パンを咥えて走ったら



朝、


彼女は転校初日で、


遅刻する訳には行かなかったんだろう。



「遅刻、遅刻〜〜」



パンを咥えて走っていた。



そんなこととは露知らず


僕は、


いつもと同じように寝坊して、


「なんで、もっと早く起こしてくれなかったんだよッ」


と起こしてくれた母に悪態をつき、


いつもと同じように、


猛スピードで学校へと向かった。



そんな彼女と僕は、



「ドンッーー!!」


曲がり角でぶつかった。



それは僕達にとって多分、


運命だったに違いない。



「ヒュルルルルーー」



彼女が咥えていたパンが宙を舞う


それはまるでスローモーションのようだった。




思えば、あのとき、


あの瞬間から、


僕にとって、彼女は


一生ずっと忘れられない存在になったんだ。




今でも目を閉じると、


見開いた瞳で僕を見つめている


彼女の顔をハッキリと思い出してしまう。




倒れた彼女のもとに


駆け寄ろうとした僕はまず、





「ガチャ」










ドアを開けた。




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