第40話 家庭教師来る

 まだ先生との個別懇談もテストも終わってないのに張り切って類に家庭教師を頼んでいた母。いつから類に頼んでたの? 私の進路言ったっけ?

 そしてそこには大きな誤算があった。類の生徒は私だけではなかった。拓海も含まれていた。気まずさに拍車をかけてくれる、母め! 多分私の方が後付だったのではと思えてきた。

 多分割りのいい家庭教師のバイトを四回生になって多くの時間を避けるようになったけど、就職活動で時間に自由が効かないという状況を考えて、同じ大学の同じ学科を目指してた拓海につけたんだろう。そこに私も同じことを言い出したからっていうのが乗っかったんだと思われる。まあ、同じ大学だということを言い出してなくても家庭教師つける気ではいただろうけど。


 *


 三人の気まずい勉強時間が週三回、類の時間が空いてる時にという条件の元にはじまった。

 あー、もうなんか気まずいよ。私だけがそう感じてるの?

 果歩には類のことは言えないのでただ家庭教師がつけられたということと、他の時間は拓海と勉強しているという半分本当の半分脚色された話で通している。本当は拓海とは毎日勉強していて、週三で類が家庭教師に来ているんだけどね。


 懇談会は母が来て先生と進路の話をした。第一志望にはあと一息伸びたらという先生の言葉に、母は類に家庭教師頼んだ自分の判断が正しかったんだと嬉しげに言ってる。あそこまで拓海と遊んでたのにあと一息ってのに私は驚いていたんだけど。一応拓海と勉強してたからなのかな? かなり遊んではいたけど。


 その結果を受けて、類の勉強方法にも熱が入ってきた。拓海はどうやらこのままで十分と言われたんだろう、私ばっかりスパルタなんだけど。


 いつからか、もう晩御飯も食べて行ったらという母の言葉で、類と拓海と私の三人で食事することになった。料理当番は主に男子二人。私には料理する暇もない! って感じでキッチンからは閉め出された形になってる。

 スパルタの成果なのか今日は早くに類に出されていた問題が解き終わった。はあー。と一息ついて、一体あの二人はどんな会話で料理してるんだろう? という疑問を解決しようと、そっと部屋を出て、こそっとキッチンを覗いてみた。ちなみになぜか勉強は私の部屋でしている。

 そっと、キッチンに近づいていく。静かだな。そっと中を覗いて、う、うわ!

 廊下の壁に張り付いちゃったよ、思わず。気まずいを通りこしてなんか険悪なムード……会話もほぼない。あんなに誰でも気軽に話す拓海が……類だって無愛想ではない。まあ、二人が和気あいあいしていて、仲良かっても少しびっくりだけど……こんな中で料理してたの? いつも。

「なんで、この仕事を引き受けた?」

 険悪な沈黙を破って拓海が類に聞いてる。

「ん? 紫苑さんの頼みだったから」

「それだけか?」

 拓海ってば、なにをそんなに類に突っかかてるんだろう?

「樹里と君が気になったから」

 え? ええ? な、なんで類が拓海と私を気にするの?

「なんで、気にするんだよ? ずっと樹里を放って置いたのに」

 拓海、核心突き過ぎだよ。類にはもう……もう……だよ。

「俺も樹里が好きだったんだ。だけど、樹里の気持ちには答えられなかった。なのに、中途半端な態度をとって樹里を傷つけたんだ。君もそうなのか確かめたくなって」

「え?」

 私は思わず声に出す。涙が溢れてくる。酷いよ……類。気にしないって私の言葉を信じてはくれなかったんだ。

「樹里なにして……」

 拓海がキッチンから出てきて、涙を流す私をみて絶句した。ああ、ダメ。拓海ってばまた誤解してる。だけど、切ない古傷が私の心を震わせる。

「樹里……」

 類まで来てしまった。

「あ、あの……。その……。部屋に……行ってる」

 何とかそう言ってその場を去ろうとした。けれど捕まった。その場から逃げ出そうとした私を捕まえたのは拓海だった。

「泣くなよ!」

 拓海はそう言って私を抱きしめた。

 また拓海の胸で泣いてる。私は何で涙を流してるんだろう? 心が震えているんだろう?

 拓海だ……拓海がわからない。類の時のようになりたくない。そう決めても心は拓海に惹かれて行く。こうやって誤解を受けるのも嫌なのに。言えない。それが苦しい。

「俺は今日はもう帰るよ」

「ああ」

「樹里。素直になりなよ。樹里らしくないよ」

 拓海の胸の中で泣いてる私の横に来て類は私にそう言った。素直に……私らしく……って! 気づいてるの? 類! 私の気持ち……。

「え?」

「お前何言ってるんだ?」

「拓海君、君もね」

 え? 拓海もって? 類、どういうこと?

「え?」

「じゃあね。二人とも」

 と言って類は私の部屋から荷物を持って来て帰っていった。


 ………


 涙で濡れた拓海の胸の中考えてみる。もう限界だ。類の言うとおり私には嘘なんて無理だ。


「……拓海」

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