第6話 ヤッパリチガウ

「バロックさん、とりあえず俺は王都ってとこに向かえばいいってことはわかったんですけど、その前にこの世界のこととこか聞きたいことがいっぱいあるんですけど」


 「あーそうか、そうだよな。本当になにもわからねえんだなファンタズムのこと」


 「はい」


 バロックさんは何から話したもんかなといった具合に、顎の傷をさすりながら考える。

 しかし、ふいに何かを思い出したようにハッとした表情をした。


 「いけねえいけねえ話し込んじまって忘れてた。そろそろ店を開ける時間なんだ」


 そういえば、なにやら受付のような場所や大量の張り紙もあったしなんらかの店であることは想像がつく。


 まあ、中二病だとか疑っていたことは申し訳なさすぎるのでひとまず心に閉まっておこう。


 「そうだおめえさん。ちと来客用の紅茶をさっき飲んだ分で切らしちまったからお使い頼まれてくんねえか」


 こんなに親身になって話を聞いてもらっているのだそれぐらい構わないのだけれどいくつか不安が浮かぶ。


 「あのー俺この世界のルールとかわかんないし、あと言葉も通じるのかなーなんて思ってるんですけど」


 「あーそんなもん多分おめえさんが来た日本てやつとそんな変わんねえよ。言葉なんて俺に通じてる時点で、そこらへんにいる言葉を話さねえモンスター共以外なら通じるから心配すんな」


 とお前の心配なんて無用だと言うように笑いながら銀のコインをいくつか手渡してくる。


 これがお金か

 言葉も通じるっていうし、文字も読めたしなんか日本とあんまり変わらないな


 少し拍子抜けしたけれども、紅茶の売っている店の場所のメモを貰いお使いに向かおうとする俺にバロックさんは一言付け加えるように言った。


 「あとあれだ、大事なこと言い忘れてた。おめえさん選択者かもしれないってことはあんま言わないようにしろよ。あんまり良く思わないやつもいるかもしれんからな」


 選択者は救世主や英雄とか呼ばれて祭り上げられているのにどうしてだろう


 そう思いながらも一路紅茶を買いに街に出たのであった。




 ――


「只今帰りましたー」


 入口にOPENの札が掲げられていたためもうお客さんが来ているかと思ったけれど室内にはバロックさん一人だった。


 「おうおけーり。なんだ、なんかげっそりしてねえか」


 買ってきた紅茶を手渡すやそんなことを言う。


 「そんないことないですよ。あはは……」


 げっそりか。いや、げっそりもするもんだ。

 今や日本とそんな変わらないと思っていたことが懐かしい。

 基本的な経済の仕組みなんかは、立ち並ぶ店などを見ても、実際に買い物をしてみても感じたがおそらくこちらの世界もそうは変わらないはずだ。しかし、馬車なども走っているがその中に、グロテスクな見た目のでかいトカゲのようなものに乗っている商人が街中にいたり、うさぎや猫みたいなかわいい耳を頭に生やした男や女の人が普通に歩いていたり、漫画やアニメの中だけのものだと思っていた光景がこうして改めて目の前に存在すると、俺はどうにもテンションは上がらない性格のようだ。

 せめてもの救いは、露天などに立ち並ぶ食べ物は突拍子もなくぶっ飛んだものではなく、見覚えのある肉や魚だったということだ。


 まあ中には、意味わかんない薬草とか怪しい果物とかもあったけど


 その話をするとバロックさんは大笑いをした。


 「あたりめーだろー。モンスターなんか食っても美味くねーもん余程のもの好きしか食わねーぞ。普通食べんのは食用の家畜とかだ」


 「へー、てか美味くないって食べたことあるんですかモンスターってやつ」


 「……聞くな」


 これいじょうこの話はしないほうが良さそうだと思った時、店の扉が開く音がした。




 「ういーす。あれえ、おやっさんその子誰ー新人クン?」



 その女性を見た瞬間俺は何よりも最初に


 とってもとっても美人だなと思ったのである。

 

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