第7話 会いに行く

「なあ、そいつんとこ行って、聞いてみよう。なんでそういう結末だったのか」

「え?」

 食後にせめて私が洗い物をしたいけど、傷がひどいので洗い物もできない。ガーゼが巻いてる状態だしね。だからと言って、そのまま部屋に自分だけ戻るって訳にもいかなくて、拓海が洗い物をするのを待っていたら言われた。そいつ、って……類の事になるよね。

「あの部屋に二年前までいた奴のところに行こう」

 えー! さっきあれだけ話を聞いておいて、あっさり引いたと思ったら……その為に、類のところに行く為に食事の時間が早かったんだ。

「嫌だ。今さらそんなことしても……」

 あの時だって、遅かったかもしれない。どの時から? 最初から?

「今さらだけど、樹里、前に進めてないんだろ? だから、その為にだよ。ほら、用意しろよ」

 そう言えば……拓海君、家着じゃなかったっんだね。ちゃんと外着に着替えて出かける用意してたんだ。


 *


「えー! 嫌! 嫌だ!」

 という私を、拓海は私の部屋に放り込んでカウントダウンしはじめた。

「着替え終わらないとキスするぞ。あと五分!」

 こんな手で五分で着替えるの!? まあ、左手の怪我だから、あんまり着替えには関係ないんだけど。キスは……脅しなんだろうけど、本当にやりかねない相手に思えてきた。拓海はかなり強引だ。ここは大人しく着替えた方がいいか。

 それに……もう類と話してもいいのかも。それよりも会いたいのかも。類にもう一度会う。って考えるだけで胸がバクバクするよ。


 *


 類のアパートが見えるファミレスがあったので、一度類の家に行き留守か確認してからここにきた。先に拓海だけがファミレスに入って待っていた。私が類の留守を確認する間。

 類のところに一人で行くという私の願いは聞き入れられなくて、結局ここまで拓海もついてきた。


 頬杖ついて私の帰りを待っていた拓海に言う。

「その……留守だった」

「だろうね、明かりもないし」

 一度、確認して来いって言ったの拓海じゃない!

「留守か確認して来いって言ったじゃない!」

「一応だって言ったろ? 家にいるのにここで見張ってるなんて、バカバカしいだろ?」

 拓海の前の席に座る。確かにそう、そう……。

「そうだけど」

 そうなんだけどね。はあー。

 緊張が持たない……類はうちにいる間の一年でほとんど変わらなかった。外見とかもね。もう大学生だったから。代わりに私は大きく変化したんだろう。中学生の子供から……まあ高校生も子供ではあるんだろうけど……類からすれば。今も高校生の私と、ずっと大学生の類。会ってどうするんだろう。何を話せばいいんだろう。

「おーい!」

「え?」

 拓海は私の目の前で手を振っている。

「お前ちゃんと見てる? 俺、見てもわかんないんだけど。写真とかないわけ?」

「ない。ちゃん見ておくから!」

 本当はある。今も携帯の中にいる。二人で撮った写真や類だけの写真が。だけど、あの日以来見れない。消そうとしても開けないんだ。類に惹かれている自分がわかっているから。写真を見てしまえば、あれは何か理由があったんだって自分に言い聞かせて、また類に会いに行こうとする自分がいることがわかっていたから。そして、また傷を深く新しい物に変えるだけなんだって、わかっていたから、類の写真を見ることができなかった。

「だったら、ぼーっとするなよ」

「はい。はい!」

 なんだって拓海は、こんな事するの? 拓海には何の関係ないのに。フリードリンク頼んで粘りに粘ってここにいる。多分、類はバイトしてるんだろう。生活費を学費を稼ぐために。

 拓海は今頃宿題を広げてやっている。家でさっと終わらせたんじゃなかったのね。この場面を想定してたんだね、類を待つということを。

 フリードリンクを飲み終えると、おかわりに行くと私が見張れないから、拓海は私のおかわりまで行ってくれる。どこまで徹底して私と類と会わせようとしてるの? 何のために?

「あ!」

 そこには、昔と変わらない類がいた。今度は一人で。

「あいつ?」

 多分、拓海には暗くてよく見えないだろう。周りは暗い。だけど、シルエットと歩き方で類だってわかる。

「うん」

「じゃあ、いって来い!」

「あ、ああ。うん」

 いって来い、か。言ってなのか、行ってなのか。

 とにかく席を立ちファミレスの出口に向かう。振り返ると類の家を指差す拓海の姿が見える。類はもう家の中に入ったんだろう。

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