第4話 話をする
「樹里! 大ニュース! こっちこっち!」
「え? 果歩。話だけじゃ、ダメなの?」
どんどんと果歩に廊下を引っ張って行かれる。四組の前で果歩は、やっと立ち止まる。
「いい男が転校してきたんだって! 樹里、チャンスだよ! 行くんだ」
え? 男……転校生……転校って……それって拓海君のことじゃない!
「いや。いいよ」
果歩、もう誰だか知ってるから。
「ダメ! 樹里、いい加減、昔の恋は忘れて、新しい恋に生きるのよ!」
なぜか、燃えてる果歩。自分が恋に生きるからって、私にも押し付けないで! そして、さらりと昔の私の傷口に触れないで。
「あー。もう、いいって」
「ダメ。見るだけよ、ね」
見てるから。話してるから。そして、彼の手作り料理もいただいてるから! とは言えない。
「わかった。見るだけね」
満足そうな果歩。五組の中を覗かされる。うわ、他にも覗いてるを通り越して……見物してる女子が結構いる。
「樹里、見るとこ違う。あそこだって」
果歩、わかってるよ。誰だか知ってるんだから。ただ、あまりの人だかりに気をとられてたんだよ。
あ、拓海君と目が合ってしまった。拓海君、多分なんで来たの? って思ってる? 私が自分から内緒にしようって言ったのに。
と、拓海君は立ち上がってこっちに向かって来る。え、ええ? ダメってば。バレるよ!
「血!」
拓海君に言われて、慌てて怪我した指を見る。ティッシュからガーゼに、テープからちゃんとした傷用の医療用テープに、拓海君に貼り替えられてた親指が、朱に染まってた。あ、急ぎ足でここまで来たからかな? と、怪我してる左腕を拓海君に取られた。
「保健室は?」
「一階の……」
果歩がもうすでに廊下の窓越しに指差してた。保健室を。向かいの校舎に保健室はある。
そのまま、拓海君に引っ張られて保健室に向かった。
バレるかバレないかギリギリな感じなんだけど。拓海君。私との関係、隠す気全くないでしょ?
*
保健室の先生は、お昼ご飯を食べに行ってるのか留守だった。勝手に使おうとしたら、棚には鍵がかかってたので、テープをはがしてガーゼをティッシュにして、またテープを貼られました。保健室の意味ないし! そのまま先生が来るまで待つことにした。この指では待つしかないしね。
「拓海君! なんで、私を保健室に連れて来たの?」
「俺を見に来てたのに?」
「友達に無理矢理、連れていかれたのよ!」
「ふーん」
「自分が彼氏いるから、私にもってうるさいのよ」
「樹里、彼氏いないんだ」
何時の間にか拓海君は、私を樹里と呼び捨てにしてる。それも彼とかぶるから結構ヘビーなんだけど。だからって、やめてとは言えない。
「う、うるさい」
「ふーん」
自分は? って言おうとして、拓海君に彼女がいても今回の事で別れたとか、遠距離になったとかだろうから、触れられないよ。拓海君は否応なしにうちに来たんだ。彼自身の意見や判断など、誰も聞いてくれる状態じゃなかったんだから。
「俺には聞かないの?」
拓海君は、自分から話を振ってきた。なぜ?
「え? あ、いや。あの、拓海君は?」
「彼女はいないし、いなかった」
「………」
なんで私に聞かせたの?
という、くだらないやりとりが終わった頃、先生がやっと来てくれた。
ティッシュがガーゼに代わってキツく止められて終了。あまり、激しく動かないようにと言われて先生にお礼を言って保健室を出る。
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