第6話 2歳未勝利ーキャバクラを目指しー
―2歳未勝利一週間前、山下は諏訪に次のレースの目標タイムについて聞いた。
「えっと…師匠?
なぜ1:07.8という具体的なタイムがでたんだろう?と思い調べてみたんですが…
このタイム!2歳芝1200mの日本レコードじゃないッスか!!無理ッスよ!!
そうやって無理難題を出して、褒美を出さないつもりッスね!?
それでやる気を失ったらどうするんッスか!?」
「別にいいじゃろう。ただ勝てばうまいもんを食わせるつもりじゃから。」
「いや、しかし…。」
「それに、このタイム切れんタイムじゃないじゃろう。
この前の“牝馬ナンパ事件”で約80kmを走り切ったからのう。
これくらいはいけるじゃろう。」
「あれって事件なんすか!?
それに、80km走り切った師匠って何者ッスか!?」
―さあ!京都競馬場第2レース芝1200mで行われる2歳未勝利のパドックを見ていきましょう!
実況は私!杉川 清和!!
そして解説は!この作品の作者!ジャンゴでお届けします!!
「前に思ったんだけどさぁ、新馬戦や未勝利戦に解説いらなくね?
普通、重賞レースに解説いるんじゃない?」
あなたは黙っていてください!
前走は初めてのレースということもあって戸惑ったから10着に敗れたのではないか?
前走10着に敗れたものの調教タイムが基準値よりも速いタイムをたたき出したから今回はいけるか?
―などのこともあり、タリスユーロスターは15頭中1番人気1.8倍に支持された。
…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…キャバクラ…
タリスはキャバクラのことしか頭になく、牝馬が出走していることに気づかなかった。
そして、カバディカバディの要領でつぶやいていた。
(うわ…昨日よりひどい…。)と山下は思った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
その日の調教が終わり、山下はタリスに飼葉を与えていた。
「なあ山下、たまには牧草じゃなくてキャバクラとか食べたいんだけど…。」
「ちょ!何言ってるの!?」
「え?…あっ!俺何言ってるんだろう。
たまには牧草じゃなくてリンゴとかキャバクラ(食べたいんだけど)…。」
(何か日本語がおかしいんだけど…。)
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
(昨日は一言の中に『キャバクラ』という単語が必ず入って、ギリギリ会話ができるくらいだったけど、今日は朝から『キャバクラ』としか言わなくなって、まともに会話ができないんだけど!!?
どんだけキャバクラに行きたいんだよ!!!)と山下は思った。
とまーーーーーーーーーーれーーーーーーーーーー
小牧はまたしてもタリスのもとへ行かなかった。
そして小牧は職員に注意され、おそるおそるタリスに近づいた。
「キャバクラ!
キャバクラ…キャバクラキャバクラ!!」
「え!?何を言っているのかわからないよ!?タリス君。
(はっ!そういえば……このレースで2歳日本レコードを出せばキャバクラに連れていくって諏訪さんが言ってたような……。)
え、えっと…もしかして……『このレース絶対に勝とう』…とかって…言ってる?」
「キャバクラ!!」とタリスは大きくうなずいた。
―さあ!各馬順調にゲート入りしております!
最後に15番『キッチンママ』が入り!
体勢完了!スタートしました!!
7番『タリスユーロスター』好スタートを切りました!
キャバクラ!キャバクラ!キャバクラ!キャバクラ!キャバクラ!キャバクラ!キャバクラ!キャバクラ!
「え、え!…え!!?」
小牧はタリスが全力疾走しているのに驚き、無意識に手綱を引っ張った。
2番『カヤノパーティー』!4番『クロノアンジュ』!9番『ワンツースリー』!11番『ティラノ』!が前に行くが!『タリスユーロスター』が掛かり気味に先頭に立ちました!!
3番『トラップ』!6番『ジェントルマン』!12番『ピュアハート』!外には15馬『キッチンママ』!
中団に1番『サウンドビート』!10番『タカノアイリ』13番『エイショウゴウン』!
後方には5番『ピーチアップル』!8番『コウシンミント』!14番『ポルカパフューム』!
最終コーナーを曲がり直線に入りました!!
『タリスユーロスター』がまだ掛かり気味だが!後続に7,8馬身引き離して先頭だ!!
「キャ…キャバ!(い、息が!)
キャバクラ…キャバクラキャバクラ……!!(ヤバい…このままだとキャバクラに……!!)」
そのとき、タリスの頭をよぎった。キャバクラで楽しんでいる自分の姿を。
「キャバクラ!!!キャバクラァアアァアアアァアアアアァアアア!!!!!
(キャバクラに!!!行くんだぁああぁあああぁああああぁあああ!!!!!)」
先頭はタリスユーロスター!!先頭はタリスユーロスター!!!
カヤノパーティーとジェントルマンが迫ってきているが!!差は縮まらず!!!
先頭はタリスユーロスターァアア!!!
――ゴールイン!!!
前走10着の大敗から!!!今回は大勝の1着だぁあああぁああぁああああぁあああ!!!!!
「キャ…キャ…キャバクラ!!?(ハァ…ハァ…タイムは!!?)」
電光掲示板には、1:07.9のレコードの表示がされていた。
「キャバクラァアアアァアアアアァアアァアァアアアア!!!!!
(キャバクラァアアアァアアアアァアアァアァアアアア!!!!!)」
この結果に諏訪はやや険しい表情をしていた。
「どうしたんスか師匠?そんな顔をして…。
嬉しくないんスか、いろんな意味で…?」
「いや、勝ったことには嬉しいが、日本レコードを切れなかったのはなぁ…。」
「え!?もしかしてキャバクラに行かせるつもりだったんスか!?」
「約束したものは守るに決まっておろうが!
それに、小牧の奴がなぁ……。」
諏訪は小牧が終始手綱を引っ張っていたことを気にしていた。
―レース後の夜、諏訪厩舎にて祝勝会を挙げた。
「よし!タリスユーロスター号の初勝利を祝って乾杯!!!」とビールを片手に諏訪は喜びを表した。
「かんぱーい!!!」
「か…乾杯ぃ……。」
「…………キャバクラ……。」
山下は喜び、小牧は恥ずかし、タリスは落ち込んでいた。
「どうしたタリス!お前の祝勝会じゃ。もっと楽しそうにしたらどうじゃ?」
「はぁーーーーーーーーーー…。
あと、0.1秒だったんだよ…。あと、0.1秒だったんだよ!!!
てか!0.1秒くらいまけてもいいじゃないか!!レコードの表示もあったしさ!!!」
「だめじゃ。0.1秒もまけん!約束は約束じゃ!
あ…そういえば約束で思い出したが、ほれ、約束の品じゃ。」
諏訪は段ボール箱を持って来て、箱を開けた。
箱には箱いっぱいの黄色いりんごが入っていた。
「何これ?」とタリス。
「見ての通りじゃが、これはただのりんごじゃないぞ。
品種は『トキ』といってじゃな、『王林』と『ふじ』を交配させた品種で、王林の香りとふじのシャキッとした食感と両方の高い甘さを持ち、今が旬でなかなか手に入らないりんごなんじゃ!」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………(一時の間)。
…ただのりんごじゃん。」
「いいから食わんか!!」
諏訪はタリスにりんごを口に押し付けた。
「あがっ…!
ぐっ…!
ちょっ…!
シャキッ…!
もぐもぐ…。
…………―――!!!
…うまっ…!
えっ!!?うまくね!!!」
「そうじゃろ!この日のために青森の知り合いから無理を言って送ってもらったんじゃ。」
タリスは無我夢中でりんごを口いっぱいにほおばった。
「ほれ、お前たちも食わんか。」と諏訪は山下と小牧にりんごを渡した。
「え!?うまっ!!!
りんごってこんなにおいしかったですっけ!!?」と山下。
「…ぉいしぃ…。」と小牧。
タリスは初めて、微笑だったが小牧の笑顔を見た気がした。
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