第27話 菊花賞―凡才、鬼才、そして天才―

 菊花賞前日までのタリスユーロスターの評価はボロボロ。たった1回だけの敗戦でそこまで評価は下がらないが、タリスの調教タイムがあまりにひどかったため、世間はプレタポルテの鮮やかな大逃げを期待していた。

 もちろんこれは諏訪調教師の作戦であり、わざとタイムを悪く見えるようにし、菊花賞に向けて調整した。



―菊花賞当日。ネットでネタにはなったが凱旋門賞から菊花賞のローテーションは厳しいので、アブソリュートは不出走。



 1番人気 プレタポルテ 1.5倍


「ついに来たか……。」プレタは今後アブソリュートと何度か対戦し、人気がとられることだろう。プレタはGⅠレースでこのような人気は出ないと思い、感動し、涙を流した。


「こらこら。何泣いているんだよ。まだGⅠ勝った訳じゃないのに。」とプレタポルテ鞍上の田村騎手がゆったりとした口調で言い聞かせた。


「せやな!タリスは不調気味やし、他の馬もそれなりって評価やし。それに比べてワイは絶好調や!!!

 もっとや!!もっともっとワイ買って!!人気こそワイの力の源や!!!!!」


「落ち着けよプレタ!!お前は落ち着いたほうが強いんだから……!!」


「1.0倍になるまで買って買って買いまくれーー!!!」


「…だからプレタ!!」田村は冷静を少し欠いた。


 タリスは前走のように怒っている様子はなく、ただただ黙っていた。


 最終的に

 1番人気 プレタポルテ 1.3倍

 2番人気 アーカイブ 8.7倍

 3番人気、菊花賞の前哨戦『神戸新聞杯』と対をなす『セントライト記念』の勝馬 ソーラーチャージ 8.9倍

 4番人気 タリスユーロスター 9.5倍

、以下は11.3倍、17.6倍、20.4倍……となっている。



 淀の坂を2度越え!スタンドの大歓声!3000mの長丁場!それら全ての難関を越え!最も強い馬が勝つレース!菊花賞!

 絶対の馬『アブソリュート』不在で行われるクラシック最終戦!最後の1冠を手にするのは果たしてどの馬でしょうか!!

 実況は私!杉川 清和!!

 そして解説は!この作品の作者!ジャンゴでお届けします!!


「第27話の展開考えていたのに、まさか詰まると思わなかった……。」


 あなたは黙っていてください!


―さあ、スターターがスタンドカーに上がって!

ファッ!?ンファーレです!



 ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッー!?ファッ!!?

 ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファファファファファファファー!?

 ファッー!?ファッ!!?ファッ!?ファッー!?ファッ!!?

 ファッー!?ファッ!!?ファッ!?ファッ!!?ファッ!!?ファッ!!?

 ファッー!?ファファファッ!!?ファッ!?ファファファッ!!?

 ファッ!?ファッ!?ファッ!?ファッー!!?




―各馬順調にゲート入りしております!

 最後に18番『ユメゴコチ』が入り!

 体勢完了!スタートしました!!横一線綺麗なスタートです!

 11番『プレタポルテ』今回も行った!6番『ピッチングマシン』と16番『ジュニアマルス』がついていった!


(…確か、13番人気と7番人気やったかな?まあワイはダントツの1番人気だし大丈夫やろ!)プレタは目立つことしか考えていなかった。


 7番『エヴァーチェンジ』!13番『プレミアムフライ』!18番『ユメゴコチ』

 1番『レオナルド』!並んで5番『キタコレハガネ』!

 そこから3番『ビッグユースフル』!内に8番『アントジャイアント』!15番その外『キマイラ』!

 各馬第3コーナーの下り坂を下る!

 10番『ソーラーチャージ』!12番『アスタリスクウォー』!並んで17番『サンライズソード』!

 そして14番『タリスユーロスター』!2番『アッシュフォード』!

 その後ろに4番『エイショウサンダー』!最後方に9番『アーカイブ』!


 1000m通過タイムは59秒0とやはり速め!

 さあ!スタンドからの大歓声!もう一周あるぞ!!


「……………。!!うるせえ!!」タリスがスタンドに向かって怒鳴り散らした。


 おっと!タリスユーロスターが折り合いを欠いているぞ!!


「タリス君!?ちょっと落ち着いて!」と小牧がやや強めに言い、タリスは息はまだ荒いものの落ち着き始めた。


(…よし!これで体力は削れた!)

(もうタリスユーロスターはマークしなくていいな!)

(あとは自分の競馬をするだけ!)

(前2頭がプレタポルテのペースさえ崩してくれれば…!)

 タリスをマークしていた馬たちがそう思っていたとき、アーカイブだけは警戒を怠らなかった。


 各馬スタンドを過ぎ!第2コーナーを曲がります!

 先頭からもう一度見てみましょう!先頭は1番人気プレタポルテ!1馬身離れてピッチングマシンとジュニアマルスがマークする形!

 そこから20馬身以上離れエヴァーチェンジ!その後ろにプレミアムフライ!2馬身離れユメゴコチ!

 3馬身離れてレオナルド!半馬身差キタコレハガネ!

 そこからビッグユースフル!アントジャイアント!さらにタリスユーロスターとアーカイブが中団まであがっている!

 そこから3馬身離れてキマイラ!その後ろにソーラーチャージ!

 2馬身離れてアスタリスクウォー!並んでサンライズソード!

 4、5馬身離れてアッシュフォードとエイショウサンダーが最後方となり!

 先頭から最後方まで40馬身はあります!!モニターで全馬を撮らえることができません!!


(くそっ!さっきから何なんだ!外に出られねえ!前走でもそうだったが、このアーカイブって奴、俺ばかりマークしやがる!!)と40%コンスタントスピードをしながらタリスは思い、「さっきから何なんだ!!」と第2コーナーを曲がったところでしびれを切らした。


「……………。

 青葉賞のことは覚えているか……?」とアーカイブはボソッと言った。


「はあ??」タリスが覚えているのは、そのレースでプレタに惨敗したことしか覚えていなかった。


「あのレースでお前がわざわざ出走しなければ俺は、ダービーに出走できたのに!!」アーカイブは青葉賞で3着で、ダービーの優先出走権は2着までだった。


「いや、知らねえよ!つか、そんな過去のことなんかどうでもいいだろ!!今だろうが!!」


「そうだな。だから『今』、邪魔マークをしている。」


「…ッチ!」とタリスは舌打ちをし、小牧は「…大丈夫だよ。まだレースは中盤。抜け出せるよ。」と言い聞かせた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 俺の名前は「アーカイブ」。年間勝率30%、連対率50%、複勝率65%でダントツの成績を残している武蔵たけくら総司そうじ厩舎に所属。(2位は諏訪直樹厩舎。年間勝率10%、連対率20%、複勝率35%、だが、勝利数は1位。)

 この厩舎は、とにかく勝利にこだわっている。武蔵曰く、「勝たなければ名を残せない。勝利こそがすべて!」だそうだ。厩舎最弱の俺は、基準に満たすまで1年かかった。基準に苦戦していた俺は、同期のジーニアスブレインが敗北した瞬間、ホッとし、微笑してしまった。彼は絶望してた。


「タリス……ユーロ…スター………。」

 あんな顔をするジーニアスブレインは初めて見た。


 次の日――


「おい、アーカイブ。ちょっと俺と併せろ。クライム・スティープ・ヒルを完璧に習得する。」とジニブレは真剣な眼差しを俺に向けた。


「何でわざわざそんなことをしないといけないんだ。俺みたいなザコと……。」


「勘違いするなよ、お前はここにいる時点でザコじゃあない!凡才だ!

 お前は、走ればそれなりの結果を残すだろう。だが、ここにいる以上それなりでは駄目だ。勝利だ。勝利しなければならない。」

 ジーニアスブレインはヒャッハーと叫ばなかった。


「昨日負けたお前が何言ってんだ?説得力がないぞ。」


「レースに出てもいないお前が何を言っている?」


「……………ッ!」イライラする。


「慢心していた。だから勝てなかった。

 慢心しない。強欲する!勝利を!!強欲する!!!」

 ジーニアスブレインはヒャッハーと叫ばなかった。

「だからって俺じゃなくてもいいだろ。俺じゃあ相手にならない。」


「いいや、逆だ。お前が俺の相手をする絶好の機会を与えてやっているんだ。」


「何!?」 自然ナチュラルに上から目線なのが腹が立つ!!それにしてもどういう言い分だ??


「まず……お前が基準に達していないのは、圧倒的にスピードが足りないからだ。長距離適性のお前がスピードが足りないのは多少仕方のないこと。だが、それを仕方のないと相まって、お前は、諦めている。

 速くなる方法を知らないんだ。知ろうともしない。そして、大器晩成型と淡い期待をしている。時が解決してくれると。」


 「……………。」何でそんなに図星を突いてくるんだ!?


「『なぜそれを知っている』という顔をしているなぁ……。

 俺は天才だぁああ!!それくらいのことは知っている!」

 ホント!イライラする!!


「もういいだろ!!!俺は戻る!」……ッ!!まさかキレると思わなかった!どうせキレるなら、末脚が切れればよかったのに!!


「待て!……話がそれてしまったな。

 何を言いたいかというと、俺と併せてくれれば、短距離の天才であるこの俺がスピードアップの方法を懇切丁寧に教えてやる。

 つまり!お前はスピードアップ、俺は必殺技の習得で一石二鳥だ。いい話だと思わないか?感動してもいいんだせ?」


「無駄だ。さっきお前の言った通り、俺はスピードアップについて知ろうしないからな。お前は天才だからお前だけの利益になるだろう。一石一鳥だ。」もうイライラを通り越して興味がなくなった。はぁ……。とっとと戻って休もぅ…。疲れた。


「馬から教わったこと無いだろ。」


「何?」


「人から教わって身に付かないのなら、馬から教わったら身に付くかもしれねえ。臆病にならず賭けてみないか?

 もう一度聞く。これが最後だ。

 俺と…併せてくれないか……。」ジーニアスブレインは頭を深く下げた。

 ……………。

 おそらく本当に懇願しているんだろう。イヤな奴だが、……賭け…か……。


「いいだろう。乗ってやるよ!」


「ヒャッハァアア!!そう来なくっちゃなあ!!」そうだった。こいつは調子に乗ったときに、ヒャッハーって叫ぶんだった。


「礼としてお前を凡才から鬼才にしてやるよ!」天才じゃないんだ………。


「天才は俺だけだあああ!!!

 ヒャァッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 その後、スピードは上がりやっとの思いでデビュー。2連勝で挑んだ青葉賞はタリスユーロスターには追いすがれず、ダービー出走は叶わなかった。そして、夏の間にジーニアスブレインと共に徹底的に鍛え上げ、俺は覚醒まで至った。

 覚醒技・クイックVターンでタリスユーロスターをねじ伏せ!プレタポルテを差し切る!!


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 プレタポルテが第3コーナーの下り坂を中盤まで下っている中!集団はもうすぐ第3コーナーに差し掛かります!


「おい、小牧!真っ直ぐ突っ切っていいか!?」とタリスは血眼になるくらい怒りが溜まり、今にも爆発しそうだ。


「……えっと……ギリギリアウトだから、とりあえずアーカイブ君の後ろに着こうか……。」と小牧はたじたじしてそう答えた。


「何!?そうはさせない!!」

 アーカイブはすかさずタリスに併せて後ろに下がった。――そしてタリスは気付いた。アーカイブの前が空いたことを。

 タリスは急加速し、アーカイブの前に出た。タリスが前で、アーカイブが後ろで追いすがるかたち。

 そうは問屋が卸さないと言わんばかりに―発動。


―――クイックVターン!!!


 クイックVターン―アーカイブの夏の間に覚醒した必殺技。前後を選択し、左右どちらから移動するか選択。その方向にV字に屈折し、1馬身進んでから半馬身曲がり進む。


 だが、半馬身曲がり切る前に小牧はタリスに鞭を入れ、


―――100%コンスタントスピード!!!


 完全にアーカイブのマークから抜け出した。

 それでもアーカイブは無理に追いすがる。


「(クソッ!夏の間に磨き上げた末脚でも追いつかない!それどころか一方的に引き離される!!

 クソッ!クソッ!!

※『お前を凡才から鬼才にしてやるよ!』

 鬼才じゃあ届かないって訳か……!!)

 この天才がぁああぁあああぁああああぁああ!!!!!!」アーカイブの悲痛な叫びも届かない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る