僕のつまらない人生は一体なんだったのだろうか?

シゲ

第1話 小学校時代①ー1(父、母との思い出)

                  

「お父さん、お父さん・・・」

病室に家族全員の悲鳴にも近い泣き声が響いていた。・・・


私の父は、私が小学校6年生の時に胃がんで亡くなった。

私には家族がたくさんいた。お兄ちゃんが三人、お姉ちゃんが一人、妹が一人、

一番上のお兄ちゃんには奥さんがいて、二人の間には子供が三人いた。そして母親と私の合計十一人が一斉に病室にいてその時は全員が泣き叫んでいた。


私の家は相模原市にあり、自分で言うのも変だが、とても裕福な家だった。

父親は自分で会社を経営しており、従業員も何人もいて、私は子供の頃、みんなから「坊ちゃん」と呼ばれていた。

正直、欲しいものは何でも買ってもらえたし、お小遣いも決まってはいなかったが、必要な時に必要なだけもらえた。

そんな私の家だから、当然小学校は私立の某有名小学校に通っていた。毎日、電車で揺られながら小学校1年生の時から通っていたが、電車に乗るのが面倒くさい時には車で送り迎えもしてもらっていた。

ここまで聞くと、すごく嫌な奴のように感じるかもしれないが、その当時の私にとってはそれが日常であり、当たり前のことであった。


そんな日々の中で、最も印象に残っているのは、母親の教育ママっぷりである。

私の母は戦争中生まれの農家出の田舎者であり、幼少期の頃は戦争の影響で全く勉強が出来ず、小学校しか卒業していなかった。小学校を卒業すると家業の農家の手伝いや家事の手伝いなどをしていたらしく、その後の人生、父と結婚するまでは全くと言っていいほど、勉強らしい勉強はして来なかった。そんなことが影響して、大人になり群馬の片田舎から上京してきたのだが、就職口などあるはずもなく、若いころは相当な苦労をしてきたのだと言っていた。そんなことがあるから、自分の子供には学歴が無く、苦労させたくないという思いからか、教育に対する執着は異常な様相を呈していた。


私は小学校時代、友達と遊んだ記憶がほとんどない。

それは、毎日の日課となっている、勉強や習い事のせいである。私の小学校5年生の時の一週間のスケジュールを思い出せる範囲で書いてみたいと思う。


まず、学校から帰ってくると必ず国語・算数・理科・社会のドリルを十ページずつ解く。(次の習い事の時間に間に合わない場合は、習い事から帰ってから続きをやることになる。)

それが終わると、月曜日から金曜日までの夜六時から十時まで、何故か定時制の韓国語の学校に通っていた。(この学校には小学校1年生から通っており、学校に一歩踏み込んだら、日本語禁止という本格的な学校で、私は小5の時には韓国語が流暢に話せるようになっていた。)

母親曰く、「韓国はこれから産業が発展し、経済大国に必ずなるから、韓国語を勉強しておけば必ず役に立つ。」というのが当時の口癖だった。(確かに韓国は今現在、経済大国になった訳で、母親の先見の目は確かなものだったのだろうが、その当時の私には分かるはずもなく、ただただ、やらされている感がハンパなかった。また、なぜ英会話ではなく韓国語だったのか?・・・それを聞く機会は全く無く、母親が亡くなってしまった今、理由はお蔵入りとなってしまった。)

そして土曜日と日曜日には学習塾と、珠算教室、そして稀に塾も珠算教室も休みだった場合は、家庭教師をつけられ1日中勉強・・・と毎日が地獄のような日々だった。


そんな中で今思い返せば笑い話であるが、こんな話もあった。小学校5年生のある日、母親がお出かけする事になっており、私は友達を家に呼んでこっそり遊ぼうとした。小学校から家に帰ってみると母親は予定通り外出しており、私は急いで友達に電話をして、友達を家に招き入れた。母親の帰宅予定時刻は夕方5時・・・その日は半日で学校が終わったので、三・四時間は余裕で遊べると思っていた。しかし、私の計画はもろくも打ち砕かれた。母親は予定が早く終わったらしく、昼の三時には帰宅してきた。そうとは知らず、私は友達と一緒に家じゅうを走り回って遊んでいた。わりと家が広かったので、家じゅうを舞台にかくれんぼをしていたのである。

私が遊んでいるその光景を見た母親は、大声で私と友達を叱り、そのあと、お説教かと見せかけておいての、友達を巻き込んだ勉強会になってしまったのである。その時は友達も渋々勉強していたが、その後、私の家に遊びに来る友達は一人もいなくなった。


そんな日々を過ごしていたこともあり、学校での成績はすごく良かった。成績が良ければ母親の機嫌はすごく良かったが、成績が下がったり、テストの点数が悪かったりすると母親の機嫌はすごく悪くなり、一晩中お説教されたこともあった。そんな母親だから、私は母といるのがすごく嫌になり、母親を無意識に避けるようになっていた。・・・


一方父親は、物静かで、無口で、私がいくら悪さをしても決して怒ることはしなかった。

私は、先ほど述べたように、毎日勉強漬けの日々を暮らしていた関係で、小学校1年生の時から、ストレスがだいぶ溜まっていた

そんな日々を暮らしていた私は、小学校2年生の時に大事件を起こしてしまった。

それはむしゃくしゃした日々の中で生まれたストレス解消法だった。

電車で学校に通っていた私は、小学校二年生のある日、駅のホームから線路に降り立ち、線路に石を置いたり、色々な小物を置いたりして、電車がその線路に置かれた物の上を通過する時にはじく様子を見ては、気分をスカッとさせていた。(今は厳重なセキュリティーがあるので不可能に近いことだが、その当時は簡単に線路に降りることができた。)

調子に乗った私はそれから毎日、線路に何かしらの物を置いてはストレスを解消していた。

その日も、いつもと同じように線路にいたずらをしていた。と次の瞬間、「ブーン!」という辺り一面に鳴り響く電車の警笛が私の耳の奥を震わせていた。そう。私が降り立っていた線路に電車が侵入してきたのである。私は電車が来ていることに気付かず、線路に石を乗っけることに夢中になっていた。あわや電車にひかれるところだった。警笛の音でびっくりして、隣の線路に移ったことで私は死なずに済んだのである。電車は急ブレーキをかけ停車し、私は駅員に捕まり、警察に通報された。しばらく駅長室に拘束されていたが、警察官が来ると、私の身柄は警察官に引き渡され、私は警察に連れて行かれた。駅長室から駅前に停車してあるパトカーまで、手錠こそされはしなかったが、警察官に連れて行かれる私を通行人は好奇の目で追っかけまわしていた。しかし、その時の私は、なんか自分が有名人になったような錯覚を覚え、悪い事したんだという感覚はあまりなかった。

 

 警察署に連れて行かれた私は、警察官から事情聴取を受けていた。その時になぜ今回警察に連れて来られているのか、なぜ悪い事なのか、一から警察官の人が説明してくれて、私はその時初めて大変なことをしてしまったんだと気付かされた。それから私は、反省文を書かされ、もう二度とこんなことはしないという誓約書を書かされた。しばらくして、父が警察署まで迎えに来た。私は、こっ酷く怒られるものだと思っていたが、父は怒ることもなく、一言「もう、絶対にするな。」と言っただけだった。

あとから聞いたことだが、父と警察の方達で話し合い、小学2年生という低年齢、すごく反省していること、もうしないと誓ってくれたことなどを考慮して、事件とはせず、穏便に済ませてくれたとの事だった。今思い返すと、本当に申し訳ない事をしたと思う。当時、この事件に関係して頂いたみなさん、本当にごめんなさい。・・・


 このエピソードでも分かるように私の父は私に対して本当に怒ったことがなかった。

ただ、そんな中でも私は父に1回だけ怒られたことがある。


 前述したように私は母がうざくてしょうがなかったのであるが、母はそんなことは気にも留めず、私に勉強を押し付けてきていた。そんな毎日の中で、とうとう私はキレテしまったのである。それは小学5年生も終わろうかという2月の寒い日の夜、その日も韓国語の学校から帰ってきた私に残っているドリルをやるように母は言ってきた。しかしその日の私は、体調も悪く、気分もすぐれなかったので「明日やる。」と母に伝えたのであるが、母は不機嫌な顔になり、「そんな言い訳を言って、本当はやりたくないんだろ。」みたいな事を言い始めた。そしてそれをきっかけに、私たちはしばらく口論を続けた。そんな中、私は本当に頭にきて言ってはいけない一言を言い放ってしまった。

「自分は頭が悪いくせに僕にばっかり勉強を押し付けないでくれる! 中学校すらまともに行ってない人に勉強しろとか言われたくないんだけど!」そして私は付け加えるようにして「そんなに勉強させたいなら、何でも言うこと聞くロボットかペットに勉強させればいいじゃん。ホントこんな家に生まれたくなかった。」

私は今まで溜まっていた思いを全部ぶちまけた。それを聞いた母は大声で泣き始めた。

すると今まで黙って聞いていた父が私の前にスッと立ち上がり、大声で怒鳴り始めた。

「親に向かってなんて事言うんだ!いい加減にしろ!」

父の怒鳴り声を聞いたのは初めてだった。いや、最初で最後だった。

私は普段怒らない父の怒鳴り声で完全に怯み、そのまま自分の部屋に足早で行き、布団の中で泣いた。

私にとって父はそれだけ偉大な存在であり、威厳のある昔ながらの父親像そのものであった。・・・


父との思い出は他にもたくさんあるが、長くなるので割愛しようと思う。

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