第25話 神戸新聞杯―秋競馬開幕―

 タリスユーロスターが放牧から帰ってきて約1ヶ月後、クラシックレース最終戦『菊花賞』の前哨戦『神戸新聞杯』が開催され、タリスの初戦はここから始まる。


―パドックにて


「やった…やったで…ゆい!ワイが1番人気や!!見てるかー…結!」ダービー2着馬のプレタポルテが9戦目にして初めて一番人気になり、感動のあまり涙を流し、テレビカメラに向かって、本日用事でレースを観戦できなかった結に声をかけた。


「キッ…!」タリスはプレタのその行動をウザったらしく思い、厭がった。


 1番人気 プレタポルテ 1.8倍

 2番人気 タリスユーロスター 2.2倍

 と、なっており、3番人気はアーカイブ 10.1倍、4番人気はシュヴァイン 10.3倍、5番人気はエイショウロケット 10.5倍。以下、10.9倍、11.4倍、11.8倍、20.6倍……と、2強以下は混戦模様。

 なお、無敗の二冠馬アブソリュートは凱旋門賞へ向かい不在。


「もっとや!もっとワイを買うて!

 青葉賞のときみたいに鮮やかに逃げ切ってやるで!!」とプレタは自信満々で、観客全員にさらに期待を抱かせた。


「はあぁあ!!?(ブチ切れ)

 あれはあの時たまたまだし!差し切ってやる!!」タリスは鼻息荒く歯をみせ、プレタに怒りをぶつけた。


「ハハハハハ!

 相変わらず怖いなぁ。お客はんにそないな対応ばかりすると人気悪くなるで。

 ハハハハハ!」


「?!!ああぁああ!!?」タリスの怒りではプレタは動じず、さらに一蹴された。



とまーーーーーーーーーーれーーーーーーーーーー


 その合図とともに騎手たちが入場してきた。

 タリスの主戦騎手の小牧こまき 大希だいき騎手もパドックに入場してきた。

 人見知りで馬見知りの彼は人や馬に近づいたり近づかれたりすると、緊張で体が膠着こうちゃくし動けなくなる。主戦馬のタリスも例外ではなかった。

 そう、

 本日小牧は、第1、2、3、5、6、7、9、10レースに騎乗したが、あまり動けず、パドック終了間際に騎乗し巡回した。小牧は観客に笑われていたが、それでも彼はまだ動けていた。

 第11レース神戸新聞杯、小牧は3ヶ月ぶりにタリスと再会しても歩みを止めず、タリスに近づいた。観客は目を疑った。笑う者はいなかった。小牧はタリスに騎乗し、難なくパドックを巡回した。



―さあ!間もなく阪神競馬場第11レース芝2400mで行われるGⅡ神戸新聞杯の発走の時間です!

 実況は私!!「」かぎかっこ程度で収まりきれない熱い実況をお届け!!杉川すぎかわ 清和きよかず!!!


 そして解説は!!この作品の作者!!ジャンゴでお届けします!!!


「その熱さ…実況じゃなくて絶叫だよね……。」


!!!あなたは黙っていてください!!!


―各馬順調にゲート入りしております!



 最後に16番『トウモロコシ』が入り!


 体勢完了!スタートしました!!

 8番『プレタポルテ』好スタートを切りました!

 先頭はやはり行った!ダービー2着馬のプレタポルテ!ついていったのは9番『アスリートソウル』!さらに14番『スーパーマン』もついていった!

 10番『ブラウンパレット』!半馬身並んで4番『シュヴァイン』!それをマークするように7番『プラネットハンター』!

 1馬身離れて15番『ノーキーロック』!外に6番『キタコレオウゴン』!16番『トウモロコシ』!

 第2コーナーを曲がり先頭はプレタポルテ!すでに12、3馬身のリード!2番手にスーパーマン!2馬身離れてアスリートソウル!

 さらに2馬身離れてブラウンパレット!1馬身離れてシュヴァイン!外にプラネットハンター!内にノーキーロック!

 中団構えて1番『エイショウロケット』!キタコレオウゴン!トウモロコシ!

 1000m通過タイムは59秒1とやや速め!

 後方に2番『アーススター』!13番『フリースノー』!5番『ブラックタイガー』!

 その後方に6番『タリスユーロスター』!ここにいます!

 さらに後方に3番『デビルウインナー』!11番『サンチャン』!12番『アーカイブ』!先頭から殿しんがりまで24、5馬身とかなり縦長!


 一方その頃、第3コーナーに入り、残り1000mの標識に差し掛かる手前でタリスはイライラしていた。


(くっそっっ!!前も横も後ろにも囲まれた!囲まれるなら牝馬おんなのこがいいのに……!!

 …って!そんなこと考えてる場合じゃねえ!!

 どうすれば抜け出せる??)とタリスが焦っていたとき小牧が「ぶつかってもいいから後ろに下がって。」とささやいた。

 タリスはこれは指示だと思い、後ろに下がった。

 だが、タリスの周りの6頭がタリスに合わせて後ろに下がった。タリスは完全にマークされていた。


「これ以上は下がらないで!指示を出すまで足を溜めて!」と小牧。


 タリスは驚いた。「小牧がそんな強気の指示を出すなんて…。」と。

 小牧はダービーで心の殻を破り、精神的に成長していた。人見知り馬見知りはまだ改善できていないが、タリスに対しては少しながらも強気でいられた。


 残り600m―


「……………。」小牧はやや震えていた。だが、武者震いではなかった。

(…ど、どうしよう……タリス君に足を溜め過ぎてしまった……。僕の考えた作戦でもここから全馬差し切るにはかなり不利……。それにまだタリス君に作戦を伝えてなぃ…。)


「………大丈夫だ小牧。ここから差し切るから…!」タリスは落ち着いてそう言った。


「…ふぇ?」


「…というか、このレース仮に負けても次の菊花賞で勝てばいいしな…!

 ……………。

 だけど……

 さっきから周りにいるんじゃねえよ!!!俺は牡馬おとこに興味ねえ!!!

 !!!!!この怒りはきっちり晴らしてもらうぞ!!!!!」


 小牧は真顔になった。


―残り400m

――100%コンスタントスピード(クイックVターン)!!!

 諏訪調教師は微動だにしなかった。


「タリス君!さらに内に入って!!」と小牧は指示した。

 タリスは最内を走っており、本来ならさらに内に入ることはできないが、今回のレース『神戸新聞杯』は芝2400m。阪神競馬場は外回りと内回り(どちらも右回り)のレースがある。これにより、外回り最後の直線473.6mの途中で内回りのコースが交わり、幅員約25m分の空間ができる。小牧とタリスはそこで100%コンスタントスピードで馬群を差し切るつもりだ。


―だが、タリスよりもさらに内にすでに1頭、コンスタントスピードをする前に馬がいた。アーカイブだった。

 アーカイブは青葉賞で為す術がなく敗れ、ダービーに出走できなかった悔しさを胸に夏の間徹底的に鍛え上げ、ついには覚醒までした。


――クイックVターン!!!


 クイックVターン―アーカイブの鞭無しの必殺技。前後を選択し、左右どちらから移動するか選択。その方向にV字に屈折し、1馬身進んでから半馬身曲がり進む。


 タリスのさらに内にいるアーカイブは外に寄り、小牧とタリスは仕方なく外側に…馬群の中に入った。


 日本中央競馬会競馬施行規程第112条


1 騎手は、その騎乗する馬のでん端から後続馬の鼻端までに2馬身以上の距離がな いのに後続馬の進路に入ってはならない。


2 騎手は、競走中みだりに斜行し、又はだ行してはならない。


3 騎手は、決勝線に至る直線走路において、一度定めた進路をみだりに変えてはならな い。


4 騎手は、競走中他の馬を押圧し、他の馬に衝突し、又は障害を斜めに飛びこえてはな らない。


5 騎手は、競走中十分な間隔がないのに、他の馬と他の馬との間若しくは他の馬と柵と の間に入り、又はそれらの間から他の馬を追い抜いてはならない。


 競馬のルール上、アーカイブのやっていることは2にあたるが、よく見ると『騎手は』と記されている。つまり、『馬の悪癖』はやむを得ないとし、制裁の対象にならない場合もある。(審議の対象とは違う)


 小牧とタリスは完全に馬群に飲まれ、アーカイブは前(内)が空いたのを見計らって馬群を抜け出し2番手へ。



――ゴールイン!!!!!

 プレタポルテが悠々と5馬身差の圧勝!!!クラシック最後の一冠は目前だ!!!

 2着にはアーカイブ!!3着にはエイショウロケットが入り!この上位3頭が菊花賞の優先出走権が与えられます!!


「あのヤロ~~~~~っっ!!!!!」怒りをきっちりと晴らせなかったタリスは、もう爆発寸前だ。


「ちょっと!タリス君!?」小牧はタリスの手綱を引き、どうどうと手でなだめようとしたが、全然落ち着く気配はなかった。


「……………。」アーカイブは特に何も言わずにタリスの前を横切り、検量室に速やかに行った。


「!?!ああぁあああぁああ!?!」


「タリス君!!落ち着いて!!」とブチ切れたタリスを小牧はさらになだめた。


―結果、


 1着 プレタポルテ

 2着 アーカイブ

 3着 エイショウロケット

 

 7着 タリスユーロスター

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