第4話

鷹田は、体勢を立て直して身構えながら、周囲の状況を確認した。小汚い坊主頭の男は銃を持っていて発砲し、鷹田がそれをかわした事によって後ろにいた警備員に当たった。警備員は、その衝撃で体ごと壁に激突し、その反動で床に叩きつけられるように倒れ込んだ。鷹田を応対してくれた銀行員は、一連の流れを目の当たりにしてしまい悲鳴を上げていた。それを黙らせるように銀行強盗が、常套句を叫んだ。

「金を出せ!」

それが引き金になって、銀行内は一気に混乱した。店内にいた客は我先にと出入り口に殺到し、店外に逃げ出した。しかし、鷹田を含む銀行強盗の目の前にいた人間は、銃口がこちらを向いていた事と銀行強盗の血走っている目で睨まれていた事で、逃げ出す事が出来なかった。結果、鷹田含めた客4人と銀行員3人が人質となってしまい、銀行強盗と一緒に銀行に閉じ込められた。奇しくも鷹田を除くその6人は、鷹田が銀行に来た時に気になった6人だった。

それから銀行強盗は、あれこれ命令をした。銀行員3人の内、2人の女性銀行員に金庫のお金を全て出すように言い、そして命令を区切るように、残りの1人の銀行員-支店長の頭を持っていた銃で殴りつけた。支店長は、銀行強盗に対して説得をしていたが、殴られた事でその場でうずくまり、声になっていない唸り声を出して痛さを周囲に知らせた。これが効果的に周囲の恐怖心を煽り、みんなを従順にさせた。

殴られた支店長除く残りの人間は、銀行強盗の命令で手分けして支店長と撃たれた警備員を抱えさせられ、店の奥にあった応接セットに集められた。そして、ここから動くなと怒鳴りつけた。その後銀行強盗は、携帯電話など外と連絡が取れるものを取り上げ、それらを全て破壊し、さらに店内の固定電話やパソコンも壊しまわった。その姿に殆どの人は、恐怖した。しかし鷹田だけは、自分でも驚くほど冷静だった。冷静に銀行強盗とそれ以外の人間の様子を密かに窺い、独自に分析した。

銀行強盗は、明らかに興奮している。ただ、その興奮の仕方が異様な感じがする。いずれにしても、今あれをどうこうしようとすると返り討ちに合うのは確実。ここは、様子見に徹しよう。鷹田はそう分析し結論した。そしてその調子で他の人間も分析していった。

女性銀行員の2人は、黙々とお金を金庫から出している。以外に怯えている様子はない。特にあの可愛い銀行員。悲鳴を上げた割には、堂々としている。それとも、悲鳴を上げたから堂々としていられるのか。どちらにせよ、やっぱり女はこういう状況に馴染むのが早いな。鷹田は感心したと同時に、一方私達男は、馴染むどころか状況も把握出来ずにオドオドしていると、情けない気持ちにもなった。

サラリーマンは、只でさえ弱々しいのに状況を理解出来ていないから、余計にオドオドして今にでもショック死しそうな感じだった。学生風の男も、寝起き為か状況を理解するのに時間が掛かっている様子だ。けど気のせいか、銀行強盗ほどでもないが、こちらも落ち着きが無い感じだった。その中で鷹田は、一番情けない男を見つけた。

銀行強盗に頭を殴られた支店長。彼は思ったよりもダメージが無いみたいで、どうやらあの動きは演技だと鷹田は見抜き、姑息な人だな思った。そう思った時、同じような目で支店長を見ていた人間が、もう一人いた事に鷹田は気づいた。銀行強盗が乗り込んで来る前、支店長と喧々囂々とやりやっていた男-社長は、怒りの表情で支店長を見ていた。

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