンカするの」
「憂さ晴らし? 暇潰しかな? 俺のこと見てたの?」
上から何気なく彼を見ていた。背は高いけれど華奢な体つきの割に、か弱いわけではなさそうだっだ。最初は待ち合わせかな? と思って見ていたら、どう見てもガラの悪い連中に絡まれてる。そして、どこかへ消えて行く。大人数相手にと心配したれど、彼はすぐに帰って来て、この場所に戻ってくる。そして、また絡まれて消えては戻る、をこの一時間繰り返していた。
「あそこから見えてたの」
私はさっきまで自分がいたファーストフード店の二階を指差した。
「ふーん」
「やめたら?」
何が楽しくてしてるのか、彼には目的もなさそうだった。
「うーん。そうだな。じゃあ君と」
と、私の腕をつかんで彼は歩き始めた。
「え?」
予想外な展開について行けず、彼について行く私。
ダメって、思うけど足は勝手に動いて彼について行く。
いやいや、ダメでしょ! マンションの玄関を入って行く私と彼。あれ? でも、彼はどう見ても私と同い年ぐらい。高校生だよね。改めて近くで見ると日焼けした肌に真っ黒な髪に色の薄い瞳の整った顔をしている。家って誰かいるよね? 何なのこれは?
心では多弁な私なのに、さっきから一言も言葉が出ない。彼も無言で私を連れて行く。
エレベーターが来て乗ってしまった。どうしよう。
私の心の焦りなど関係なく九階に着いてしまった。
ポーン
と、音がなり静かにエレベーターの扉が開く。
ああ、ダメって私。彼は無言で廊下を歩く。そして、手を引かれてついて行く私。
そして、彼は立ち止まる。無意識に表札をみると『榊』と書いてる。
と、そこに私の携帯の音が鳴った。
出たくない相手だとは思うけど今はこれがチャンス!!
彼の手を振りほどいて携帯に出る。実際、彼の手は振りほどくほどキツく私の腕を握っていなかった。いつでも離せたのに。
とにかく、カバンの中の携帯を取り出し電話に出る。やっぱり、あいつか。
「はい」
『あ、香澄! ごめん! 今、向かってる!』
遅い。遅すぎだよ。一時間も待ってるんですが。
「もういないよ」
『あー、そうだよね。遅いよね。また、別の日でもいい?』
こいつはまだ言い訳する気なのか?
「もういいよ。言い訳しても。もう、転校してるんだし。彼女と上手くやれば?」
『違うんだよ。あの日も買い物行ったらあいつが来て……付きまとわれてただけなんだ。今日もあいつに捕まってて。香澄、俺は別れる気はないんだ!』
「私は別れる気だから。ああ、彼女の事がなくてもね。私の事は気にせずお幸せに」
『いや、本当に違うんだって』
「じゃあ、彼女のこと抜きでも、私そんなに好きじゃなかったの。気づいてるでしょ? だから終わり」
と、私と多分走ってしゃべっていたから、声が自然と大音量な元彼とのやり取りが聞こえたんだろう彼、榊が私の携帯を奪った。
「ちょ、ちょっと!」
という、私の声を無視して、榊は携帯に話しはじめる。
「カスミは俺がもらったんで、ちょっかい出すのやめてくれる?」
「ちょっと! 何を言って……」
電話の向こう側からも
『お前誰だよ?』
って、声が聞こえる。かなり大音量になっている元彼の声。それじゃあ会話が丸聞こえだよ。
「榊リク。じゃあ、俺たち忙しいから」
と、言って勝手に電話を切った。どういう奴なんだよ、榊リク!
「なに勝手に人の携帯切ってるの?」
「困ってたんだろ? それとも本当は別れる気はなかった?」
「あった。っていうか、私は別れてるつもりだったの」
そう、もう終わってる。学校も違い距離も離れた。付き合ってた時もそこまで好きではなかった。いや、そこまでじゃない本当に好きではなかった。なんとなく告白されて付き合ったが、すぐに気づいた。好きではないし、そういう気持ちにはなれないと。
元彼に告げてみたが、気が変わるかもと言われて惰性で一ヶ月付き合った。
父の転勤話が出たので元彼に告げたら、すぐにさっきの彼女とデートしてると噂話が私の耳に入って来た。私は、どうせそんな付き合いだったから気にもしなかったけど、せめてきっちり私と別れてると宣言してからにして欲しかった。外野がうるさくてたまらなかったから。
転校してホッとしていたところに、元彼からの電話だった。どうしても話がしたいと言われたし、わざわざここまで来ると言ってるし、いいかまだ暇だしと待ち合わせ場所に行ったら……まあ、こうなってしまった。
「じゃあ、いいじゃない」
確かに、助かったけどね。元彼の言い訳なんて聞いても意味ないから。あいつを好きだったら違うだろうけど。
「あ、うん。じゃあ! 私、帰るわ。遅いし」
強引だけどここしかチャンスはない。エレベーターに向かって歩き出した私を榊は引っ張り玄関の扉の前に引き戻した。
ドン
と玄関のドアに背を当てて、榊陸と向き合ってる私の肩の真横に両手をつかれた。
「面白いことは? カスミ」
なんで名前いきなり呼び捨てなの? と、それよりもこの状況……って考えてたら、榊の顔が近づいてきた。綺麗な顔してる。少し唇の端が切れている。さっきのケンカの時のものかな。整った唇……って、そのままキスをされた! なんでいきなりそんなこと!! 唇はすっと離れた。そして、
「あれ?」
「なに?」
なんなの人にキスしといて、あれ? って。
「した事なかった? キス」
「………」
「さっきの彼氏だよね。元の彼とは……」
「う、うるさい。したくなかったの」
そう、そいういうことをしたくなくて、そういう場面を避けていた。ずっと。だから彼は気づいてるはずなのに、まだ何か言いたいんだって、今日あそこで待ってたのに。
「ふーん。俺には無抵抗だったのにな」
そう、なぜか抵抗しなかった。してもいいのに、できたのに、しなかったのは………なんでなんだろう。
「と、とにかく榊は自分で面白い事を見つけて! 私を巻き込まないで! これ以上遅いと本当に怒られるし、じゃあ!」
また。という言葉は飲み込んだ。榊リクとの間にまたは、存在しない。
私はしゃがみ、榊の体と玄関についた彼の手の間を抜け出して、エレベーターに向かう。
「そうか。じゃあな。カスミ」
私は彼の言葉には振り返らずに廊下を進む。
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