異界への門
金曜日の朝。
いってきます。
いつも通り,誰もいない部屋にそう声をかけ,玄関のドアノブに手をかける。と,突然,キーンと強い耳鳴りがした。一週間の疲れが蓄積しているのかもしれない。明日は休日だが,どこへもかけずにゆっくりと休むのが得策だろう。目をつぶり,そう考えながらドアを開けて一歩を踏み出した。
目を開けて顔を上げる。目の前にいつもの見慣れた通りが……なかった。
え。
視界の先には,真っ白な地面が
なに,これ……。
慌てて振り返る。しかし,そこにあったはずの自宅はどこにもなかった。たった今開けたばかりのドアもきれいさっぱり消え去っていた。そこにはただ,地平の彼方まで白い地面が広がるだけだった。
しばらく
どうする?
ただここに
どこかに出口があるだろうか?
仕方なく,ただ歩きはじめた。
1時間ほども歩いただろうか。白い地平線の先に,青い何かが見えた。何もない世界にはじめての物体。夢中でそこへ向けて駆けた。
それはドアだった。近づき,その形がはっきりとわかったとき,猛烈に
ドアノブに手をかけて,ゆっくりと押し下げ,開けた。
開けたドアの先には,毎朝目にする見慣れた通りの景色がそこにあった。あまりの安堵感に思わず
その日から 彼は死ぬまで 誰ひとりとして ヒトに出会うことは なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます