闇の者たち

休日の深夜,午前1時を過ぎた頃。ベッドに入って眠りに落ちようかというそのとき,アパートの部屋の外から,ぎゃあぎゃあとやかましい声が聞こえてきた。ガラの悪い連中が騒いでいるのだろう。不快に思いながらも布団をかぶってやり過ごそうと試みるが,騒がしい声は一向にやむ気配がない。いらだちながら,何をしているのか,窓を開けて声のする通りの向こうをのぞいてみた。


すると,暗がりの中に幾人かが集まっているのが見えた。しかし,その集団は何かようすがおかしい。


暗くてはっきりとは見えないが,集団のうちの一人は,小柄でずんぐりとしていて,背中には扇のように広がった奇妙なヒレが何枚もついているように見えた。ある者は,カエルのように脚を折りたたんでいつくばっていた。よく見ると片腕だけが異様に長い。また別の者は,昆虫のように脚が細くて長く,胸のあたりにも複数の“昆虫の脚”が生えていた。


何人,いや何匹いるかははっきりとはわからないそれらは,明らかにヒトとは異なる姿かたちをしていて,ぎゃあぎゃあと騒ぎたてている。その声は動物や虫の鳴き声とも違う。ヒトの言葉のような旋律せんりつをもち,しかし意味はまったく不明で,怖気おぞけが走る奇怪な音の羅列られつだった。


と,そのうち,一匹が集団から一歩飛び出したかと思うと,尋常じんじょうではない速さでどこかへ走り去っていった。すると,ほかの者たちも,ある者はコウモリのような羽を開いて飛び去り,ある者はすさまじい高さへ跳躍するなどして,一斉に四方に散っていった。


私は,誰もいなくなった通りを放心したようにしばらく眺めていたが,ふと我に返ると強烈な恐怖に襲われた。慌てて窓を閉め,鍵がかかっていることを何度も確かめてベッドに潜り込んだ。

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