第2話

「うわぁぁ・・・」

必死に逃げ惑う2人の子供を含む10人ほどの人々

追うのは異形の獣が1匹。獣はそれほど大きくは無い、むしろ小さいと言えるだろう。体高50cm、体長も尾を含めても1.5mもない、柴犬を凶暴なイメージにしたような外見をしている。

その小さな獣1体に10人を超える人間が手も足も出ず逃げ惑う。

ついに体力の無い子供がひとり足をもつれさせ転んだ。

それを見た女性がひとり悲鳴をあげ助けに向かう

「かのん!!」

「遊里無理だ。逃げるんだ」

遊里と呼ばれた女性がかのんと呼んだ子供をかばうように抱え込む。

覚悟を決め強く目をつぶり衝撃が来るのを待つ遊里。

遊里とかのんに向かい襲い掛かる獣。

そこに風を巻いて間に滑り込む小さな影がひとつ。

「むん」

小さな気合と共に拳を振るうと、それまで一方的に追い掛け回していた獣が吹き飛ぶ。

「「「「「なっ!!??」」」」」

それを見た人々は息を呑む。

吹き飛ばされた獣も足を震わせながらもどうにか立ち上がる。かなりのダメージを受けたようでふらついている。

「まさか、ダメージを与えた?」

驚くのも無理はない。その獣には素手はおろか、刃物や銃火器でさえかすり傷さえつけられない。それゆえに襲われた人々はひたすらに逃げるしかなかったのだ。それを素手で殴り飛ばしダメージを与えたのである。驚いてしかるべきといえるだろう。

驚いている人々を尻目に続けざまに攻撃を加えるその姿は小柄で少年にも少女にも見えた。

左右の拳を振るい、蹴りを打ち込む。その姿は小柄な体とあいまって現実感を感じさせないどこか空想の中の出来事にも見えた。

数分後、獣を打ち倒すとニッコリと微笑みながら

「大丈夫?怪我は無い?」

あっけにとられ座りこんでしまっていた遊里とかのんに声を掛けた。

「あ、ありがとうございます。でも、なんで・・・」

「なんでって?」

「私達を助けても、あなたに何もメリットは無いでしょう」

「ん~、助けるメリットは確かに。でも助けないと後で気分が悪い。それにお肉欲しいし」

首を傾げながら答える。

「あ、失礼しました。私は遊里。この子はかのんと言います。今日は棲家を移動しようとして見つかってしまったの」

「僕は優」

名乗ると、そのまま倒した獣に向かいナイフをふるい始める。

「何をするんですか?」

「食料の確保。こいつらは美味しいし、腐りにくい」

そう言いながら何箇所かにナイフを入れると、今度は折りたたまれたスコップを伸ばし大きめの木の下の地面に穴を掘り始めた。

ふと気付いた遊里が

「あれ?ナイフで切れるの?」

「そう、こいつらは生きてる間はナイフも銃弾もはじくけど、死ぬと普通の生き物と同じに刃物で切ることが出来る」

「それで、どうするんですか?」

遊里たちと一緒に逃げていた仲間が集まってきた。

「肉は食料になる。僕は全部はいらないからあなた達も持てるだけ持って行くと良い。ただし内臓はやめておいたほうが良い。内臓食べると何人か死ぬことになる」

そういうと大きめの肉の塊に布を巻き背負い袋に入れた。

そのあと内臓をとりだし穴に入れ土を掛けて埋めた。

「この残りの肉は適当に取り分けるといい。僕の欲しい分はもう取ったからあとはあげる」

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