第二話 消された記憶(下)

(壱)


 人生で最初の別れ、それは母との別れだった。

 母は三番目の弟を月足らずで産み落とした後、血の海のなかで死んだ。父は留守だった。泣き叫ぶ弟たちをなだめて早馬で父にこのことを知らせる手配をしたのは、十歳になるかならないかのイルラギースだった。

 生まれてきた子も弱々しかった。その三日目の朝、揺り椅子に座ったまま眠る乳母の腕の中で、少しずつ蒼白になっていく嬰児みどりごを少年は見つめていた。


 行っては、だめだ。


 そう少年が声をかけようとしたとき、母の幻が現れた。

 「イルラギース。この子は私のものよ。邪魔をしないで」

 赤子と同じように血の気のうすい蒼白な顔をした女は、生きているときと同じような冷淡さで言った。そして、赤子の命を乳母の腕から抱き取るとそのままかき消えてしまった。


 結局父が戻ってきたのは、二月も後のことだった。その宇宙の蒼茫そうぼうに通じる深青色の瞳は、平素から夢の奥深くに沈んでいるため、果たして悲しみの色をたたえていたかもわからなかった。


 下の弟たちはイルラギースのことを当時から厳格な家長として敬遠していたが、不在を続ける父にはよく懐いていた。

 たまに父が帰宅すると、その空白の期間を埋めるように、思い切り飛びついていった。そんな彼らをイルラギースは冷ややかに見ていた。そんな可愛げのないところが、父の信奉者であるファーセルには気に入らなかったのだろう。


 彼が十四歳のとき、その死にかけた少年は連れられてきた。

 ダール・ヴィエーラで戦乱があった。

 谷の主要な民の連合軍に、ケスという名のちいさな部族の邑城は破壊しつくされ、草木一本残らぬほどの焦土と化した。

 かろうじて生き延びたのは、少年と彼より小さな少女のふたりだけ。むごたらしくも、生きながら鎖につながれ致死光線のもとに晒されていたという。そのうちの少年の方が、何故かリザイツェオーン家の印のある短剣を手にしていたという。吊りあがった目の皇妃は、剣の由来を質した。

 たまたま在宅していた父がその少年を紛れもない自らの息子と認めたので、少年はこの館に引き取られることになった。だが、当の父は瀕死の我が子を一瞥しただけですぐ谷へ出立しまった。戦乱のあとを自らの目で確かめるといって。

 イルラギースは、その少年を見てすぐに死ぬだろうと思った。脱水がひどく皮膚がただれていた。太陽風にあたってそのような状態になれば、まず助からないと言われていた。


 タルクノエム一の名医を呼んだが、案の定手の施しようがなかった。

 「ひとつ吉報があるとすれば、」

 サイラスに遊学経験のある老医師は語った。

 「彼は、おそらくヌークではないことです。我らの身体に共生するちいさき神々は、太陽光線に著しく弱い。このような光を浴びれば死滅してしまうでしょう。彼らが死ねば、やがて宿主しゅくしゅたる我々も死ぬ。彼には少なくともその兆候はみられません。はじめから、ちいさき神々が存在しないのです」

 ちいさき神々は親から子へと伝わる。ヌークが男親でも女親でも、生まれる子は必ずヌークになる。そのことはイルラギースも知っていた。タルクノエムは、この虚しい事実を実証するための巨大な実験場だったのだから。

 「どういうことだ。我らの血は流れていないのか」

 「さぁ、なんとも言えませんが、おそらく彼の一族は、様々な生命の特性が継ぎ接ぎされたキメラの家系。そのような者たちの噂をサイラスで耳にしたことがあります。太古、人のかたちをした兵器がつくられ、惑星ひとつを滅ぼす力があったと。いまだそのような太古のテクノロジーがこの星の残っていたとは。おそらく、血潮にはちいさき神々への抗体が潜んでいるのでしょう」


 理解しがたい、寒々しい話だった。


 去り際に医師はささやいた。

 たとえヌークではなくとも、陽に焼かれたものは、一度良くなったようにみえても確実に生命の源を焼き尽くされている。いつ不幸な転帰が訪れるか誰にも予測がつかない。彼の種族に驚異的な修復力があるなら別だが、今のところそう判断できる材料はない、と。


 イルラギースは、少年の眠る前に座った。少年には彼の家系と似たところはなかった。まるで異質の顔立ちをしていた。ただ、その柔らかな頬を縁取る黒い巻き毛だけが父から引き継いだものと思われた。少年の母は、その部族の王女だったという。気の毒にも、当てにならぬ父の戯れ言を信じたのだろう。


 少年の名前はイムナン・サ・リと言った。

 まだ、タルクノエムが王制を敷いていた頃の古代の王の名。リザイツェオーン家の始祖の名でもある。そして信じられないことに、死んだ弟、イルラギースが最期を看取った赤子と同じ名前だった。

 父のいい加減さが腹立たしかった。一方で、なんらかの確信がなければその名を軽々しく与えぬことも解っていた。それ以上のことは知りようがなかったし、知る必要のないこととわきまえていた。そして、その出生の不確定さが、自分が何ものであるかとの問いが、やがて内部から少年を破滅に導くことも予見し得なかった。

 あの赤子は母が連れて行ってしまったが、この少年は数多の死せる魂から呼びつけられているのだろう。暗い闇の彼方へ。荒涼たる死の世界へ。


 「こちらだ。イムナン・サ・リ」

 イルラギースは少年に声をかけた。

 「光はこちらだ。お前の住む世界はここだ。明るい方へ来い」


 兄の声に導かれるように、少年は目を覚ました。イルラギースはその奇跡に驚くよりも、母を恋うこともない少年の蒼黒の瞳が底知れぬ闇に沈んでいることが気がかりだった。

 目覚めても、やがて起きられるようになっても、イムナン・サ・リは言葉を発しなかった。それでも、半年ちかくたって彼の赤くただれた肌がピンク色になりやがて白さを取り戻したとき、イルラギースは安心した。食はもともと細いのか、世話係が手を尽くして消化に良さそうなやわらかいものを供するのだが、あまり受けつけなかった。

 

 少年があわれだった。

 イルラギースは眠る少年の顔をみつめていた。やがて少年がぼんやりと目を開けた。黒い瞳がイルラギースをのぞき込んだ。そのとき、あの声が初めて聞こえた。


 声はいつまでも消えなかった。

 それはイルラギースの日常をおびやかした。それはギリギリとした強い頭痛をともなって、突然脳裏に押し入ってくる。

 初めは自分がどこかおかしいのかと思った。だが、歪んだ空間のなかで彼と少年の精神は確かに同調していた。少年の鼓動をつよく感じ、その脳波がうねりとなって彼をとらえた。


 (助けて)

 (お願いだから、僕をあの怪物から助けて)


 「いい加減にやめろ」

 一両日中に仕上げてしまわなければならない課題を負っていたイルラギースは、衝動的に卓上の黒い縞瑪瑙の文鎮を異母弟に投げつけた。ねらったつもりはなかったが、運悪く床にぺたりと座り込んでいた少年の額に当たった。傷口からは血が流れた。目を離すのが不安だったので、仕方なく図書室に連れてきていたのだ。

 イルラギースは少年のもとにかがんで血の滴りをふき取りながら、声すらあげぬ少年の顎に指をそえて顔をあげさせた。暗い瞳が彼を見あげた。

 「悪かったな。だが、なんでお前もよけないのだ」

 そう言われても、イムナン・サ・リはただ目を伏せるばかりだった。イルラギースは思わず彼の胸座をつかんだ。

 「おい、お前は唖者あしゃなのか。何故話さないのか」

 その手を強く揺すると、びっくりしたように少年は彼を見た。

 「返事をしろ」

 「……はい」

 かすかな声で少年は答えた。

 「話せるじゃないか」

 イルラギースの目が少し穏やかになった。

 「いいか。お前の故郷はもうない。お前の家はここだ。タルクノエムだ。タルクノエムにはタルクノエムの掟がある」

 この幼い少年にどこまで通じたものかと彼はその面を覗いてみたが、その漆黒の瞳はあくまで虚ろで焦点の合わない状態だった。

 「お前の力は使うな。言いたいことがあるなら、ちゃんと話してみろ」

 「はい」

 そう言って少年はうつむいた。

 「よし。私の邪魔をしなければ、ここにいていい」


 以来、図書室がイムナン・サ・リの居場所になった。イルラギースが不在のときでもこの部屋で過ごした。何千もの蔵書とともに。

 繊細に型押しされた革張りの古色を帯びた扉を開くと、そのひとつひとつが鱗粉きらのように鮮やかにおどる挿画や装飾文字が現れて、彼の心を魅了するのだった。


 しかし、安住の地を得ても、イムナン・サ・リの精神は癒されなかった。身体が自由になるにつれて、彼の心は退行していった。目に見えぬ怪物におびえて、些細なことで泣き叫び、夜中に何度も目覚めた。

 きつく叱ると、ふらふらと外へ出てしまった。

 何区画も離れた貯水タンクのそばで蹲って泣く少年をみつけたとき、イルラギースは決意した。

 彼が一番落ち着く場所、リザイツェオーン家の図書室で、彼は少年に向き合った。

 少年の頬を両手ではさんで、額に額を押しつけた。


 さあ、おまえの悪夢を見せてみろ。お前を脅かす怪物は何ものなのだ。


 イルラギースの心象に、紅い谷の光景が浮かぶ。

 月なき闇夜。

 炬火を翳す黒き瞳の民の輪。人と炎のむっとするいきれ。

熱狂が支配する大地。


 その輪の中心に、円い岩の台座うてながあった。

 そして、日輪を模した円環が刻まれたなかには、若くうつくしい男がわだかま大蛇おろちのように座していた。


 面紗ヴェールから零れる漆黒の髪は、炎を映して濡色ぬれいろの光沢を帯び、吸い込まれるような黒い瞳は、きらめく黒のシャドウで縁取られていた。

 みごとにすんなりと伸びた四肢。うつくしい鎖骨のしたの幅広のしなやかな胸筋は男性的だったが、ナイフでそぎ落とされたかのような造形美をもつウエストは並の女たちよりほっそりとしていた。

 その白い素肌に宝石がちりばめられた銀の鎖帷子くさりかたびらまとい、腰には日輪が象られた宝剣を帯びていた。


 アンドロギュノスなのか。その両性的な姿態は、血だまりに咲き匂う妖花にも似て、あらゆる者の薄暗い官能を呼び覚ます。

 男の放つ強烈な魔力の前に、人々はただ忘我の境をさまよう。


 ズールムンデ。くらき日の御子よ。我らが導き主。


 歓呼の声が聞こえる。

 炎が大きく爆ぜると、生ける偶像の相貌をはっきりと映し出した。その魂の内側までも深く。


 その素顔に浮かぶものは、慈愛とはほど遠い。

 冷たい憎悪の光が宿された双眸、薄く紅い唇に張り付いた淫虐いんぎゃくなる微笑ほほえみ。額のあたりに漂う醒めた知性は、あくまで冷徹で、静かに狂気を孕む。なによりも、良心の欠損と引き替えに、その挙止ひとつで人心を意のままに操ることのできる禍々しい神性を魂のうちに宿していた。

 その孤独でゆがんだ魂のなかで、ふつふつと涌き起こる怒りと憎悪の念は、冷血と背徳の相を帯びて強く輝き、見るものを惹きつけてやまない。

 愛の代わりに畏怖と渇望かつぼうを与えるうつくしい半神デミゴッド

 人ならざる危険な能力を持つ美貌のサイコパス。


 その男、ケスの魔王ズールムンデは、邪悪そのものだった。


 やがて、生贄にえがつれられてきた。絶望で身も心も麻痺したその男は、ヌークのいずれかの部族の戦士だった。王は、ゆっくりとその右手めてを男の左胸に押しあてた。

 その刹那。

 よ、いかなる魔術をもちいたのか、その手は血にまみれ、贄のまだ動く心臓が握られている。

 やがて、鎌首を起こすように強くしなやかな肢体を伸ばすと、美貌の男はすっくりと立ち上がる。

 天の虚空へ向かって言葉ならぬ叫声を放ちながら、掌のなかのあたたかな供物を高く掲げると、信奉者たちの歓声が大地を揺るがす。


 円座のうえで男は廻る。廻りながら、のたくる。のたくるのは蛇。闇の蛇。蛇はのたくる。のたくるように、踊る。かかげた右手めてを固く握りしめながら、鮮血のシャワーを浴びて。


 その強健な胸板を打ち震わせるたびに、鎖帷子くさりかたびらの鱗がぬらりとひかり、その優艶な細腰をくねらすたびに、宝剣がけだるくゆれる。欲望のうねりのなかで、王位の標章レガリアは官能の輝きを帯びて闇のなかできらめく。


 トランスの海のなかに溺れ、溺れながらおよぐ。ゆらめく火影がその姿態を照らすたびに、その性質を変幻自在に変えながら。ジェンダーの枠すら超えて、倒錯者の魂は聖と卑の混流こんりゅうを、相反するもののあいだをうつろう。―――王と女王、乙女と淫婦、幼な子と老婆、英雄と怪物。


 妖艶なる双面ふたおもての神が舞奏でるのは、華麗にして幽玄なるコスミック・ダンス。あらゆる官能を知り尽くした肉体のうちに愛にかつえた宇宙が踊り、いまや魂と置き換わった暗黒の虚空に見るものをいざなう。純然たる悪の具現者として。


 堕罪だざいの大地よ、わななけ。

 このしたたる血潮を呼び水として、その胎中に潜ませた千の毒を解放せよ。

 暗れ惑う魂よ、その深潭に潜む暗き欲望に身を任せるがいい。

 その脆弱なる肉体を残虐な歓びに満たしながら。

 やがて消えゆく細胞のひとつひとつまでも。


 脳裏に響き渡る男の啓示けいじに応えるかのように、無数の手が、拡げられた指が、それ自体がひとつの生きもののように、彼の栄光を、その獣性を秘めた聖性をつかもうとのびる。

 円環状の触手が、その中心へとのびて、ゆれて、もがいて、うねる。熱狂の、陶酔の、歓喜の、あらゆる欲望の熱に浮かされて。いまや、ひとつの意識でむすばれる。感情の波浪が激しく波打ち、あえいで、渦巻き、極限まで高まり、やがて歓喜にむせび泣く魂は終局へと向かうだろう。


 醜悪であり、崇高でもあるムーヴメントがつづくその時。

 うつくしい邪神まがつかみの瞳が、やがて、人陰に隠れて怯えるひとりの少年をとらえた。

 男は、薄い唇を吊りあげてあでやかに笑うと、額の見えざる第三の眼がひらいた。


 そのとたん、今まで感じたことのない恐怖の波がイルラギースを襲い、幼い少年が抱える闇に戦慄した。

 しばらく思案した彼は、霧の谷の予言者、ポーメリアンの導師キシアン・ナージを呼び出す手配をした。


(弐)


 「これは、父上をもしのぐ良い眼をしておられる」

 キシアン・ナージは、イルラギースに会うなりその聡明な瞳に見入った。

 予言者は、目深にかぶったフードの奥でにやりと笑った。口許の好色さがあらわになり、少年の回想のなかのズールムンデとは別種の悪が垣間見えた。

 サイラス人という噂もあるこの快楽主義者は、様々な薬物をもちいて自在に人の心を操るという。ポーメリアンの谷間で少数の信奉者と隠遁生活を送っていた。


 「少年の記憶を消すことは可能です。だが、父上は賛同されるかな」

 予言者は、若者が素っ気ないほどに理路整然と語る奇譚を黙聴もくちょうすると、フードの向こうから探るように聞き糾した。 

 「父は、関係ない。お前の雇い主は私だ。私の言うとおりにすれば良い」

 「ならば、対価はどうされるおつもりか」

 「多少の金と母から引き継いだ宝石類がある。不服か」

 不快さと苛立ちを呑み込みながら、イルラギースは答えた。

 「対価は、あなた自身でお支払いいただきたいと言ったらどうします」

 一瞬の間をおいて、預言者の言葉の正確な意味をとらえると、イルラギースは眉ひとつ動かさずに答えた。

 「よかろう。好きにするがいい。ただし、こちらの望む結果が得られてからだ」

 「ふふ、これは潔いお方だ。だが、冷たい人形のごときあなたを抱いても何の愉しみも得られない」

 預言者は、貌にかかる覆いを払いのけた。思いもかけない颯爽たる青年の表情があらわれた。整った顔立ちを覆う髪は雪のような白金色プラチナ。目の周りを蛮族の戦士のように大青ウォードで染めていたが、瞳孔の奥に輝板のないうすい水色の瞳がのぞいていた。やはりコーダなのか。

 「あなたの決意のほどを知りたかっただけです。あなたの父上には借りがありますし、ケスの双生児ズールムンデとファラミスには因縁もある。無償で引き受けさせていただきましょう」


 「ただし、」

 預言者は続けた。

 「どれほど痛ましかろうが、その傷を克服することで彼の運命が開けるのです。その記憶を消すということは、超えるべき試練を彼から奪うことになる」

 「かまわぬ。それが、あれの望みだろう」

 「もうひとつ、脆弱な魂のままでは、彼の能力は大きすぎます。器からあふれ出て、彼を破滅させましょう」

 預言者は澄んだ瞳で、イルラギースをみつめた。

 「その力を消すことができるのか」

 「ええ、できます。ですが、それは私の仕事ではありません。力を奪うのは、あなたです。あなたのなかで、新しい力となる。あなたにはそれができる。彼から奪った能力で自分を見失わない強さもある」

 イルラギースは、初めて困惑の表情をうかべた。

 「どのようにすれば良いのか」

 「あなたが彼の心を覗いたように、彼の魂からあふれる力を受け止めれば良いのです」


 イルラギースは、そこで追憶を中断した。戯れに、壁際の棚に手をのばすと、飾られた宝剣がカタカタと鳴り、その手に飛び込んできた。

 あの時の力は健在か。

 イルラギースは、苦々しく笑った。

 近い将来、イムナン・サ・リと相対する日が来るだろう。おそらく敵同士として。

 お前とこの力で戦うことになるとは思わなかったが。

 お前に会える日が楽しみだ。お前が、かつて幼いお前を虐げた男、ズールムンデのような怪物に成りはてたのか、見極めてやろう。


 あの日、去り際に残された、キシアン・ナージの言葉を思い出した。

 「あなたは、予言者もうらやむほどの炯眼けいがんと清浄な魂をお持ちだ。これからも思うままにお進みなさい」

 予言者は、にっこりと微笑むとそう断言した。

 「彼もあなたに出会えて救われたことでしょう。だが、あなた方は違いすぎる。彼があなたを理解することはない。どれほど心を尽くそうとも、あなたの慈愛は、薄ら雪のように彼を覆い、凍えさせるだけでしょう」

 少年が出奔したとき、イルラギースは予言者の残した言葉を真に理解した。

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