ホシニネガイヲ
卯月
一 始まり
「星祭りを見に行きませんか?」
そう声をかけてきたのは、魔術師のフランだった。淡い茶色の髪に、くりくりした青い瞳。エストバル城にいる魔術師の中では彼が一番歳が若く、私ともそう離れてはいない。多分。
「星祭り?」
「僕の故郷、マーロの村で毎年行われる祭りなんですけどね」
初めて会ったときから絶やしたことのない笑顔で、やさしく彼は言う。
「この城に来てから、ずっと閉じこもりっきりでしょう? たまには外に出るのもいいんじゃないか、と思いまして。気分転換になりますよ」
「でも……」
「大丈夫ですよ、僕が一緒ですから。ねえ、
そう言って、私の黒い瞳をのぞきこむ。
この城の人たちは、とにかくみんなやさしい。どこかに倒れていたという私を介抱してくれて、千歳という名前以外何もわからなかった私をずっとここに置いてくれていた。だから私は、城の外の世界を一切知らない。
――というより、今フランに言われるまで、城に〝外〟があるのだということに思い至らなかった。
「星祭り……」
〝外〟があるのだ、ということに気づくと、急に私はそれを見てみたくなった。
それに、〝星祭り〟――なぜだかわからないけれど、〝行かなければならない〟という気がする。マーロの村の、星祭り。今初めて聞いた言葉なのに、なぜか〝そこにいなければならない〟という気がするのだ。
「……連れていって、フラン。お願い」
「喜んで」
フランはにっこりと微笑んだ。
フランの故郷、マーロ村は、エストバル城から馬で一週間くらいのところにあるのだという。
「国内にいくつかある、〝魔法村〟のひとつなんですよ」
馬車に揺られながら、そうフランが説明してくれた。
「簡単に言うと、国に仕える魔術師を出す村、ってところですか。城にいる魔術師たちは僕も含めて、みなどこかの魔法村の出身ですよ」
「魔法村以外のところの人は、魔法が使えないの?」
私がたずねると、
「そういうわけでもないんですけどね。古くからの実績というか、魔法村出身の者は、歴史に名を残すような偉大な魔術師が多くて。それで、国公認みたいになっているんです」
「そう。じゃあ、きっとフランもすごい魔術師なのね?」
「いや、僕なんかまだまだで」
フランが照れて赤くなった。
「マーロの出身というだけで、結構一般の人々には敬われたりするんですけど、とてもじゃありませんがそれに見合うだけの実力を身につけていなくて。却って申し訳ないくらいなんです」
そう言って、恐縮している。本当にいい人だ。
大丈夫。彼が一緒なんだから、きっと大丈夫。
たとえ何が起きても。
そう考えて、ふっと気づいた。
――私はいったい、何が起きると思っているのだろう?
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