第63話ビザンティンの空の下

アッティラは「宮廷人たち」の前に立った。

そしてアッティラの軍勢は既に完全武装、500人を超える人数で宮廷人を取り囲んでいる。


ペトルスが甲板の上で、その手を高く上げると、アッティラもペトルスの顔をわかったらしい。

アッティラも、同じように、その手を高く上げる。


「おおーーーーっ!」

そのアッティラに呼応して、完全武装のアッティラの軍勢が鬨の声を上げる。


「ふ・・・度肝を抜かれていやがる」

「宮殿の中だけは強いが、一歩外に出れば、張子の虎」

「官僚は内部には強いが、外敵にはからっきし弱い」

「それにしても、早い、手紙を送った時には、既に近くにいたのか」

ハルドゥーンが、いろいろと考えていると、船の下の方から声が聞こえてきた。


「ほら!もう!無理って言ったのに!」

「小舟で船酔いって何?」

「ここまで、ずーっと船旅してきて、いまさら船酔い?」

メリエムの声である。

つまり、シャルルが戻ってきたようだ。


少しすると、確かに青い顔のシャルルが甲板にのぼって来た。

シャルルの周りには、心配そうな顔をしたメリエム、バラク、ヨロゴスがついている。



「シャルル様!」

ペトルスがシャルルに飛びつくかのように近づき、椅子に座らせる。


「ああ、申し訳ありません、思いのほか、波が高くて」

「どうしても、小舟に乗ってみたくて」

「かえってご迷惑をおかけしてしまった」

「私は、やはりミラノ出身、陸の人間のようです」

シャルルは、息をゼイゼイとさせている。


ハルドゥーンがシャルルの前に立った。

「アッティラの軍勢が完全武装にして、およそ500人を超え、陸側に待機しています」

「当然ながら、ビザンティンの数多の市民たち、ビザンティンの宮廷人たちが、お出迎えになっていますが・・・」

慎重なもの言いになる。


「・・・そうですか・・・それでは降りねばならない」

シャルルは、少しよろめきながら立ち上がる。

ハルドゥーンが、さっと脇を抱えた。


「挨拶は、降りてからのほうがいいぞ、シャルル君」

ヨロゴスがシャルルに声をかける。

「うん、シャルルのやさしい声だと、甲板の上からじゃ、聞こえない」

メリエムもヨロゴスの意見に同じようである。


「わかりました・・・」

これについては、シャルルも自覚しているようだ。

素直に頷き、甲板からの階段を降り口まで歩き出す。


「ふう・・・何とか、大丈夫かな」

メリエムは、ヨロゴスの娘ソフィアに声をかけた。

いつの間にか、仲良しになっているらしい。

「そうだねえ、陸に上がった時点で、シャルル様が何をするのか」

ソフィアは、シャルルの背中をじっと見ている。


「まあ・・・シャルル様のやることは、計り知れない」

バラクも、少し緊張し始めた。

やはり、元格闘士とはいえ、群衆からのプレッシャーを感じ始めている。



「まずは、私が連れ帰るお役目ですから、私が最初に陸地に降ります」

ハルドゥーンは、陸地に続くタラップの前で、シャルルに振り返った。

そして、シャルルの返事を聞くこともない。

胸を張り、群衆を注意深く見渡しながら、タラップを降りていく。


ほとんど、時差も無かった。


「おおーーーーーっ!」


群衆の叫びが港全体に轟いた。

ハルドゥーンに続き、群衆は、ついにシャルルの姿を、ビザンティンの空の下に見出したのである。

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