蜂の夢

 最近は変な夢をみる。


 ぽっかりと大きな口をあけた打ちっぱなしのトンネル。中は迷路のように入り組んでいて、下水の臭いを立ち込める空洞を、理由もなく奥へ奥へと歩みを進める。

 トンネルの壁面はまるで作りたてのように汚れひとつない。鼻をつく臭気以外に特に何もない。振り返ることも引き返すこともできず、私はただただ前進する。


 やがて或る場所へたどり着く。そこは行き止まりだった。一面灰色の世界にポツリと色が映えていた。それは、そこにいるはずもない友人の服と天井にある何かだった。

「これを見てみろよ」

 友人は挨拶もなしに、天井の何かを指さす。

 それは蜂の巣だった。私の頭の三倍はあろうかという大きな巣が、裸電球のようにぶら下がっていた。


「これを落として蜜を吸おうぜ」

 友人は一つ提案すると、どこから取り出したのか分からぬ枝でつつき始める。

中からチカヨルナ、チカヨルナ、と蜂の羽音が唸りをあげる。蜂は私たちを刺し殺そうと伺っているようだった。

「おい、やめろって……」

 友人を止めようと肩をつかむが、友人はこちらを一切振り向かず、舌なめずりしながら巣の根元を剥がそうとする。

 蜂はヤメロ、ヤメロ、と警告する。何匹が外へでてきて友人の周りを渦巻く。しかし友人は依然として手を止める素振りをみせない。


 そこまで美味しいものなのだろうか。

 友人の必死な姿をみて興味をそそられる。この蜂の巣に溜まった蜜は、きっと今までに味わったことのない甘さなのだろう。頭のなかで想像が掻き立てられ、うずうずとしだす。

「もうすぐだ! 手伝ってくれ!」

 私の右手にはいつの間にか枝が握られていた。これでつつけば蜂の巣が落ちるのは確かだった。

 枝を高く掲げ、頭上にある巣に一撃加えた。

 落ちてくる巣は南瓜のようにグシャグシャに残骸をまき散らかした。中から激怒した蜂の大群が一斉に襲いかかる。

「うわあぁああああああ!」

 私と友人は蜂から逃れることもできず、巣を背に向けて頭を抱え、そして無力にしゃがみ込む。

 後悔しても遅い。

 蜂は一斉に毒針を背中めがけて突き刺していく。


 そこでいつも目が覚める。

 だが今日は目覚めた場所がいつもと違っていた。

「――目が覚めましたか?」

 白衣を身に纏った男性に声を掛けられる。そこは病室だった。

「あと少しで命を落とすところでしたよ。……貴方のご友人はここへ運ばれたときにはすでに手遅れでしたが」

「……私は、一体どうしてここに」

 男性は少し躊躇いながら話す。

「貴方は薬物の大量摂取で急性中毒を起こしていたところを発見されて搬送されました。貴方がたの身体中に夥しい数の注射痕がありましたよ」

 男性は、しばらく安静にしてください、と言いその場を去った。

 腕をみると、点滴の針が指してあるところに、痛々しい痣があった。


――きっと背中にもたくさんあるのだろうな。

 根拠もないことを思い、私は目を閉じる

 あれから、あの夢に往くことはなかった。

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