4Cuts
赤黒96
第1話 プロローグ
赤。切れる音。まどろみの誘惑。僕は、静かに目を閉じてその感触と微かに聞こえる髪の落ちる音を楽しむ。出来るかぎりの 感覚を研ぎすまし、微細漏らさずに感じようとする。一瞬の静寂。薄目を開けると、どこか情けない様子で座ったままの僕が 映っている。全身鏡。夏の光がまっすぐに入りこんでいるかのような明るい店内。そこの中央のイスに座り、その横で僕の頭と まさに格闘している、その人が映る。けれどもその人の手は格闘とは正反対の繊細さで、僕の髪に少しずつはさみを入れてい く。鈍色の赤いはさみ。その人の白く細い指が、いっそうその赤さを際立たせる。それが美容師に不似合いかどうか、僕にはわ からない。ただその人はいつも赤いはさみを使い、伸ばし放題だった僕の髪の毛を切り、切られた髪の毛はばさばさと床に落ち ていく。まるで何かの儀式のようにゆっくりと流れる時間、僕を安心させてくれる時間。光のまぶしさのなか、僕はいつものよう に安心を確かめてから、もう一度、軽く目を閉じる。
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