二度目の季節
第五話 春~片桐遥香と相葉歩幸の場合~
春①
――二月にある、特進クラスに入るための審査。受けてみない?
それは一月に言った言葉。それを言った当時の私に、今の自分のクラス、そして同じクラスになったクラスメイトを言ったら、驚かれるだろうか? それとも、当然だ、と笑うだろうか?
私は今、三年A組、特進クラスにいる。そしてなんと、
相葉は分かる。私が誘ったから。だけど、まさか彩香まで特進クラスの審査を受けるとは思っていなかった。審査当日に彩香を見つけて驚く私に、彩香は少し切なげででもまっすぐな笑みを浮かべながら、国公立の難関大学を目指すんだ、と言った。思い当たる節はあった。だけどそれが確実かどうか訊くのも野暮なので、私はただ頷いたのだった。
*
「二月の審査のテスト戻ってきたぞー。成績順に返すから静かにしろー」
始業式のあとのHR。担任の
「おお、さすが特進。一発で静かになるのいいな。んじゃ、一位。相葉ー」
静かだった教室が、一気に騒がしくなる。教室中の視線が自分に注がれる中、隣の席の相葉は驚いたように目を見開いたまま動かなくなる。
「相葉ー。いねぇのかー」
「あ! はいはい! いる……じゃなくています!」
ガタガタッと大きな音を立てて相葉が立ち上がる。その様子を見た竹林先生は、片方の口角を上げてニヤリと笑う。
「いたか。初日から無断欠席かと思ったじゃねーか」
「無断で欠席なんかしね……しませんよ!」
使い慣れてない敬語を無理矢理使おうとしているせいか、何回か言いなおす相葉に、どこか温かい笑い声が起き始める。
「お前、勉強できたんだな」
「どういう意味っすか」
「
「あだっ」
半分に折ってあるいろんな教科のテスト用紙で、パシンと竹林先生が相葉の頭を軽く叩く。そのまま突き出されたテスト用紙を、叩かれた頭をさすりながら相葉は受け取る。
「次、
「はーい」
そこからは去年も特進クラスだった人たちの名前がしばらく続く。どことなく嬉しそうに戻ってくる相葉を見て、少しだけ、心の中が温まるのを感じた。
「よかったわね」
今にも鼻歌を歌いそうな様子で答案用紙を見ながら席に着く相葉に声をかける。すると相葉は顔をあげて、照れくさそうな笑みを浮かべる。
「おう、ありがとな」
その笑みに、言葉に、声に、耳の奥で心臓が音を立て始める。頬に熱が集まっていく。訳が分からず、思わず相葉から顔をそらした。
「おい、どうし――」
「
「はい!」
相葉の声を聞こえないふりして、私は先生のもとへ答案用紙を受け取りに行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます