第4話「この世界の二十五人に一人がサイコパスなんだって」
俺とロキシーは近くのカフェに入った。
中に入るのは嫌だったのでオープンカフェを選び路上に面した席に座った。彼女もそれを許してくれた。
注文が来るまでロキシーは一言も喋らなかった。もちろん俺から話すことなど何もなく、ただ彼女の中の法廷で下される判決を待つだけだった。
「この世界には人間がたくさんいるわね」
出だしはそんな言葉だった。
「この目の前を歩く人たち、みんな『私こそまともだ』みたいな顔をしてるけど、この群衆の中から人を傷つけ物を盗み、騙す人が出てくるのよね」
「俺をどうする気だ? 」
「ねえ知ってる? この世界の二十五人に一人がサイコパスなんだって。サイコパスってのはつまり全く良心を持たない人間のことね」
「お前がそうだと言うのか? 」
「その全てが犯罪者になるわけじゃないけど、そう考えるとあちらこちらに危険が潜んでいるのよね。まさに人生、一寸先は闇ってことかしらね」
「別にこの街で生活してる分にはそんな危険だと感じたことはないぞ。……少なくとも昨晩まではな」
「それはどこに注目するかによるわね。最近の若者は凶悪化の一途を辿るってマスメディアはいうけど、実際統計を見るとむしろ犯罪率が落ちている場合もあるし、もちろんその逆もある。奴らの場合もそうよ。いると知って観察するとたくさんいるし、気にしなければ少なくともこの一時は平穏無事に過ごせる。でも奴らは確実に増えていて、そのツケは未来で必ず支払うことになるのよ」
「何の話してるんだ? 」
「昨晩私が殺した奴の話。それとラーメン屋の店主になっていた奴の話よ。『ストレンジャー』。私たちは奴らをそう呼んでいるわ。まあ一言で言えば人類の敵、化け物ね」
「ちょっと待て。じゃああのラーメン屋にお前もいたのか? 」
「『目を覚ましたら化け物は消えていました。日頃の神仏への信心の賜です』そう言いたいわけ? そんなわけないでしょ。それで解決するのは昔話の中だけよ。私が助けたの。他に誰がいるっていうの? 」
まあ確かにそれなら辻褄も合う。
「理解したらお礼の一言でもあっていいんじゃないの? 」
「まだ本当のことだとは分からないからな。嘘をついているのかもしれないし……」
「嘘の方がいいの? 」
いや、それは……。
「私がやっぱりただのサイコパスで殺人鬼の方がいいの? 」
「確証が欲しいだけだよ」
「まあそう言うと思ったわ」
そう言うとロキシーはスマフォに入った一枚の写真を見せてきた。
そこにはあの化け物の死体と気絶する俺、そしてニッコリ記念撮影する彼女の姿が写っていた。俺が頷くとロキシーはスマフォをポケットに戻した。
「おい、消してくれよ。そんな間抜け面残さないでくれ」
「やーよ。万が一の時のお守りにするんだから」
何のお守りだよ。
「質問していいか? 」
「どうぞ」
「マヤたちは何故お前をクラスメートだと思ってる? 」
「記憶を操作したって答えでいい? それとももっと技術的な話? 」
「いや、それでいいよ。詳しい話をされても分からないからね」
「さっきと違ってえらく簡単に信じるのね」
「信じてるわけじゃない。今は頭が混乱していて細かいことを判断するのを保留しているだけなんだ。でもだいたいお前のいう通りであってるんだろうな」
「因みにあなたが私に告白して、見事に振られたって記憶も刷り込んであるからね」
「冗談だろ! 」
「冗談。ふふ、ビックリした? 」
「じゃれるのは後にしてくれ」
「何ピリピリしてんのよ」
「化け物が殺されるのを見て化け物に襲われて、学校ではおかしな人扱いだぞ。全て済まして家に帰って寝たい気分なんだ」
「じゃあまた今度にする? 実はあなたに頼みたいことがあってね。今の状態だとまともな判断下せないだろうし、私も今のあなたに責任を感じてるからね」
「そのお願いって奴を先に言ってくれ。宿題にしたい」
「実はね、私の仕事を手伝って欲しいの」
なんだって?
「要はパートナーになって欲しいってこと」
全てはここから始まった。
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