~ 第1話 宵闇



あの頃は毎日が楽しかった。

俺が育ったところは、娯楽などない、ただ山や畑、田んぼばかりの田舎だったが、それでも“生きている”という実感があった。

縁日、山登り、川遊び、夏にはホタルもやってきた。そんな日々が、俺は大好きだった。

その理由の一つに、あの子の存在があった。

幼なじみだった女の子。何をするにも一緒で、毎日顔を合わせては笑っていた。

お互いにこのまま成長していって、自然と彼女と付き合うようになって、そのままゴールイン…。なんて思ったりしたこともあった。


でもそれは今も彼女が隣にいたら、の話。


彼女は――。




* * * *




今でもはっきりと覚えている。あれは12年前の、とある夏の日。

俺と柚姫ゆきはいつものように遊んでいて、柚姫の希望で向かった場所。

大人の警告よりも好奇心が勝っていたあの頃の俺たちは、何も知らなかった。知らないことは経験していけばいいんだと思っていたのかもしれない。

それが俺と柚姫の思い出に、ハサミを入れることになるとも知らずに。


「ねぇねぇ、一樹いっきくん。アイス持ってきたから、はんぶんこしよ?」

「ありがとー。今日は何して遊ぼっか?」

「あのね。行ってみたいところあるの。おじいちゃんは絶対ダメって言うんだ  けど」

しげじいが?それ絶対あとで怒られるんじゃ…」

「そ、そうだよね」

「…うーん。いいよ、行こ!」

「え、いいの?」

「いいよ。暗くなる前に帰れば大丈夫だよ」

「やったー」


ただただ無邪気だった。“行ってみるだけ”。危ないことは絶対にしないし、何かが起きるなんてことも考えてなかった。

今ならはっきりとわかる。

あそこが、あの場所が、俺と柚姫の分岐点。



柚姫はこの12年、一度も目覚めていない――。



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