第76話巨大な城壁計画と市民感情


さて、シャルルの発案をもとに、集められる限りの城壁設計士、海賊、そして本来は敵将であるアッティラまで加わり作成された城壁計画について述べるとしよう。


まず、広さ、範囲の面においては、コンスタンティヌス帝の城壁よりも西方1キロ半に、南北7キロにわたって続いている。

南はマルマラ海岸から始まり、テオドシウス1世が都の郊外に建てた凱旋門を第一の門として、途中大きな門を六つもち、北は金角湾に至っている。

また、今回の改修で城壁は三重の構造を持つことにした。

まず、市外から攻めてきた敵に対する堀を作る。

幅は約18メートル、深さも7メートルとした。

その内側に外城壁を作る。

高さは8メートル、ほぼ100メートル間隔で高さ10メートルの塔を設置する。

そしてさらにその内側に巨大な城壁を作る。

内城壁として高さは12メートル、幅5メートル、ほぼ等間隔に高さ18メートルの塔を計96設置する。

マルマラ海と金閣湾に沿った海岸にも城壁を設置する。

しかし、この海戦の将ペトルスとシャルルによりテオドシウス帝の配下となった「元海賊」の大量の小舟があり、海軍力としては、なかなかビザンティン軍を脅かす存在の出現は想定できなかった。

そのため、それほどの頑丈な設計は施していない。


確かに史上まれにみる大城壁である。

当初は市民に発表するにも、少々ためらっていたヨロゴスであったが、既に建築資材を発注済みである。


「あのシャルルのことだ、資材が届くと同時に、スコップを持ちかねない」

「それでなくても、弱い身体だ、絶対に持たせられない」

アテネからの船旅、そしてビザンティンでの食事の席でも極端に食欲がないシャルルを、ヨロゴスは心配していた。


「あの身体に重労働など絶対にさせられない」

ヨロゴスは、皇帝船の手前で、一旦、その馬を止めた。

そして、「扇動役」の弟子に、扇動の中で言葉を付け加えるよう命令した。


「あの、か弱いシャルルが、自らスコップを持つと言っている」

「ビザンティンへの愛の証として、その命まで捧げると言っている」

「そして、アッティラは、シャルルの命が天に召されたと同時に、ビザンティンを攻めると断言した」


特に最後の「シャルルの命とアッティラの攻撃」の部分がビザンティン市民の心を揺さぶった。


「確かに途方もない計画だ、しかし、これなら誰にも攻められない」

「資材は、シャルルが発注してしまったらしい」

「皇帝ではないのか?」

「いや、それが官僚が反対したとか」

「さすがミラノの大富豪・・・しかし、それでいいのか?」

「俺たちの街の護りだろう!何故俺たちが払わないのだ!」

「それに、あのか細いシャルルがスコップだと?」

「それで、シャルルが倒れれば、アッティラに攻め殺されるだと?」

「俺たちの名誉はどうなる!」

「他の国の男に金を出させ城壁を作らせ・・・」

「か弱い他国の男に過酷な作業を行わせ・・・」

「そして、また他民族に殺されるのか?」

「・・・そんな不名誉なことがあるか!」

「この世が続く限り、そんな不名誉は語り継がれる・・・」

「腰抜けビザンティンとな・・・」


そんな市民感情が広がるのも早かった。

ヨロゴスが「扇動役」に指令を出したその晩には、数多の市民が皇帝船の前に集結しのである。

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