ブレイブウィッチーズPrequel/著:築地 俊彦

角川スニーカー文庫

プロローグ


 それは一九三九年にさかのぼる。


 どこからともなく出現し、空と大地を覆い尽くした異形の存在によって、欧州は一斉に攻撃を受けた。どんな生態をして、どんな目的があって攻撃してくるのかはまるで分からない。ただ人間と見れば無差別に攻撃するこの存在はネウロイと呼ばれている。


 ネウロイが人類に全面攻撃をふっかけたのは一九一四年に続き二回目。あのときは信じられない損害と信じられない戦費をもたらした。なので今度は人類も準備をしていたのだが、厄介なことにネウロイは奇襲効果と電撃的な進軍という手段を会得しており、数も人類の想定よりずっと上回っていた。

 戦争の天秤は相手の予測を裏切る側に傾くと相場が決まっている。人類の用意していた兵器群はネウロイの大軍に後から後から飲み込まれ、気づいたら欧州は過半がその支配下に置かれた。

 ネウロイの攻撃は欧州からアジアにまたがる大国、オラーシャ帝国にも及ぶ。この国は広大な国土とそれにふさわしい人口を擁しているのだが、戦いはやはりネウロイが優勢だった。国土の西半分はなすすべもなく蹂躙され、帝国第二の都市ペテルブルグにもその矛先は向っていた。

 ペテルブルグは帝国皇帝ピョートルが先頭に立って作りあげられた大都市だ。交易、産業の要衝要衝として繁栄を続けていた。この地を手放すことはオラーシャにとって大打撃となりうる。住民は半狂乱になりながら陸路と海路を使って避難し、軍はネウロイの矛先を鈍らせるのがせいぜいといった有様だった。


 だが陥落寸前、全てをなげうった反撃によってネウロイは撃退される。この反撃の中核となったのが、武器を手にした少女たちである。ストライカーユニットと呼ばれる魔法力を増大する装置を身につけ、縦横無尽に飛び回り、ネウロイを倒していったのだ。


 彼女たちこそがウィッチ。ネウロイに対抗できる、ほとんど唯一の存在だ。


 ウィッチたちの活躍でペテルブルグは踏みとどまった。さらに各国政府と軍は、オラーシャ解放とネウロイ殲滅のために、多くのウィッチを集結させ、反撃作戦を実施する。だが前線補給の困難から作戦は中止。激戦を繰り広げたウィッチたちも帰還した。


 その後人類による反攻作戦の中心はブリタニア方面に移行する。ペテルブルグは二次的な立場に置かれることとなり、新聞などで触れられることも少なくなった。

 それでもネウロイに屈したわけではない。異形の物に蹂躙された大地を取り戻すために、人類は爪を研ぎはじめた。やがておこなわれるはずの大規模な反攻作戦のため、少女ウィッチたちは再びペテルブルグに集められようとしていた。

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