第39話 受験生する

 二学期がはじまった。早々に志望校を書くようにと用紙が配られた。もうそんな時期なんだね。

「アリス! 全然焼けてないじゃない! 夏休みデートしてないの?」

 心配そうに聞かれた果歩にまさか拓海と同居していて、さらには別荘でずっと二人で一緒にいたとは言えない。それにしてもあの屋根すごいな、プール三昧な毎日で全く焼けてないよ。

「遊んでたよ、いっぱい」

 本当にいっぱい。受験生なのに反省しなきゃいけないくらいに。

「そう。ならいいんだけど!」

 また私と拓海の仲を心配してる果歩。自分が吉田君ばかりといたのも気にしてるのかもしれない。果歩、ごめん。また、こんな恋をしちゃって。


 *


 帰りの果歩はご機嫌だよ。今日はお弁当を作って来て、もちろん吉田君の為に、勉強するんだとはりきっている。果歩なんか私達の仲を気にして当て付けのように言ってるけど、私も食べるし、自作か拓海作のランチを。そして、一緒に勉強するんだよね。多分。いや、絶対勉強するよ。あの用紙持ってると気分が変わるね!

「じゃあ、明日ね。樹里!」

「うん。じゃあ」


「樹里って志望校決まってるよな? 俺と同じ大学だよな?」

「うん。まあ、第一志望なんだけどね」

 拓海その話題も平気なの? 志望校の過去問とかも手を出してるけど、いいのかな? って気にしてる私が気にしすぎなんだろうか。拓海は苦学生じゃないんだもんね。どんな事情かはさっぱりわからないけど。

「樹里、真面目にやらないと受かんないぞ!」

 今さら拓海がそれを言う? 散々私の勉強の邪魔して来といて! 拓海は確かに勉強出来てるもんね! あんなに一緒に遊んでたのになぜなんだ! 拓海。だから遊べる余裕があるのよ! それを見て焦ってるんだけど私も一応は。

「拓海がもっと真面目にしてくれたらね!」

「はいはい」


 拓海の真面目がわからない。たいして変わりませんが。いたずらっ子か!


 *


 学校も本格的にはじまって……もう怪我した指は完治してる。拓海がお昼に来る理由はどこにもない……。はあー。と果歩に心配されるので心のため息ついてたら

「樹里! 安田君だよ!」

 って果歩の声に教室の入り口を見ると参考書やら問題集を持ってる拓海がいた。

 え? そんなの私は学校に持ってきてないし。

 仕方なしに筆記用具だけ持って行くと

「なんだよ。人のせいにして! やる気あるのか?」

「え? あ、いや」

 拓海はそんなに勉強熱心だったっけ?

「ほら、図書室行くぞ」

「あ、でも、私のないし」

 筆記用具だけじゃね。

「志望校一緒なんだから問題集も同じだろ? 今日は見せてやるから。ほら、行くぞ!」

 と、拓海は保健室から図書室に場所が変わっても私を連れて行く。

 さすがに図書室では真面目に勉強する。は、はかどるよ! ずっと、こうなら成績めっちゃ上がるんだけど。


 *


 真面目な拓海は図書室にしかいなかった。家に帰れば同じじゃないか!


 ただ図書室で騒いだら追い出されるだけからじゃない?


 ***


 週末に家族&拓海を混ぜて会議となった。志望校の話し合い。拓海の進路はなぜかもうすでに固まってる。拓海も父も母もはじめからそういう話で決まってたみたいで保護者のところに父がサインしてあっという間に終わった。

 私の場合にはグダグダと文句を言われて終わった。文句は今のままの成績で行けるのか? という事。次のテストで成果出さないと志望校変えられるよ! 実は本当はそこではなかったというか、まだ、どこの大学にするかまで決めてもいなかった。父の母校だし近いしどうだろうかな? ぐらいの軽い候補に考えていたんだけど、拓海が選んでいたからそこに決めたんだけど……。先生との話し合いはこれを提出してからとなる。なんて言われるかな? というぐらいの自信しか持ってないんで、とりあえずって言ったら話し合いがごちゃごちゃ戦へと突入してしまった。


 やっと解放された。拓海が何も言われないのは勉強してればわかる。学校うちより一つ上のランクじゃないかと思いたくなる実力。遊んでてもいいわけだよね。だからって私を巻き込むな!


「樹里、気を落とすなって。勉強、俺が教えてあげるから」

「うう」

 拓海も一緒に遊んでたのに! なぜか上から言われてるよ。私のせいなのか?


「あ! 樹里。家庭教師つけといたからね!」

 リビングを出る時に母が後ろから言ってきた。

「え? いいよ! まだそんなの」

「ダメよー! 樹里の成績上がるの間違いなしなんだから!」

 え? えええ! そこには思い当たる節があった……成績上がるの間違いなしって。

「まさか!」

「そう! 類君に頼んであるから! 樹里、類君ここにいる間は成績上がったでしょ? 高校も難なく入れたし! 類君と同じ大学の同じ学科よ! もう合格間違いなしね!」

 母よー、今のこの時期に私と拓海の間に類を混ぜるの? えー! もう気づかなさ過ぎだよ娘の心を。私はいいけど拓海は完全に私が類のことまだ引きずってるって誤解してるのに。ああー。もう最悪。


 リビングを去って部屋の前で聞かれる。

「樹里、大丈夫?」

 ほら、早速誤解してる拓海が聞いてくるじゃない!

「大丈夫。ただ、なんかやりづらいよ。別れ言っちゃった後だし。もう会わないって思ってたから。本当! 困った母」

「俺でもいいのに」

 ボソッと言う拓海。でも、拓海と二人でいると遊んじゃうのは間違いないからな。

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