空を征く者

飛んでいる。何かが,空を飛んでいる。

鳥ではない。飛行機でもない。

それはあまりにも巨大だった。

空の大部分を覆うほどの巨大な物体が,ゆっくりと,音もなく,上空を移動していた。


ありえないほど巨大なその飛行物体は,うっすらと半透明であるように見えた。その表面は,ある場所は幾何学きかがく的な凹凸おうとつを,またあるところは有機的な質感をもっていた。機械とも生き物ともつかない奇妙な外観は,なぜか圧倒的な神々しさを感じさせた。


状況を理解できぬまま,しばらくそれを見上げていた。が,はたと我に返り,

「あ,あれ!」

そう声を上げて周囲を歩く人たちを見渡した。


声に驚いた数人が空を見上げる。しかし,すぐに首をかしげ,怪訝けげんな顔でこちらを見た。そして,何事もなかったかのように立ち去っていく。誰ひとり,上空の巨大な存在に気づかないようだった。


まさか。

こんなに視界を埋め尽くさんばかりなのに。


5分ほども経っただろうか。ようやくその巨大な飛行物体の後端が見えはじめ,静かに頭上を過ぎていく。そしてそれは,ゆっくりゆっくりと,遠く青空の彼方に溶け去っていった。


しばらくの間,私はそこに立ち尽くしていた。





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