第一節; Do you kiss me?

県の特産品に白エビやホタルイカがあるとは言え、僕の育ったのは連峰を望む田園の広がるのどかな町だった。

この町の景色には夕焼けが似合うよ。

かりそめの赤に染まる空と稲穂に、優しく包まれるみたい。

九月二十七日土曜日の夕方。

自宅近くの小さな交差点。

友人と別れ、丁度赤信号の向こうにある透明なピンク色の空を眺めていた時だ。

「わ、わしと一緒に世界を救ってほしいのじゃ……!」

知らない顔。

日本人形のように綺麗でかわいい子だった。

背が低くて。

サラサラの黒髪をツインテールに縛って。

白いシャツと紫のスカートできっちりした服装で。

だけど……。

なんて脆い。

今にも泣き出しそう。

「どうしたの?」

かわいい黒髪ツインテさんに聞いてみる。

いや……、冷静っぽいかもだけどマジこの子メッチャかわいいからね!

女の子はキュッとめた口元をこちらに突き上げて、見ろとばかり右の人差し指で誇張した。

「ん!」

「えっ?何?」

「ん~っ!」

ネツっぽい大きな瞳が僕を放さず、唇が胸元まで迫ってくる。

え?キス?

真っ白い頭で思わず顔を近づけた。

すると、先方はみるみる顔を真っ赤にして。

ついに……。

パチン!

右手でひっぱたかれた。

左頬はピリピリするけど、触れた彼女の手は小さく繊細でやっぱりかわいいと思ってしまう。

その子が目に涙を浮かべ必死の形相で一喝してきた。

「何をするのじゃ!不埒フラチもの!」

「ご、ごめん!?」

本当にごめん。

黒髪ツインテさんは今一度怒った口をギュッとつぐみ、僕を見上げる。

(わしも超能力者じゃ!口を開かずとも話ができるのじゃ!)

子供っぽい声が頭に伝わってくる。

目の前には、見知らぬ、日本人形のような女の子。

綺麗な顔で熱心にこちらを注目している。

(方場ホウバ八思代ヤモシロ!世界を救う為にお前の力を借りにきたのじゃ!)

「え……、えええええ~!?」

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