第16話 逆襲 「ダメだこいつら」

 丸二日、四十八時間寝ていたウルフパックは何の前触れもなく跳ね起きると、チーリンたちが目を丸くする中冷蔵庫に直行した。


 そこで手当たり次第に腹に詰め込むと、瓶を咥えたまま天を仰いで酒を飲んだ。一本、二本と飲み干すと、残り物を肴にもう一本空けた。


 それから自身の体を確かめてよく動くことを確認すると、

「行くぞ! 」

 と大声をあげた。


「どこへ? 」

 山猫が最もな質問をした。


「どこってハイドラたちのところだよ。行ってぶっ殺すんだ。まさかここでグタグタしようなんて思ってないよな? しっかりしろよ。ここが運命の分かれ道だぞ。このまま逃げ切ってやろうとか隠れてやり過ごそうなんて考えた日には、俺たち一生逃亡者だぞ。夜も眠れず陽の下でも奴らの影に怯える生活。そんなの真っ平御免だろ? 」


「まあ、そりゃそうだけどさ」

 リサーはチーリンと目を合わせた。


「今回、奴らの攻撃は空振りに終わった。俺たちは命とカードを守りきったわけだ。次は俺たちの番だ。野球でもアメフトでも何でもそうだが、守りの後には攻撃の回が回ってくるもんだぜ」


「なんだかよく分からん理屈だが、先手を打つのはいいことかもな。それであの時は上手くいった。途中までだがとにかくいい感じだった」


「それでどうやってヤサを見つける気? 」

 とリサー。

「『指南』は何枚ある? 」

「一枚だけよ」

「なんでだよ。あの刑事が一枚持っていたはずだろ」

「持ってなかったわよ。どうやら私たち騙されたみたいね」

「買う? また騙されるかもしれないけど」

 チーリンが舌を出した。


「最後の一枚は取っておきたい。他の方法を考えよう」

「病院を当たってみたら? ほら、奴らの仲間が一人倒れてたじゃん」

 チーリンの言葉にリサーが首を傾げた。

「でも生きてるのかなあ。あの分だとシパシクルの得意技を食らったみたいだし、死んじゃってるかもよ」


「そもそもこの街に病院はいくつあるんだ? 」

「小さいところも合わせると三、四十ってところね」


「死んじゃってたら葬儀屋だよ。葬儀屋はいくつあるのかな? 」

 チーリンがパソコンを取り出して調べ始めた。


「もういいよ。別の方法を探そうぜ」

「あいつらホテル・トランスオクシアナのカジノにいたんだろ。もしかしたらあのホテルに泊まってないかな」

 山猫がふと思い出したように言った。


「可能性はあるな。よし、ホテルの宿泊者名簿をハッキングしろ! 」

「だってさ」

 チーリンが持っていたパソコンをリサーに回した。

「がんばって」

 それをリサーが山猫に。

「お前の出番だぞ、シパシクル」

「あー、そうだったな」

 ウルフパックはうな垂れた。

「畜生。あいつを失ったのはデカイな」


「『接続』でホテルのサーバーにハッキングできないかな? 」

「いい案だリサー。『接続』で繋いで『走査』かな」

「そこは『分解』でしょう。ただいいの? 」

 チーリンがニヤついた。

「何がだよ」


「コストに見合ってるのかってこと。奴らを殺るために使うってならともかく、泊まっていてもいなくても高々ヤサを調べるのに『接続』と『分解』を使う価値があるのかな。もったいないよ」


「やれやれ、またお前のもったいない病か」

 山猫が顔を顰めた。


「『指南』の時とは金額が桁違いよ。ねえ、ウルフ」

「……確かにそうだな」

「ダメだこいつら」

「さっきの勢いはどこに行っちゃったの、ウルフ」


「……フロントに電話して訊いてみるか。それならタダだしな」

「教えてくれるわけないでしょ! 」

「声を聞けば誰だか分かる。それで遠隔から『幻惑』が使えるんじゃないか? 」


 案外いい案かもしれない、と三人も同意した。


 そこでウルフパックが代表して電話をかけると、今夜のフロント係りは彼のよく知る男。

「しめた。チャールズだ」

 送話口を押さえて皆にウインクした。


「ハイドラ……確かにその名で部屋が取られてます」

 従順な子羊へと変わったチャールズは言われるがままに宿泊者名簿を調べた。


「確かかチャールズ? 」

「ええ、確かですウルフパックさん」


「今、部屋にいるか? 」

「はい、います。昼間は外出してましたが、先ほどお連れの方たちとともに帰ってまいりました」


「部屋番号を教えてくれ。ついでにルーム・キーも用意しておいてくれるとありがたいな。出来るかチャールズ? 」

「もちろんですよウルフパックさん。部屋番号は1933。十九階のエレベーターを降りた突き当たりの結構いい部屋です」


「いい子だチャールズ。今度女の子紹介してやるからな」

「本当ですか? 」

「俺が嘘を言ったことあるか? 」

「あの、でしたらその……」

「なんだよ」

「いや、いいです」

「言いたいことがあるならはっきり言えよ」


「出来たらで結構なんで、ハイドラさんを紹介してもらえると嬉しいんですけど」


 ウルフパックは困ったように頭をかいた。


「タイプなんです。ずっとお話したいなあって思ってんです。お願いしますよ」

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