異世界に来たら普通の知識がチート扱いで無双できるなんて

雪瀬ひうろ

第1話

「やれやれ、どうやら異世界転生してしまったようだな」

 俺は先程、猛スピードで突っ込んできたトラックにひかれた。

 それで死んだ。

 目が覚めたら異世界に居たのだ。

「まあ、切り替えていこう」

 くよくよしても仕方がない。こうなったら異世界生活を思いっきり楽しもう。

「うーん、どこかでよく見た様な町並みだな」

 石造りの町並み。地面は煉瓦で舗装されていて、馬車が走っている。中世ヨーロッパのような雰囲気だ。ヨーロッパどころか日本からも出たことはない俺にはよくわからないが、これはきっとヨーロッパだ。

「さて、ちょっと街を散策してみるか」

 俺は町に足を踏み入れる。

 その瞬間だった。

「きゃー、誰か助けて!」

 絹を裂く様な女の悲鳴。

 俺は迷わず声のする方へ走った。

 そこにはかわいい女の子が居た。すごくかわいい。

 ちなみに俺も結構美形である。

「あ、そこのお兄さん、助けてください。強盗に襲われているんです!」

 無視をするのも寝覚めが悪い。

 やれやれ、仕方がないので女の子を助けよう。


「とりあえず、走って逃げるぞ」

 俺は女の子の手を引いて走り出そうとする。

 しかし、女の子はついてこれない。

「きゃっ、私はそんなに速く動けません」

「怪我でもしているのか?」

「怪我はしていませんが、あなたのようなスピードで動くことは不可能です。あなたはどうやってそんなスピードで移動しているんですか?」

 やれやれ、こいつはいったい何を言っているんだ?

「ただ、走っているだけだぞ」

「走る? なんですか、それは?」

「なんだ? 走り方も知らないのか」

 どうやら、この世界には「走る」という概念は存在しないようだ。

 仕方がないので俺は「走る」とはどういうことか説明してやる。

「右足を前に出して、その右足が地面につく前に素早く左足の方も上げるんだ。これを交互に繰り返す。そうすると、歩いているとき以上のスピードで移動することができる」

「すごい! そんなことは思いつきもしなかったわ!」

 女の子はすごく驚いているようだ。

「右足を上げている間に左足を上げてしまったら倒れてしまうと思っていたもの」

「そこが盲点なんだ。実は右足を上げている間に左足を上げても倒れたりはしないんだ。慣性の法則があるからな。確かに、誰にも教えてもらえなかったのなら、思いつかなくても仕方がないかもしれないな」

「さっそくやってみるわ」

 俺たちの会話の間、すぐ近くで待機していた強盗が言う。

「金をよこせ!」

「走って逃げるぞ!」

「はい!」

 女の子は俺に言われたように足を動かす。

「すごい! 今までの倍以上のスピードで歩けるわ!」

「これは『走る』って言うんだぜ」

「『走る』ね! パパやママにも教えてあげなくっちゃ!」

 俺たちは走って強盗から逃げる。

「くそ! なんだあいつら! なんであんなスピードで動けるんだ!」

 強盗たちは当然走り方を知らないから、ゆっくり歩いて追いかけてくる。あれでは追い付けるはずがない。

「歩くよりも走る方が速いんだ。これは小学生レベルの知識だよ」

「くっそー! 覚えてやがれ!」

 強盗は悔しそうに地団太を踏んだ。

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