第5話 エイユウノハナシ

「ファンタズムの伝承にこんな一節がある」


バロックさんは語りだした。




十三月のキセツが失われる時


黄昏より選択者が現れるであろう


もたらすは破滅か救いか


それはキセツの導きのままに





「とまあこんな具合だ。俺の親父が生まれる前ぐらいまでは、長らく十三月のキセツが続いてたらしいが、今はまだ半分以上のキセツが欠けている。そんな時に、違う世界のことを話すおめえさんが現れたとありゃあ、伝承の通りならこれは世界の導きなんじゃねえかって思えるのも不思議じゃねーんだな」


選択者?


救世主?


なんだか頭がどうにかなりそうな話だけれど、どうやらこの人の話は嘘でも妄想でもなく、現実であり本当の話なんだろうなと思わせる力があった。


「まあ、おめえさんが何者で選択者なのかどうか、俺には確かめる方法もねえしな。可能性があるってだけだ。こういう話に詳しいやつがいりゃ良いんだが、あいにくこの辺りには詳しそうなやつはいねえんだよな」


どうやら、受け入れなくちゃいけなさそうだ。

信じたくないし、簡単には信じられないけれど、目の前に広がっていた異国の情景やバロックさんの話を聞く限りこれは現実であり、俺はなんらかのきっかけ、例えば世界線でも越えて、ファンタズムという異世界へ来てしまったということに。


「俺はこれからどうすればいいんですかね」


「うーん、俺にはこれ以上おめえさんのためにしてやれることはねえしな。一番の近道は、おめえさんと同じかもしれねえ選択者に会うことなんだが、簡単には会えねえだろうしな」


「え、俺の他にも選択者ってやつがいるんですか!」


「ああ、何人かいるって話だ。」


良かった。どうやら俺の他にも、この世界に来てしまって選択者って呼ばれてる人がいるみたいだ。とりあえずは、その中の誰かに話を聞いて元の世界に帰る方法を教えてもらわないと。


「どこにいるか、わかんなかったら名前だけでも教えてください!」


「すまんが詳しい居場所までは俺にはわからんが、名前だけなら教えてやれる、なんてったって皆有名人だからな。そうだな、俺が知ってるだけで三人」


「まずは、一番有名どころでいくと、「一月の英雄 ソラの騎士 ハロルド」 だな。十三月が失われて世界が混乱している時に、最初にキセツを取り戻し、現在の王都コンバスを生み出したって言われてる。後に当時の王様によって選択者だと公表された最初の英雄だ。」


「それと、「九月の英雄 シイナ」 十年ぐらい前になるかな、過去に手練れの冒険者達が数多く命を落としてきた、九月の搭を無名の冒険者が攻略して、「奪いし者」からキセツを取り戻した。シイナという名前そして、おめえさんみてえに真っ黒な髪をしてるから、「クロガミのシイナ」 とも呼ばれてる。コイツも、五年ぐらい前に王様から選択者って公表された」


「でもう一人は、「レイ」 こいつの話はまあ今のおめえさんには必要ないだろう」



聞き慣れない単語がいくつも飛んできて、色んな話が入ってきてパンクしそうだけど、必死で頭を働かせて考える。ひとまずは、手掛かりに会うことが最優先だ。


「その人達にはどうすれば会えますか」


バロックさんは、手のひらを上に向けてわからんといったポーズをとる。


「すまねえ。俺にはそいつらに会う伝がねえ。ソラの騎士ハロルドは、もうずっと前に行方知らずだって言うし、クロガミのシイナは第一級の危険に指定されてる、十一月の霊園のダンジョンに潜ってるって話だから、会いに行くのは不可能だと思ったほうが良い。レイに関しては居場所の手掛かりすらねえしな」


目の前に手がかりをぶら下げられて、手が届かずもどかしい気持ちが溢れてくる。



「そう落ち込むな、おめえさんは一度王都に行ってみるのが良いと思うぞ。あそこにはこのファンタズムのありとあらゆるものが集まってくるからな」



……それもそうだなと思う。落ち込んでいても現状の解決には繋がらないだろう。少しでも可能性のあるほうへ進もう。


けどその前に、俺はこの世界のことを何もわかっていない、ハロルドさんからはまだもう少し話に付き合ってもらうことになりそうだ

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