闇の深い女の子と酒を飲む短編集

夜見方ルビ

第1話 オタサーの姫と従者(亡国)

◆後輩

かんぱーい。


◆男

かんぱーい。


◆後輩

今回はよくもったほうだと思うわ。先輩はどう思う?


◆男

どうって。まあ、確かに最長記録ではあるよな。三週間だっけか。あそこで長谷川君が公衆の面前で「君は僕の彼岸花さ」とか言わなければなあ。


◆後輩

ええ。あれのおかげでリアル大乱闘がはじまってしまったものね。アイテムなし。制限時間なし。ストックが一個しかないことさえ除けばいつも通りだったんだけど


◆男

元はといえばお前が不用意に肩に触れたのが原因だろあれは。


◆後輩

だって


◆男

いい加減、やつらの女性に対する免疫の低さには慣れてくれよ。お前、見た目だけはいいんだからさ。


◆後輩

中身は?


◆男

......


◆後輩

ねえ? 先輩、聞いてる?


◆男

中身ねえ。自分でゲームサークル立ち上げて男集めて、色恋沙汰起こしてサークルつぶすっていうサイクルをもう三回もやってるやつの中身ねえ。


◆後輩

先輩だってその片棒を担いでるでしょ。メンバー集めとか協力してるわけだし。


◆男

......いい加減、これやめたらどうだ? 業を重ねすぎた俺たちの来世がハエ以下になる前にさ


◆後輩

あ、話そらした! でも私やっぱりみんなでワイワイゲームやるの好きなのよ。


◆男

だからってサークル作らんでもいいだろ。今ならネット対戦だってできるんだし。


◆後輩

リアルなつながりを私は求めてるの! くそアプデとかについて語り合いたい!


◆男

じゃあ、学部の友達とかにしろよ。


◆後輩

エンジョイ勢はお呼びじゃないのよ!


◆男

結構ガチなのな。ならゲーム大会とかで友達作れよ


◆後輩

......あいにくそこまで強くはないわ。


◆男

そうかい


◆後輩

あ、今面倒くさいとか思ったでしょ。


◆男

逆に思われてないとでも思ったか。


◆後輩

ひどい!


◆男

ひどくない。じゃあ、つまりあれか。結局のところこのままでいくしかないわけか。


◆後輩

そういうこと。ゲームサークルを作り、それをなるべく存続させる。私の先輩の力でね。今回についてほかに課題点はない?


◆男

あー。今回っていうか、今までの三回を通して思ったことだけどさ。やっぱりお前自身に問題があると俺は思うわけよ。


◆後輩

え?


◆男

え? じゃねえよ。俺なりにどうしてサークルメンバーがお前に突撃してそれがもとでサークルがめちゃくちゃになるかってのを考えるとさ、やっぱお前が悪いわけ。


◆後輩

どこが! 見た目? 性格?


◆男

あー? 状態?


◆後輩

状態!? 何かバッドステータスでも持ってるの?


◆男

うむ。お前がフリーってことが問題なんだよ。だってそうだろ? ものすごくかわいい女の子が、自分のそばにいてしかもフリー。男だったら突撃しないわけがない。サークル総員でそう考える。だからサークルも壊れる。どうよ?


◆後輩

こほん。つまり、先輩は私が彼氏を作ればいいと言いたいわけね


◆男

ああ。別にいるふりでもいいが。彼氏がいるかと聞かれたときにいると答えれば普通突撃はしないだろう。


◆後輩

そういうの、あんまり得意じゃないわ。嘘をつくってのも嫌だし、そのために恋人を作るってのも変な感じ。


◆男

急にまともなこと言うな。勘違いするだろ。


◆後輩

なに。好きになっちゃった?


◆男

お前がまともだと思っちゃったろ。


◆後輩

.....


◆男

もうなりふりかまっていられないだろ。別に経験がないってわけじゃないだろ?


◆後輩

......


◆男

......あ?


◆後輩

......


◆男

......え? いやいやいや。あるわけねえだろ。お前それであのムーブするの? あの童貞を確実に殺すあの動きを? 嘘だあ。


◆後輩

あの、付き合ったことがないってわけじゃないけど、そっちは、その。


◆男

皆まで言うな。分かった。あ、そうだ。彼氏作ってそいつとゲームすればいいんじゃ? 人数に関しては友達を紹介してもらえば


◆後輩

もうそれは経験済みなの。どうなったか聞きたい?


◆男

いや、いい。大体見当はつく。確かに自分よりゲームのうまい彼女ってのは男のプライドを著しく傷つけるかもな。


◆後輩

そういうこと。だからその案はだめ。でも、もうそうするしかないのかしら。彼氏を作るしか。


◆男

ま、大学生活ゲーム以外のことしてみるのもいいんじゃねえの。ということで彼氏つくれ。はい、終了! 帰る!


◆後輩

待って! 待ってよ! 先輩


◆男

帰ってペットのカメに餌をあげなきゃ。


◆後輩

いいから!


◆男

お前ならそのくらい朝飯前だろ。


◆後輩

あの。


◆男

なんだ


◆後輩

あのあのあのあのあのあのあの。


◆男

あ?


◆後輩

――彼氏ってどうやって作るの?


◆男

いやおまえだってさっき


◆後輩

確かに彼氏がいたことはあるけど、作ったことはないの


◆男

どういうことなの......


◆後輩

いや、だから


◆男

あー。待った。なんとなく分かったわ。要するにこういうことだ。

――お前、人を好きになったことないだろ?


◆後輩

う。


◆男

下手に見てくれがいいからなんとなく告ってくる奴となんとなく付き合ってたわけだ。


◆後輩

そんな人のことをまるで


◆男

そうだろ?


◆後輩


◆男

そうだろ?


◆後輩

......はい、そうです。


◆男

はあ。張り倒していいか?


◆後輩

唐突! それはあまりにも唐突だわ先輩! 私そんなに悪いことした!?


◆男

しいて言うなら何もしてねえのが悪いよな。今回に関しては。


◆後輩

面目次第もないわ


◆男

ま、いいや。お前ならあれだよ、適当に上目遣いしながら好きです、付き合ってくださいとか言っとけばなんとかなるから。方法はいいとして


◆後輩

いいの? 私のはじめて告白そんなのでいいの?


◆男

そんなこと言う前に今までの彼氏に謝れ? な? あ、やっぱりいい。めんどくせえ


◆後輩

もう先輩なんか知らない。料理全部食べちゃお。ぐびりぐびりぐびり。ぱくぱくぱくぱくぱく。ぷはあ。ぐびりぐびりぐびり。


◆男

問題は対象だな。ぶっちゃけ、お前今好きなやつとかいるのか?


◆後輩

ぶーっ!


◆男

うわきたな


◆後輩

いきなり何を! 何を!


◆男

そんな中学生男子みたいな反応すんなよ。ほらあ、好きな子ができることは不自然なことじゃありませんよお。


◆後輩

そっちこそ保健室の先生みたいな。正直きもいわ。


◆男

うるせえ、で、どうなの。


◆後輩

今はいないわ


◆男

うそだあ


◆後輩

本当よ。


◆男

なら身近な場所から候補を見つけてくしかないな。どうよ。学部の友達とかさ。そいつらから紹介してもらうとか。


◆後輩

......実は私ああいう派手な人たち得意じゃないの。


◆男

ダウト。いつもいっしょにいるじゃないか


◆後輩

友達付き合いってやつよ。談笑してるその裏では違うことばっかり考えてるわ。ソシャゲのアップデートいつ終わるかなとか。


◆男

お前の今の格好だってそいつらとそう変わらないだろ


◆後輩

これ姉さんの趣味なの。気が付いたら着せられてるわ


◆男

それでいいのか。


◆後輩

いいのよ別に。


◆男

お前もしかしてゲームのこと以外めちゃくちゃどうでもいいのか?


◆後輩

まさか。そんなわけ、ないでしょ、う? え? あれ? ちょっと。うそでしょ。


◆男

......


◆後輩

ええそうね。わりかしどうでもいいわ。


◆男

言っちゃったよ。


◆後輩

話戻すけど、あの子らの友達とかじゃ駄目よ。多分私の趣味に理解ないし。


◆男

確かにゲーム以外どうでもいいなんて言われたらつらいかもな。じゃあ、サークルに集まるようなやつは?


◆後輩

サークルメンバーと付き合ったらそれこそクラッシュするじゃないの。だからほかに彼氏探すんでしょう?


◆男

ああいやそうじゃなくてさ。ああいうやつで一人彼氏作ってさ、そいつはサークルに入れないんだ。そもそも入ってることを秘密にするとか。


◆後輩

あんまりにもかわいそうじゃない。わたしにはあなたしかいないみたいな顔しといて裏では大勢の男たちと遊んでんのよ?


◆男

ゲームをな。その言い方は少し危ない。


◆後輩

あー。どこかにいないかしら。私の趣味に理解があって、私のこういう性格も受け入れてくれる人。そしたらゲームに集中できるのに。


◆男

あ、終着点はそこなのな。


◆後輩

それ以外に何があるのよ? うーん。案外難しいものね。


◆男

そうだな。


◆後輩

うーん。


◆男

うーん。


◆後輩

あ。


◆男

どうした。


◆後輩

見つけちゃったわ。そんな人。


◆男

マジか。どこにいる。


◆後輩

じーっ。


◆男

あー。なるほど。


◆後輩

じーっ。


◆男

ちょっと考えてみるか。


◆後輩

じーっ。


◆男

......ないな。


◆後輩

ええ。ないわね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る