第2話

次の日の放課後。

図書室へ行った。

少女が読んでいた小説、重松清の『きみの友だち』を探した。

読んだことがないので、興味があった。

本棚を探すが、見つからない。

使用履歴を見てみた。

今借りているのは…江本。

うわ、苦手な女子だ。

眼鏡をかけていて、いつも不機嫌で怖い。

昨日公園で会った、目が大きくてどこか神秘的できれいな少女とは、月とスッポンだ。

そんなことを思っていると、本人が来た。

「ちょっと、どいてくれる?」

僕は、いそいそと本棚へ戻った。

『きみの友だち』がないのなら仕方ない。

同じ重松清の『くちぶえ番長』を借りることにした。


学校からの帰り道。

まだ子供達がジャングルジムを登り、賑やかな公園へ寄り道した。

ベンチで早速『くちぶえ番長』を読んでみる。

何だ、これ。

面白い。

一気に読んでしまいそうだ。

「ニャー」

ふと気がつくと、黒猫、ハルが足元にいた。

子供達は、いつの間にか帰っている。

「こんばんは。」

昨日と同じ黒のワンピースを着て、目のぱっちりと大きな少女が来た。

僕と目が合うと、ニコッとした。

僕は、ドキッとする。

「お隣、いい?」

「うん。」

僕の隣に座った。

「あ、『くちぶえ番長』。それ、面白いよね。マコトの強さと優しさに、すごく感動する。」

「読んだことあるの?」

「ええ。夢中で、すぐに全部読んでしまったわ。」

「本、すごい好きなんだ?」

「ええ、すごく好き。」

「作家になりたいとか…思う?」

この本のプロローグでは、本好きの作者が作家になるための特訓のつもりで、おもしろいできごとや忘れたくないできごとがあると『ひみつノート』にかきつけていた、と書かれている。

それを思い出して、ふと聞いてみた。

少女は少し戸惑ったが、控えめに頷いた。

「すごい!ねぇ、『ひみつノート』、作ってみてよ。」

「『ひみつノート』?」

「そう。『くちぶえ番長』の作者が、将来作家になるために作ってたノート。」

「そういえば、そんな節もあったわね。」

「そんで、小説を書いて!タイトルは…『黒猫少女』がいいかな!」

「何、それ?」

少女は、笑う。

「そういえば、名前聞いてなかったね。私、ルナ。あなたは?」

「僕は棗。よろしく!」

僕は、ルナと暗くなるまで重松清の小説を読んだ。

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