第13話 郭公

郭公(クルワキミ)は、現在のこの状況に浮かれていた。

大学に入ってからというもの、毎日が退屈だった。厳しい受験戦争を勝ち抜き、志望校に入ったが、これまでそこを目標としていた為、その後の事を全く考えてなかった。その為、毎日が退屈だった。その退屈を紛らわす為に始めたのが、動画サイトで投稿だった。当初は、流行の波にも乗って順調に伸びていた視聴回数も、1年経った頃には、1万回台で頭打ちをしている。色々企画をし、準備に何週間も掛け、ようやく投稿した動画の反応は、イマイチ。寄せられるコメントは、酷評が目立つ始末。先人達は、よく続けられるなと思いながら、次の企画のネタ探しの為、取り敢えず胸ポケットにカメラを着けて出かけた。カメラの画像は、Wi-Fiを経由して、家のハードディスクに保存される。今日一日外をブラつき、その画像を帰って来た時に確認する。それが郭公の猛暑の今日の予定だった。しかしそれは、たまたま涼み入った銀行で、銀行強盗に鉢合った事で変わった。

「ラッキー!」郭公は、そう思った。

「人生において、銀行強盗に鉢合うなんて、街中で芸能人に会うより可能性がかなり低い。その銀行強盗が、今目の前にいる。これを撮らないで、どうする。しかも人質なんかになり、長引けば長引くほど、それだけ話題性も上がる。視聴回数も1千万回どころか、1億回越えも夢じゃない!!」

郭公は、心底そう思った。だから敢えて逃げ遅れた。敢えて人質になった。敢えて強盗に言われた通り、予備機のスマホを差し出した。敢えて撮影がやり易くする為、馬鹿なフリして大人しくしていた。全ては、自分の動画を見てもらう為だった。そして事態は、郭公にとって、更に良くなった。

「この人、死んでる。」

郭公の目の前で、強盗が急死した。こんな展開、映画か漫画でしか見た事がなかったから思わず、「マンガみたい」と言ってしまった。一瞬注目を集めて郭公は、胸ポケットのカメラがバレるのではないのかと正直肝を冷したが、誰かが「外に出よう」とすぐに言って全員がその通りに動いたので、安堵した。それと同時に、事件が終わった事を内心残念に思った時、また思わぬ展開が生じた。

「これからは、私が銀行強盗になる。だから全員、大人しくしろ!」

殴られ倒されていた支店長が、急に銀行強盗宣言し、郭公はまた「ラッキー。」と思った。

「まだまだ面白い展開が続くなんて、まるで撮ってくれと言っているようだな。」

郭公は、心が踊った。そして目の前の状況を撮り続けた。支店長が倒れ込み大泣きしたところ。それを見た作業服を着た社長さんが、「子供店長」と言ったところは、郭公は思わず吹き出してしまった。その後語った支店長の身の上話にはムッとした郭公は、つい「栄転だろ!」と口を挟んでしまったが、その後の社長と支店長の言い合いで、場が面白くなったから良しとした。しかし鷹田という男が身の上話が始まった時、郭公は退屈な動画になりそうで不安になったが、その不安は鶏冠井というオバサン銀行員が社長を殴り倒した事で解消され、郭公の不安は、そのまま期待感に変わった。その後鶏冠井が話をした時、鷹田と同じような事を言うと思い、「羅生門って、何?」なんて馬鹿な質問で茶々を入れてみたが、鶏冠井の気迫に負けて引っ込んだ。そしてあの演説と雛形というサラリーマンの奇声には正直引いたが、自分の動画が面白いものになるのでそれも良しと思い、郭公は、撮影を続けるついでに鶏冠井の計画に協力した。

「良い動画も撮れ、大金も手に入る。これでこの後、編集した動画をアップし、視聴回数を確実に伸ばせれば、パーフェクトだ。」

そう思いながら作業をしていると、郭公は、誰かに見られている感じがし、気付かれないように周りを見た。するとあの鷹田がこっちを見ていた。その時郭公は、自分が浮かれて油断していた事に気付いた。

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