グリムノーツ『力太郎の想区』

えふけい

第1話

開けた平原にまっすぐに伸びた街道。雲ひとつない青空では、鳶が一羽ピーヒョロロと輪を描いて飛んでいる。

「のどかなもんだなあ。お嬢、本当にこの想区にカオステラーがいるってのか?」

タオが少し疲れ気味に傍らを歩くレイナに問いかける。

「この想区に気配は感じたのだけど…たしかにそれらしい展開にならないのよね、今回は」

レイナが言うとおり、今までエクス達が巡ってきたカオステラーが関与した想区では、足を踏み入れてからそう時間をおかずにヴィランの襲撃に遭ってきた。

カオステラーからすれば、調律の巫女レイナは天敵と言っても良い存在であり、だからこそヴィランの襲撃は当然と言えば当然のことである。しかしながら今回訪れた想区では、街道沿いに旅を続けてはや二日、何事もなく過ぎている。

「お、シェインが何やら情報を掴んできたようだぜ」

先ほどまで一行よりも少し前を歩いて道行く旅人と何やら話していたシェインがレイナの隣に戻ってきた。

「どう?何か有益な話は聞けた?」

「はい、バッチリです。シェインの話術を甘く見ないでください」

シェインが少し誇らしげに胸を張る。

「ここからもう少し歩いたところに茶店があるそうなんですが…」

少し意味ありげに止められたシェインの言葉に、レイナだけでなくタオやエクスも耳を傾ける。

「そこのお団子が、生のヨモギを練り込んだヨモギ団子で、それはそれは絶品だそうです」

3人にとって見事なまでに予想外な答えが告げられた。

「あのねえ!この旅はグルメツアーじゃないのよ!」

呆れ半分、バカ負け半分といった感じでレイナがシェインをどやしつけるが、当のシェインは相変わらずのしらっとした態度を崩さない。

「まあまあ、たまにはグルメツアーも良いんじゃねえか?坊主もそう思うだろ」

「あはは… でも、たまにはこんなのんびりした時間があってもいいと思うよ、レイナ」

タオに話を振られて、エクスも自分の考えを口にする。そもそもレイナ自身が、声を張り上げはしたものの本気でシェインの報告を無下にするつもりなど無く、言うならば言葉によるじゃれ合いのようなものであり、タオもエクスもそれは当然のように理解していた。

調律の旅の最中のほんの少しの他愛のない時間。しかしそれは、不意に周囲を囲んだ敵意ある気配に打ち切られた。

「ちっ、こっちがのんびり行こうと思った矢先にこれかよ。こいつらどっかで隠れてスタンバイしてんじゃねえか?」

タオの舌打ちと合わせるかのように、エクスたちの周囲にヴィラン達が現れた。油断無く周囲を伺いながら、あるいは悪態をつきながら、エクス達は栞の力を借りて英雄達とコネクトし戦闘に備える。

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