十三月のある世界にイロドリヲ

yuta

第1話 12→13

もうすぐ午後五時をまわろうかというのに八月の照りつけるような暑さは、ますます強くなっているような気がする。


 「あちーな」


余りの暑さにおもわず独り言も出てしまう。

休日だというのに部活の練習で一日が終わって憂鬱な気分になっているのに、加えてこの暑さだ。早く家に帰ってクーラーのある場所で横になりたいという気持ちとは裏腹に、部活で疲れて暑さに体力を奪われた体はどうにもいうことをきかない。


無心で自転車を漕ぎ気が付くと高校から家までの帰り道の途中で一番の難所である、地元じゃ「地獄坂」 と呼ばれている所まで来ていた。

ちなみに地獄坂の名前の由来は一目見ればわかる。どこかのアニメに出てきたようなありえないほど急な坂だからである。

ここを登りきればコンビニがある。つまりオアシスが目の前にあるということである。


「ふー」


自転車を漕いで登るのは今までの経験から言って無理があるので、自転車を降り一息ついて気合を入れ、ありったけの力を振り絞り目の前にそびえ立つ坂の頂き目指して一歩踏み出した。





――ミーンミーンミンミン


 「はあ、はあ、はあ……うるせーセミっっ!!」


 まるで必死になっている俺を嘲笑うかのようなセミの鳴き声に苛立ちを抱きながらも、オアシス目指して歩を進める。

 そして坂の頂きが見え、ゴールまであとほんの少しだと思った時急に頭がふらふらしてきた。


 なんだこれ熱中症かな?


 と頭に疑問を浮かべながらも、もう少しで坂を登りきれると一歩ずつ前に足を踏み出すが、だんだんと体の感覚が無くなってゆく。

 まるで徐々に世界から自分が切り離されていくような感覚を覚えた。

 ゆっくりとゆっくりと深い眠りにつくように。


 そして朦朧とする視界の先に、夕日を背に坂の頂きに浮かぶ人影を見た。



 「――――て」



夕日が映える鮮やかなオレンジ色の髪をした少女だ。


そう思った次の瞬間、俺の意識は完全に途切れた。




Next. 十三月のある世界 第一部 少年とキセツ

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