ユナイテッド・クリエイター:あなたと一つになりたい!

相田サンサカ

第1章 赤色のインディビデュアル

01:章ダイジェスト

 * マジカル美少女 *



 (僕には、あんな可愛い女の子は高嶺の花だなぁ。見ているくらいがちょうどいいや)


 そんなひ弱なことでどうする! と自分を叱咤する彼も、心のどこかにいた。が、こんな人だかりでナンパする度胸は、とても彼にはない。


 一通りマジックが終わる。観客がやや名残惜しそうに離れていくのを尻目に、少年はそこでぼんやり立っていた。そして後片付けする少女を、眺めている。


 不意に、少女と目が合ってしまった。


 「……ねぇねぇ、ちょっと。そこの君」


 少年は、自分の後ろを振り返った。


 「いやいやいやっ! 君だよ君。いま後ろ向いた、男の子の君ね」

 「は、はぁっ……!? ぼ、僕ですか?! すいませんっ、ありがとうございます!」

 「? なんでいきなりお礼言われてるの私。あ、マジックが」

 「僕に気づいてくれて、ありがとうございますっ!」

 「……えー?」


 涙ながらに礼を言う少年。いっぽう少女は訳がわからないという風に、口を「~~」という形にした。


 「お礼を言うことかなぁ? そりゃ、だって君。ずっと突っ立って、こっちを見てたでしょ? 誰だって気づくよ、普通」

 「はっ……そ、そうですか!? すいません、別に変なとことかは全然、みっ、見てないんですがっ……!」


 ミニスカートと、そこからのぞく太ももを、少年はチラ見してしまった。


 (あ、ヤバ。見ちゃった……ていうか、何言ってるんだ僕は?)


女子と会話のキャッチボールを交わすのは何年ぶりなのか、少年には分からなかった。


 どちらかというとドッジボールみたいな感じで噛み合っていないのだが、ともかくも、少年は舞い上がった。


 「なに? 自分から申告するとか、おっかしー。緊張とかしてるワケ? カワイー!」

 「いやぁ、アハハハっ」

 

 (あなたのほうが可愛いよ……!)


 「変なとこ見てなかったのは知ってるよ。だって私も見てたもん。君のこと」


 少女は、マジックしていたときの、あの魅力的な笑顔をしてみせた。遠くから見てた時もつい吸い寄せられそうな笑顔だったが、近くでも印象はそのままだった。


 「アハハハ……は? え、それってどういう……?」

 「いやー、ちょっとね……私、君のことが好きになっちゃったかも」


 

 * 瞑想&マッサージ *


 

 「は、はぁ~~~~っ……」


 肩から背中、二の腕、前腕、と――マッサージされることは、意外と気持ちが良く感じられた。美咲に指示されなくとも、居留守いるすはきっと、心地よさのあまり自然に深呼吸していたことだろう。


 (気持ちはいいけど……な、なんだこの状況。暗闇で女子にマッサージされるって……ちょっと、怪しいお店か何か!?)


 美咲の細い指が肌に、筋肉にめり込むたび、疲労物質が溶けて消え去るような感覚を覚える。居留守は、思わず目を細め、天を仰いでしまった。


 その至福の時間もまた、あっというまに過ぎ去る。


 「よしよし、だいたいいいかな? リラックスできた?」

 「ええ、それはもう……」


 居留守は大嘘をついた。本当はリラックスどころではない。


 彼は、愛想はあるほうだ。が、しかし、それを損なって余りある影の薄さがある。いままで恋人はおろか、ろくに女子の友達と触れ合ったことはなかった。


 (み、美咲さん……なんか今の……! 今のは、ちょっと……!) 


 そんな彼にとっては、荷が勝ちすぎた。暗闇で、異性に優しく揉みほぐされるなど……。


 「マッサージ」「リラックス」という言葉が、何かいかがわしい意味をもつ言葉として、居留守の脳内辞書に登録されてしまいそうなほどだった。


 「じゃあ次は、私をお願いね」


 おもむろに、美咲が上着を脱ぐ。衣擦れの音が、やけに大きく響いた。


 「はいっ♪」

 「えっ、ええ~?! 僕が、美咲さんを……ですか?」

 「当ったり前でしょ? 自分だけやってもらって、はいお仕舞いで済ませる気? 冷たいなぁ~居留守くんは」

 「わっ、分かりましたよ! 分かりました! やればいいんでしょう、やれば!」



 * 退行催眠 *


 

 「……では、過去の世界を覗いてみましょう。今から三日前、携帯電話を持っていたときのことを思い出そうね。まず、あなたは携帯電話で何をしていたかしら?」

 

 (おぉ、なんだか本格的だな……これはいけそうだぞ!)

 

 居留守は、何も分からないながら、催眠術をあやつる美咲にのまれていた。やがて、るぅは口を開き――


 「わん! わん! わん! わん! はっ、はっ、はっ、はっ、はっ!」

 

 犬っぽい鳴き声を発した。

 

 「「……は?」」

 「わおーーーーーん!」

 

 居留守と美咲が彫像のように固まる。対して、るぅはやたらに元気に部室を走り回った。四本足で……。

 

 「わん! わん! わん! わん!」

 「なっ……何をっ!? るぅちゃん!?」

 

 るぅはツインテールをなびかせ、走る。部室をきっかり三周した後、脇に立っていた居留守へ突進した。

 

 るぅの犬っぷりがあまりにも迫真だったため、居留守は驚いて腰を抜かしてしまう。そこに、るぅが馬乗りになる。

 

 「わんわん! わん! わん! わおんっ!」

 「ぐぉぉぉっ! ど、どうしたんだいったい!?」



 * 迷子 *



 「そ、それにしても、そんなにいっぱいスマホ落としちゃうとか。お茶目さんだなぁ、るぅちゃんは……」

  

 と、いきなりるぅはぽろぽろ涙をこぼしはじめた。

 

 「う、ぅっ……!」

 「ちょっ、なんで泣いてんの!? ゴメン、気に障ったかな……?」


 居留守はるぅの背をさすりつつ、ハンカチを差し出す。るぅは、「チーンッ!」とハンカチで思いっきり鼻を噛み、しかし嗚咽を止めなかった。

 

 「違うの。バカ兄貴、私……怖いの。だって、携帯失くしたのは、今回だけじゃないの。ほんとはここ一週間、毎日ずっと失くしちゃってて……」

 「……ええぇぇっ!?」

 

 毎日ずっと、携帯を失くしてしまう。という、異様な言葉が居留守の脳裏に刻み込まれる。

 

 「今まではなんとか、自分ひとりで見つけてたんだけど。でも、今日だけは違くて、ものすごい遠くにスマホが行っちゃってて……! しかも定期まで失くすし……なんか、私最近ヘンだよ。なんでこんな失くしちゃうんだろ。どうしよう。ねぇ、バカ兄貴……!」

 

 るぅは一気に言うと、そこでしゃくりあげた。とにかく、我慢していたものを一挙に吐き出した――という風だった。

 

 「そ……そんなにいっぱい失くしてたんだ」

 

 (確かに尋常じゃないや。どうしたらいいんだろう……)



 * 赤色チャクラ解放 *



 上昇と下降を行う2つのエネルギーは、お互いの存在を発見した。それらは互いにぶつかり、互いにもつれあい、互いに交換しあうこととなる。

 

 三次元世界サード・ディメンションの物理法則を無視し、操作しうる不可思議な力――超能力サイキックの回路がようやく一つ、使用可能なレベルにまで回復・増強されたのだ。


 居留守の体から放たれるオーラの色が、瞬時に変色したのを見て取り、美咲はほくそ笑んでいた。本人さえ気づいていない、神経叢ニューロプレクス上昇の重大な意味に、気づいたのは美咲だけだった。


 (こんなに早く、神経叢ニューロプレクスが開放されるだなんて……。素質ありとは知っていたけど、早すぎるよ。居留守くん、君ずいぶん面白いね……!)

 

 らんらんと輝く、美咲の瞳。


 彼女の視線は居留守の服も、皮膚も、肉も内蔵までも見通している。はては、居留守の体内にある生命エネルギーがとぐろを巻き、お尻のあたりからどんどん上昇していく様を、はっきりと捉えていた。

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