第37話 花火する

 何だかんだとあっという間に過ぎていってしまった。父には怒られそうだが、ほぼ遊んで過ごしてしまった。


 夜のプールだー! と少し肌寒い中、夜もプールに入っていた。昼間にはある屋根もしまって夜空に浮かぶ月の下、プカプカと星まで見える真っ暗な中のプールを楽しんだ。もちろんその後は露天風呂で少し冷たくなった体を暖める。水着二着はこの為だったんだんね。

 快適に遊べる空間だったよ、父。そして、お風呂では毎回ドギマギする私。慣れたりなんかしないよ。いつも拓海が出る前に出てた。水着だって思ってもやっぱり無理だよー!


 帰る日の前の日。

「香澄、今晩花火だからね」

「あ、本当だ。花火してないね」

 浴衣はここに着いた時のまま部屋に置きっぱなしになってた。毎晩プールと露天風呂で過ごしてたから。

 あれ? なんか拓海、笑ってる?

「今晩、花火大会があるんだよ! 打ち上げ花火だって!」

「えー! そうなの? てっきり花火するんだと思ってた!」

「浴衣にわざわざ着替えて?」

 拓海なら言い出しそうだよ。

「そう!」

 笑ってるよ。言い出しそうな癖に!


 ということで今日は早めにプールから出てお風呂へと行く。恥ずかしい……けどこれが最後だろう。拓海はお金には困ってない。苦学生ではないなら、大学生になれば我が家を出て行くのは決まっているだろう。もう会わないんだろうな。ああ、胸が苦しいよ。まだ先であって欲しい。別れの時を少しでも伸ばして欲しい。


 お風呂から上がって部屋で浴衣に着替える。あれ? 拓海は浴衣に着替えるのかな? お風呂場から部屋に直接来たからわからないや。相変わらず私は先に出ちゃったんだよね、お風呂。拓海も今日は真っ赤になってたな。少しでも長く一緒に居たいと思ったらいつもよりも長く拓海と露天風呂に浸かってたんだけどね。さすがに真夏の露天風呂は暑いよね。私の方が先にギブアップして出てきた。

 着替えて髪も上にあげてお団子にする。買っておいた髪留めをつけ出来上がり! ふふ、そうだよね。これで手持ち花火ってね。

 それにしても、どこで花火を見るのかな? 歩いて移動は無理だから管理人さんに迎えに来てもらうのかな? 管理人さんはちょこちょこと密かに来てるようでタオル替えたり掃除もして行ってくれてるんだよね。ホテル並だよ。リッチな拓海……また謎は深まる一方。


 コンコン


「香澄! 出来た?」

「あ、うん。今行く」

 私は拓海がいる廊下へと出て行く。


 ガチャ


「お! バッチリだな」

「……」

 自分は普通に服ですか? ちょっと期待してたのに、拓海の浴衣姿。見たかったな。

「どこで花火を見るの?」

「え? ああ。プール。もうそろそろかな? 行こう」

 プール? 下に降りてプールに行く。いつも勉強しようとしてるテーブルには飲み物が二つもう用意されていた。

「こっから花火が見えるんだよ。しばらく見てないからどんなのかはわからないんだよな。花火がショボかったらごめんな。花火大会は今日あるのは確かだから……」

 拓海が必死に喋ってる。浴衣に着替えさせたんで、花火の規模を心配してるけど、私の想像は手持ち花火だよ。一発の打ち上げ花火にも負けるってば。そう言おうと思ったら……


 ヒュー


 という懐かしい音が聞こえてきた。

「あ! 見えた!」

「はじまったな、花火大会」

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