影法師と女子高生

スド

影法師と私

   犯罪   






              地獄   罰


         壊




   業







          汗



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                       私   


              助




                  抱  














               影

















 バヂッと目が覚める。

 目を見開き、天井を凝視して数秒。先の光景が夢であったことに気が付いた。

「…―――……――…」

 起き上がってまず、真正面にある鏡台が、ボサボサな私の髪を嫌にはっきり映している。彼方此方に大きく跳ねた髪はまさしく現代生け花。

 カーテンから差し込む朝日、どこからか聞こえるカラスの声。間抜けな鳴き声が、鶏の甲高い声の代わりに朝を知らせてくる。何とも好ましくないモーニングコールだ。

 ポー、と呆然としていたが、そういえばと慌てて傍の携帯の電源を入れれば、AM7:25分。

 急いでベッドから跳ね起きて鏡台に向かう。軽く髪を梳かし、パジャマを脱ぎ捨て、ハンガーに掛かってる制服を手に取った。



 ――やはり下着も変えておこう。

 嫌な夢を見たせいで、背中が汗で気持ち悪い。あれは、私の思いだしたくない最悪の一つだ。

 あの夢を見た利点など、改めて"あの男達"がいなくなったということを認識できる。ただそれだけしかない。それなら見ない方がよっぽど幸せというものだ。

 両の下着を取り替えていると、ドアをノックする音が響いた。

「もう起きてるかいー?」



 ――少し鼓動が早くなった。


「…っ……うん、起きてる」

 少し不愛想な返事になってしまったことが悔やまれるが、どうしても"彼"の前だと上手く話せなくなる。

 命の恩人、人生の恩人であるから、どうしても引き気味になっているのかもしれない…。

「うん、良かった良かった。もうご飯できてるから、着替えたら降りておいで」

 しかし、私の不愛想な返事にも、全く嫌な態度を見せない辺り、彼は立派な紳士といえよう。

 流石は立派な、でも似非紳士、である。

「…うん」

 階段を下りていく音を聞き、再び下着を替える作業に取り掛かる。


  一瞬間最後の、金曜日が始まる。






 ――――――――――――― ――――――――――――― ―――――――――――――








 少し髪を気にしながら階段を降りていく。一階からは朝食の香りと調理の音。

 降りてみれば、ニュース番組が点けっぱなしで放置されていた。

 机にはリモコンがポツンと一人。それを手に取り、電気代節約――との考えが一瞬頭を過ったが、環境音もたまには必要と、思い留まった。

 同じ場所にリモコンを置き、キッチンへ向かう。



『ああ、降りてきたね。おはよう』

 首だけで軽く振り向き朝の挨拶。

 相変わらず、アルビノのように白い肌、そして口以外の無いその顔は、非常に奇妙に映る。

 着ているのは光沢のある黒スーツに調理用のピンクエプロン。フリフリ付き。



 紳士に似た格好を好むこの影(便宜上、影と呼ぶ)は、いつもブラックスーツに白ワイシャツといった出で立ち。

 現私の保護者であり、さらには理解者。

 そして―――あれだ。カートマリオのカーブ地点で一緒に傾いちゃう系の一種。大体そんなところだろう。

「おはよ…ございます」

「ん…もしかして、眠れなかったかい?」

 少し目を擦って答えてみれば心配そうに声を掛けてくれる。

「……ううん…ダイジョブ」

 嘘では、無い。眠れなかった、というよりも夢見が悪くて、色々しっくりこないだけだ。

 彼もそれ以上は詮索せず、そっか、という一言を最後に調理に移ってしまう。―――そこで何でもいいからもう少し話したかった、と思うのは我が儘だろう。




 影法師―――彼の事を、私は勝手にそう呼んでいる。

 彼が私の前に現れてから、諸々の事情により、私が名前を付けることになった際、考え付いた名前だ。その経緯についての説明には、少々面倒くさいので割愛する。

 私命名、影法師、通称【影】は、今はフリフリ付きのエプロンを纏って料理に励んでいる。掃除・洗濯・料理、基本何でもござれ。ハイスペックとはまさにこのこと。



 しかし"現時点"では、はたから見ればフライパンやら包丁が独りでに動き、料理を作っているように見えるかも知れない。それでも私の両目には、くっきりはっきり、彼が調理をする姿が映っている。

 私自身何かしようと辺りを見渡す。すると、まだ飲み物が用意されてないことに気が付いた。

「コーヒー…紅茶、用意する?」

 聞いてみると、うんー、と声だけが帰ってきた。

「僕は、久しぶりにコーヒーかな。…あ、水は入ってるはずだからスイッチ入れて貰えるかい」

「…わかった」


 電気ポットのスイッチを入れ、お湯が沸くのを待つ。その間、彼、カゲの様子を改めて見てみた。

 …それにしてもフリフリエプロンにスーツとは…なんと返していいのか初めは分からなかったが、今はもう慣れてしまった。早くも十数年、同じ屋根の下で暮らしていたら慣れもできる。

 食品庫の中からインスタントコーヒーの袋を取り、扉を閉める。

 食卓テーブルにコーヒーの素を置き、次に彼と私のコップに箸、皿等を食器棚から取り出してテーブルに並べる。本来は四人用のテーブルも、二人で使うなら中々広い。だからこうして物を置いても邪魔にならない。

 チラリと彼を見てみれば、丁度フライパンの中身をひっくり返している所だった。

 こっちを向いてチョイチョイと手招きする。

『凪ちゃん、お皿ー』

「…うん」

 この慣れたやり取りに、少し嬉しくなる。凪ちゃん、という愛称も頬が緩む原因だ。


(―――うん)

 何とも言えない柔らかな空気を感じる中、皿を持って影の元に向かった。







『それじゃあ頂きます』

「…頂きます」

 そう言ってから彼がオムレツを口元に運ぶと、常に笑みを絶やさない口が、がばりと開いた。

(あ、お決まりのパターン)

『…ッ…熱……』

 でも熱過ぎたのか、少し口を付けたところで離してしまう。そこからは少し口の形を変えて息を吹きかけ始めた。

 ――少し、私の口角が上がった。

「…毎回思うけど、カゲ、あまり学習しないね」

 ちょっと毒に近い言葉だが、カゲはカゲで冗談気味に肩を竦めていた。

『返す言葉もございません…』

 そこでポットから軽い音が鳴った。お湯が沸いたのだ。



『ああ、凪ちゃんもコーヒーかい?』

 カゲが"ポットの前"で振り向く。手にはインスタントの袋が二つ。

 ――椅子を引いて立ち上がろうとしたのだが、それより先にカゲがポットの前に着いていた。

 瞬き一瞬、その間に。


「………うん」

 私の沈黙を気にせず、一つ頷いてポットに向きなおる。いつの間にか私と彼のコップまで持っていた。

『そっかそっか。あ、凪ちゃん食べてていいからねー』

「…はい」

 椅子を元の位置に戻し、オムレツに再び手を付ける。

 ついでに眼前を見ていれば、カゲの座っていた椅子の一部が黒く染まっている。数回残り火のようにくすぶっていたが、やがて収まると、黒から元の色へと戻り始めた。

 次の瞬き後には完全に元通り。

(相変わらず、奇妙な特性…) 

 

 人に似てはいるが人では無い容姿を持つ彼だが、"これ"についてはまだ本人にすら不明瞭とのこと。

 大体は私と本人だけが知っているが、本質的な部分はほとんど知らない、というか本人が知らないことを私にどうやって知れというのか。

 まあ、私個人としては付属能力的な何か、と勝手に判断している。



 ここまでで既に分かっているだろうけど、彼は人間と呼ぶには異形の姿をしている。身長は高いが手足は細長く、胴も細い。

 顔について例えるなら、"べとべとさん"、という奴に似ている。この例え、皆に話しても果たして分かるかどうかだが、簡単に言えば常に歯が剥き出しで、顔が真っ白な感じ。

 そんな不気味なとも言える影法師は、私の目線に気づかずオムレツを口に運んでいる。相変わらず猫舌のせいで、冷ますのに苦労しているようだ。

 なのに休日には格好つけて紅茶飲んでたりするのだから笑ってしまう。そして熱い、と言って舌を出すのがいつものパターン……それた含めて何となく可愛いと思ってる。


 今日も苦労している、そう思いながら、じぃ、と見つめていると、流石に目線に気づかれ、此方を見て首をかしげてきた。顔に口しか無い彼だが、視覚・聴覚・触覚は勿論、聴覚もある。五感は全て揃っているのだ。

『どうかしたのかい』

「…ううん」

 首を横に振れば何事もなかったように食事は始まった。

 熱いものを食べるのに難儀している姿が可愛かったー、なんて素直に言うつもりは無い。恥ずかしいし。

『でも、何かあったらしっかり言うんだよ。遠慮とか、全くいらないからね」

 そう言うと、冷まし終わったオムレツを口に入れた。

 彼にとっては何気ない一言なんだろうけど―――まあ、私にとってはそれだけでもとても嬉しいことという訳でして。


 取りあえず眼前のオムレツに箸をつける。時間はあまりない。早めに朝食をかきこみ、顔を洗い、歯を磨き出ていかなくてはならない。

「…カゲ…しょーゆ取って」

『はい、凪ちゃん』


 この、【凪ちゃん】だ。17歳現役女子高校生の頬がまたしても緩みかけた。

 この天然ジゴロめ。

 八つ当たりにコーヒーを一気に飲んでやった。―――淹れたて、ということは記憶から忘却済みだった。





 ――――――――――――― ――――――――――――― ―――――――――――――







『ティッシュとハンカチ…あ、お弁当持ったかい?』

 玄関先、靴を履こうとした矢先、カゲが見送りに来てくれた。

 言われたとおり、肩掛け鞄の中身を確認する。ティッシュにハンカチはポケットにあるので、弁当類は鞄の中だ。

 丁寧に布で包まれた弁当箱が一つ、しっかりと隅の方に入っている。

「……うん、ちゃんとあるから大丈夫」

 靴を履き直し、玄関扉の取っ手に手をかける。

「それじゃあ…行ってきます」

 扉を開け、そこで振り返るとカゲが小さく手を振ってくれていた。

「うん、気を付けてねー」

 私も小さく頷いて返事を返す。

 ゆっくり玄関扉を閉め、三段の階段を駆け下りて行く。時間的には十分間に合うが、それでも急ぐ。念のため、ということも有り得るから。

 柔らかく日差しが射している。今日は晴天、カゲはそう言っていた。

 一旦、様々な思考を振り払い、通学路を進む。









「…………」

 しばらく進んだところで、ようやく感じていた違和感を認識するにあたった。

 どうも家を出て少ししてから、後ろから妙なものを感じる。もの、とはいったが、物質的というよりはどちらかというと気配的なものだ。

 正確に言うなら半分気配で半分物質。分かりにくいけど無理やり例えたらこんな感じ。


(…落ち着かない)

 それがフワフワと宙を漂いながら迫って来てるのを、感覚で感じている。

 少し不気味だったが、ある地点を過ぎてから、その不安も杞憂に終わった。

 どこかで感じた事のある気配だとは感じていたのだ。それが先程、確信へと変貌した。

 違和感の正体について―――まぁ、大方予想はつけている。

 断言できることとしては、危ない類のものでは十中八九無いということ。寧ろ、傍に居てくれた方が安全との見方もある。

 正体を確かめる方法は簡単だ。さっきから後ろを振り返っても誰もいないが、この方法なら確実に引っかかる。


 ―――彼ほどおっちょこちょいなら間違い無い。









 私のとった対策とは、適当な角を曲がり、そこで一旦立ち止まること。

 今から秒で正体が分かるだろう。

『……あ』

「……―――………――」

 だって、カゲは抜けてるところあるから。


 ぬぅ、と黒い人影が現れが、案の定、正体はカゲ、その人だった。やはり、気配を微妙に誤魔化しながら、私の後ろをずっとつけてきてたらしい。

 気配云々にしては、十年近く一緒、そしてカゲは人では無いのだ。私が気配の区別に関して敏感な為だろう。

 全体を見渡してみれば、いつもの黒スーツに加え、サングラスに帽子を深々と被り、手には革手袋を嵌め、革鞄を握っている。

 カゲ、出勤スタイルだ。


「……仕事?」

 聞いてみれば、一瞬虚をつかれたように体が跳ねた。

『ぇ……あー、うん。仕事仕事。急遽、招集かかっちゃって』

 それについては本当だろう。基本、カゲは私に嘘をつかない。

「……私の後ろをついてきてたのは…?」


 ―それについては少し間があったものの、素直に話してくれた。

『………ちょっと、ね。さっきのニュースで、変質者最近は多いって聞いて……凪ちゃんが心配に…』


(…カゲのやってることも、多分それに近いことだと思う)

 ……思ったけど、口には出さなかった。カゲが凹む未来が容易に想像できたし、それにこれは厚意。厚意を無下にするような真似、特に相手がカゲならしたくない。

 でも、流石に少し注意しなくては、と思ったところまではいいが、やっぱり何も言わないことにする。


 ―――可笑しいと言われるかもしれないが、カゲが心配してくれたという事実。これに対する嬉しさが、心内では大きく勝っている。もう、理由が分かった瞬間に、鼓動が跳ねあがるくらい。

 ――私はやっぱり変だ。普通は少しでも怒るべき状況なのに、全く怒る気力が湧かない。気持ち的には嬉しい・ありがとうの二つしか出てこない。

「……うん……でも、私以外に見える人いたら…アレだから…気を付けてね」

『…ウン』

 かなり緩めの注意をしたが、少し落ち込むのは回避できなかった。カゲの顔が変わらないが、どことなく「しょぼん」としていることは誰の目にも明らかだろう。

 そんなカゲを慰める(というのも可笑しな表現かもしれないが)為、手を差し出す。"これ"なら私も幸せになれる。カゲとしても、後ろをつけるよりかは効率的だろう。

 差し出された手を、じぃ、と見つめられた。

 ……何となく恥ずかしい。



「…ん」

 催促するようにもっと突き出しながら言う。

「……後ろつけるくらいなら……その……隣に居てくれた方が安心する」

 顔の熱が上昇する感覚、そしていつもと違う状況に目線を合わせられず、あちらこちらへと視線は移動する。

 表面上平静を装ってはいるが、内心大慌てでパニック状態。

「そ…それにこっちの方が近道だけど暗いから……え、と……」

(…何言いたかったのか分かんなくなった)

 何というか、今日の私は可笑しい。カゲにここまで、しかも朝から積極的になったことなど、久しぶりだ。

 やっぱり止めよ――と手を引っ込めようとした矢先、



『うん、分かった……じゃ、ちょっと失礼―――』

 普通に受け入れて貰えた。革手袋の感触が優しく手を包む。

 あっけらかん、と停止する私に対し、何事も無かったように路地裏を進もうとする。

 強く手を引かれ、少しよろめいた。

(………あ)

 私の手を強く引くなんてカゲらしくないと思ったが、一瞬見えたカゲの顔で、理由は分かった。

 少し急ぎ足のカゲに追いつこうと私も急ぎ足になる。

 ちょっとカゲよりも早く歩いて顔を見ようとしたら、さっと横を見てしまった。その先にあるのは、何の変哲もない壁。


 ――珍しい反応に、悪戯心が刺激された。


 素早く反対方向に移動してみたら、わざとらしくグルリと首だけで後ろを振り向いた。どうしても見られたくないらしい。

 何度か繰り返すも、様々な手段を講じて防ぐ様子は、何だか―――そう、和む。

 彼の負けん気に負けじと、私の好奇心も頂点に達した。

 流れに乗って、試しに腰回りにギュッと抱き着いてみた。

 

 頭上からは、ふぅ、と息をつく音が聞こえた。

『……あまり子供があけすけな事するもんじゃないよ』

 指先で頭をコンとつつかれた。頭の中を、音が一瞬反響する。


 ――やり過ぎたかな―――そう思って頭上を見れば―――私の口角は、自然と上がり始めた。

 両手を胴体から放し、行き場のなくした手を再び彼に差し出すと、あくまで、あくまで自然に彼は受け取る。

「…カゲ…交差点まで、一緒に行こ」

『……ウン』

 片言気味の声に笑みが零れた。

 歩き始めてから、私より少し前を歩く彼だが、私は私で、結構満足していた。

 理由は―――あれだ。カゲの初心さに、だ。






 ――――――――――――― ――――――――――――― ―――――――――――――





 そのまま、あまり会話のないまま歩いていたら、直ぐに交差点付近まで着いてしまった。今、二人の居る路地裏を抜ければ、直ぐに交差点。

『それじゃあ、ここまで、だね』

「…そうだね」

『あ、そうだ。本当にこの辺に出てきたら困るから、あまり遅くならないようにね』

 例の変質者の件だろう。

 どうやらいつも通り、大人な彼に戻ってしまったようだ。

 …少し勿体無い気もするが、まぁ仕方ないことと受け入れよう。

『念の為、凪ちゃんの影に僕の影入れとくよ』

 カゲのズボンが瞬間的にビリッと裂け、私の影に落ちると、溶けて消えた。足の素肌がちらりと見えたが、ズボンはまるで生き物のように、いつの間にか完全に再生している。

 しゃがみ込んで落ちたところを撫でてみたが、そこには何も無くて、あるのは冷たい地面の感触だけだ。

「…またこのよく分からない能力?」

『大丈夫大丈夫、ただ影に潜んでるだけの自衛用だから害は無いよ。夜になったら自然と影は僕のところに帰って来るから』

 ふーん、と一言で答えた…というか、それ以外に何とも言えない。

 本人が自身についてよく分かっていないらしいから、聞いても無駄だろう。でも効果やその後が分かるのは、本能的なものと昔に説明された。

 私自身はカゲの守る、という意思がくっ付いてる。そういった感じに捉えている。


 ちなみに、カゲの足から分離した筈が、たまにコレ、欠伸したりくしゃみしたりする。だから変な方向からそれらが聞こえてきたとき、多くはこの入り込んだ影の仕業だ。

 でもそれ以外に害は無し。寧ろコレがカゲの一部と考えると、何でも愛おしく感じるので問題も無し。―――防衛範囲が広いのだけが、たまに傷だ。

『んじゃあ、今度こそ、ここまでということで…』

「あ……うん……約束した通り、今日、早く帰るね」

『あんまり遅くならなければ、それでいいよ』

 笑った顔が帽子の陰から覗く。つられて私も微笑んだ。

「…じゃあ、また家で」

『うん、じゃあね』

 カゲに別れを告げ、信号へと向かう。

 そこで赤信号に引っかかったので、カゲのいる位置を確認してみれば、既にそこに彼の姿は無かった。

 ――多分、本当はかなり急ぎの用がなのだろう。招集と言っていたが、緊急の要件なのかもしれない。

 証拠としては薄弱かもしれないが、いつも、カゲは私が完全に見えなくなるまで、私をずっと見守ってくれている。

 でも、今日は妙に早い。――少し悪いことをした気になった。


 だが、それらを差し引いても、今日は良い日だと思う。

 あの時、腰回りに抱き着き、注意されて上を見たとき、一瞬だが、確実に見えたのだ。

 思い出してまた笑みが出てきそうになる。


(カゲ…可愛かった…)


 雪のような頬が、ほんのり桜色に染まっていた様子はとても珍しく、そして、とてもとても、目に映えた。

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