恋愛四季折々
奔埜しおり
一度目の季節
第一話 春~長谷川灯香と鳴海瞬の場合~
春①
その出会いは、突然だった。
「ほらー席着けー。ホームルーム始めるぞー」
茶色い髪の毛に、黒縁めがねとその下から覗く無精ひげ。おまけにちょっと着崩したスーツ。始業式の直後とは思えない格好をした男性教師は、ファイルやら名簿やらをドサッと教卓の上に置いた。そして慌てて席に着く私たちを尻目に、気怠そうに口を開く。
「早速だが、転校生を紹介する。入ってこい」
一度は静かになった教室も、その一言により再びざわつき始める。無理もない。私たちは三年生で、今日は春休みが終わった四月。高校生活も残り一年切ったこの時期に転校してくるなんて、不自然以外の何者でもない。そのざわめきに、黙れー、とめんどくさそうに注意しながら、先生は開いているドアへ手招きをする。そうして入ってきた転校生を見て、私は目を丸くした。教室内も、さっきとはまた違うざわめきに包まれる。
先生のそれよりも遙かに明るい茶髪に、グレーの瞳。緩く絞められたネクタイと、数個開いてるボタン、そしてその下から覗くTシャツ。上に着ている学校指定のカーディガンは中途半端にボタンが閉まっており、ブレザーに関しては一つとしてボタンが閉まっていない。極めつけはダボッと履いてるのか、それともかろうじてどこかでひっかかっているのかわからないズボン。あまりにもルーズな格好だ。多少制服を着崩している人はいるが、この高校は進学校を名乗るだけあって、ここまで制服を着る気がないような崩れ方をしている人はいない。
「お前、服の着方って知ってるか」
案の定というか、なんというか、先生が呆れた口調で言うと、転校生はキョトンとした笑みを浮かべる。
「前の学校はみんなこんなんだったんですけど……どこかおかしいですか?」
むしろどこがおかしくないと言うのか。前の学校の制服をデザインした方がその言葉を聞いたら泣くと思う。
「……お前、あとで学生手帳見直しておけ」
「はーい」
転校生は人なつっこい笑みを浮かべて返事をした。やれやれと言った調子で先生はため息を吐く。
「んじゃ、簡単に自己紹介してくれー」
「初めまして。親の転勤で関西の方から引っ越してきました、
おちゃらけた様子で自己紹介を締めて、鳴海君は大げさに礼をする。
「ほいほい。鳴海、お前明日までに髪の毛染め直して来いよ」
「先生、俺クォーターなんで、これ地毛なんですけど」
派手な髪色は地毛らしい。ということはあのグレーの瞳も、カラーコンタクトなどではなくそのままの瞳の色なのだろうか。
「じゃあ、証明書持ってこいよ」
「はーい」
「んじゃ、鳴海は
「はい!」
先生に呼ばれて、呆気にとられていた私は慌てて右手を挙げる。鳴海君と目が合うと、彼の目が丸く見開かれた気がした。何だろう、と小さく首を傾げる。だけどそれも一瞬で、すぐに彼はニコニコと笑みを浮かべる。
「鳴海。あいつは学級委員会の委員長だから、分からないことは何でも聞け」
だいたい予想の付いていた言葉に、少しだけため息。ああいうタイプの人に関わるのは初めてだからだ。得体の知れなさに、少しだけ緊張する。
「長谷川さん、よろしくね」
気づけば隣に座っていた鳴海君に私も、よろしくね、と会釈を返した。
「で、順番が前後したが、俺はこの三年B組の担任、
言いながら、竹林先生はカツカツと音を立てて黒板に委員会の名前を書いていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます