第5話 そらす
「ねえ、腕! 離してよ。変だよ」
そう、なぜか帰りも私の腕を拓海君は握ってる。
「あ、ああ。ダメ? なんか面倒臭いんだけど。騒がれて」
騒がれて、面倒って……あの見物してた女子を思い出す。
「さっき……私の傷を利用したの? それで保健室に?」
あの女子の視線がいっぱいの場所から逃げるためだったのか。
「樹里なんで彼氏いないの?」
なんで、私の疑問を別の疑問で返すの。そして、一番話したくない話を聞いてくるの?
「私が質問してるの! っていうかこの話はこれでお終い」
「えー?」
「あとは……家で話す」
このまま話さないで通れないんじゃないかって思えた。なんか拓海君がそんな雰囲気……だから?
走って教室へ行こうとして、また拓海君に腕を掴まれる。
「もう!」
「激しい運動は禁止だろ。それに一緒に帰った方が自然だって。一緒に保健室に行ったのに、帰りは別々の方が不自然だろ?」
「うーん……。わかった」
はたしてこれは本当に自然だったんだろうか? 痛いぐらいの女子の視線を浴びてるんだけど。ようやく五組の前にたどり着く。あ、果歩。私に気づいて果歩がこっちに来る。質問攻めか? いろいろなことを想定しながら、私も果歩の方へ行く。
あ、そうだ忘れてた。
「たく……、安田君、ありがとう」
「ああ」
ざわめく女子の中、慣れてるのかな? 女子の視線を完全に無視して、通り過ぎて行く拓海君。
「樹里! ごめん。指の怪我のこと忘れてて。傷、大丈夫だった?」
「あ、うん。激しい運動は禁止みたい。傷口が広がるからじゃないかな」
う、自分で言って想像して気分悪いよ。傷口が広がるとこ。
「と・こ・ろ・で!」
ああ、嬉しそうな果歩。果歩がこんなに私に彼氏を恋をというのは、自分が恋に浮かれているからではない。知ってるからだ。二年前の私の恋を。いや、三年前からのか。私の部屋の隣の部屋にいた彼の話を。そして、その彼を忘れられずに、今も恋が出来ずにいる私を。
「安田君とはどうだったの? 優しいよね! 初対面の樹里の指の傷に気づいて、保健室まで連れてってくれるなんて!」
「どうもないよ。保健の先生にこれを貼り直してもらっただけだから」
と、自分の教室に向かいながら果歩を今度は私が引っ張る。
「その割には時間かかったよー!」
果歩どうしてもこの話を発展させたいんだね。
「先生がお昼に行ってて居なかったから、二人で保健室で先生を待ってたの」
「何して?」
果歩ってば、めっちゃ期待してる聞き方だな。
「話をしてただけ。怪我のこととか」
果歩には嘘はつきたくないけど、前のことがある。あれ? 私なんで果歩に拓海君が同居人だって、バレたくないって思ってるんだろう? 果歩は口が硬い。果歩にバレたからって、話が広がるわけじゃないのに……。
「ふーん。話をねえー」
まだ話を聞きたそうだけど、教室に着いた途端、チャイムがなった。時間切れで助かった……なんで、そう思うんだろう……?
*
なんとか果歩の好奇心をそらして、放課後へと持ち込む。果歩の彼氏はバスケ部。果歩はいつも彼氏のバスケ部を見学してるから、放課後まで来たらもう大丈夫。
「果歩また明日ね!」
「ああ、うん。ねえ、樹里、今日はバスケ部の見学とかは……」
「見学はしないから! じゃ、明日ね」
どうしても聞き出したいな、果歩。というより、私の気持ちが知りたいのか。
「うん。明日ね。樹里」
*
買い物をして帰ろうとしたら後ろにいたみたいで、スーパーに入るなり拓海君が来た。
「俺が作るから俺がメニュー考えるからな」
「あ、うん。そうだね」
なんだか変なの。彼とは買い物は一緒に行ったことなかったなあ。……って、ああ、いちいち彼の回想するのもう嫌だ。
「樹里?」
「ううん。何作るの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます