Lv26「不死王の世界征服⑨~大虐殺、決定~」
ホネポ首相は、常に無表情の男だ。
笑った所を見た人間は誰もいない。
だから不気味な奴だ。そういう評価を帝国の皆から受けている。
だが、ホネポの心の奥底では、大いなる焦りがあった。
この星に、タコっぽい宇宙人の船が、何隻もやってきた大騒動が発生してから、世界征服を早く済まさなければいけないと思い焦っている。
技術が遥かに格下の文明が、格上の文明と対峙した時、そこには必然的な破滅がまっている事なんて、歴史を見れば誰だって理解できた。
(世界統一の速度を速めなければならぬ……。
恐らく、宇宙では大航海時代が始まっているはず。
このままでは、帝国も宇宙人どもに侵略されて、我々アンデットと人類にも未来がない……)
明晰な頭脳を大回転させて、ホネポは最も良い方法を考えつく。
そうだ、ドリームワールドを作り上げた偉大な神であり、死の支配者であるワルキュラ様の力を借りよう。
あの方は、とっても慈悲深いお方だが、恐怖で統治する必要性を十分にお分かりのはずだ。
人間達も、陛下の力の恐ろしさを知れば、二度と逆らう気を無くすはず。
だが、単純に破壊や殺戮のために使えば、それは強い反発を呼び、統治をより困難にさせるだろう。
国益に繋がって、いざという時の言い訳ができる方法……そうだ、道路建設はどうだろうか?
国力は物を生産し、物が流れ、その流れから税金を取る事で発生する。
陛下の力で、人間王国を貫く巨大道路を作り上げれば、抵抗する人間達の数は激減。
その上、物流が盛んになって、配送の仕事が増えて失業者も減り、暫くの間は好景気になるはずだ。
まさに一石二鳥。
早速、専門家達に議論させた後に、陛下にお頼み申し上げよう。
ホネポは、鉄仮面のように無表情な顔のまま、仕事の充実っぷりに満足した。
~~~~~~~~~
「陛下の魔法サン・レイで、道路を作って頂きたいと、王国から要請がありました」
二日後の早朝、ホネポは宮殿にあるワルキュラの部屋へと行き、議論に議論を重ねた企画書を提出する事にした。
犠牲者を最小限に留め、なおかつ、旧人間王国の人間達が恐怖する内容である。
ワルキュラは企画書を手に取り、数ページめくって、骨の指の動きを止めた。どうやら内容を完全に把握したようだ。
さすがは偉大なるお方。頭の動きも異常に早いと、ホネポは感心する。
「道路建設……ふむ?
サン・レイで道路……?
え?あれを道路建設に使うだと!?」
ワルキュラ様の驚きは当然だと、ホネポも思った。
サン・レイ。太陽の光を超凝縮して放つ――陛下専用のプログラミング魔法。
その威力は山脈を一撃で溶かし、小惑星ですら長時間の照射には耐え切れずに溶けきる。
隕石迎撃用にアトリ殿がお作りになられた。
やろうと思えば、人間王国どころか、惑星中の人間を皆殺しにできる。
サン・レイの凝縮光を、縦にゆっくりずらしながら発射するだけで、惑星が真っ二つになるのだから。
「サン・レイを本当に……こ、工事に使うつもりなのか?王国は?」
「はい、その通りでございます、ワルキュラ様」
「な、なるほど、王国側も覚悟があるという事だな……ならば、よし。
オ、レ、もやってやろうではないか、うむ。
王国のコルベール宰相という輩は、中々に『思い切りすぎた人間』のようだな?ホネポ」
ワルキュラのわざとらしい問いかけで、ホネポは悟った。
恐らく、陛下は、企画書の内容を見ただけで、今回の本当の目的が分かってしまったのだろう。
王国からの要請は、コルベール宰相を脅迫して出させ、サン・レイの閃光が貫く予定の大地は、主要都市群から少し離れた場所になるようにしてある。
つまり、犠牲者は最小限で済み、恐怖を必要なだけ王国民に届ける内容なのだ。
きっと、陛下は、この事を瞬時に見抜いて、わざとらしい口調をなさったのだろう。そうホネポは確信し、ワルキュラを心の中で褒め湛えた。
(なんたる洞察力……。
瞬時に全てを見抜いておられる……。
やはり神に等しい存在なのだろうか……?)
「おい、ホネポ。
思ったのだが……」
ワルキュラの疑問の声を聞き、ホネポは意識を瞬時に切り替えて、一言も聞き漏らさないように意識を集中させた。
「道路を建設するよりも、この地図の北にある大きな湖まで、一直線にサン・レイをぶち込んだ方が良くないか?
自動車を売ろうにも、買ってくれる購買層が少ないだろう?
なら、道路より水路を作った方が良いではないか?サン・レイを使った後に出来るのは大きな溝だから、道路としては不適格だ(※水は低い場所を流れるから、雨が降ると川になる)
水路ならば、生活用水としても使え、小舟を浮かべれば大きな道路代わりになるはずだ」
そう言って、ワルキュラは地図に一本の道を描いた。
瞬時に、ホネポは死の支配者の意図を読む切る。
あ、これ、人間王国の主要都市群と、その隣国の遊牧国家の移動型首都を一直線にぶち壊すコースだと。
陛下は必要最小限の犠牲では、恐怖政治のやり方としては中途半端だと、この地図上に書かれた一本の線で語りかけておられるに違いない――ホネポは戦慄し、無表情のまま震えた。
「お、おお!さすがは陛下っ……!
私めの浅知恵でしたっ……!
感激の極みっ!」
「う、む、水路の方が良いだろう?」
「必要最小限(の犠牲)ではなく、必要最大限の結果(きょうふ)を選びなさるとは……まさに真の帝王でございます。
まだまだ私は甘うございました」
ホネポ案なら、犠牲者は最大10万程度で済むはずだった。
だが、主要都市群がある場所をサン・レイで貫通するワルキュラ案なら、二次災害の犠牲者を含めれば100万を越える上に、巨大遊牧国家まで降伏するか、逃げ出すかのどちらかの選択を選ぶしかない。
必要ならば、何百万だって殺せる。やはりワルキュラ様には悪の帝王の名が相応しいと、ホネポは確信せざる負えなかった。
「ホネポ。
民草のためならば、俺は最大限の努力をするだけだ。
道路や水路作りは、序盤にやらないと立ち退き交渉で、とんでもないお金がかかるから、王国側の気持ちも分かるぞ、うむ。
短い橋の建設ですら、立ち退き交渉で2億ほどかかって大変だったようだからな。
こういうのは、安く出来る時にやった方が良いのだろう」
「ははっ!
……サン・レイの巻き添えで死亡した人間はどうなさいますか?」
「う、む、一気に何千kmも水路を掘る訳だから、どうやっても犠牲者は出るだろう。
犠牲者は蘇生してスケルトンにしてやれ。
もちろん、地下都市で教育を受けさせてやるのだ――無料でな。
王国の未来のためとはいえ、殺した俺たちが悪いのだ。生活が安定するまで、月に5万アヘンほど支給してやれ。
あ、金持ちの場合は相応の代金を払わせて、エルフにしてやるのだ。
格差は可能な限り、抑えるように努力せよ」
(なるほど、王国の人民を百万人単位で処分して、スケルトンにして教育した後に送り返して、王国民が団結できないように統治なさる訳ですな……。
そして、金持ちは全財産没収してエルフ転生鍋に放り込むという事か……
しかし……本当に恐ろしいほどに冷酷なお方だ。
さすがは我らの主……)
「それでは、後は任せたぞ、ホネポ。
サン・レイは何時でも撃てるが、避難勧告を事前にやらないと不味いからな。
しっかり、民草が犠牲にならないように、避難誘導を頑張るのだ。わかったな?」
「ははぁっ!了解しました!」
ホネポの耳には、ワルキュラの言葉は、こう聞こえていた。
『避難勧告をしたから、サン・レイで死ぬ奴らは自己責任。
避難せずに巻き込まれた奴らが悪い』と、聞こえてしまった。
~~~~~~~
首相官邸に戻った後、心の躍動感を抑えきれないホネポは呟いた。
「陛下にとって、人間は文字通り『草』という意味ですな。
さすがは偉大なる死の支配者。
帝国の統治は、恐怖こそ最高の礎になる……。
私は、まだまだ、あそこまで及ばないな……私なら……無意識に必要最小限の道を選んでしまう……」
部屋の電話の音が、ベルを叩いたような音を響かせた。
ホネポは受話器を取り、耳に当てる。
「もしもし首相閣下でしょうか?
こちらD123です。
ご報告を申し上げます……人間王国のオレルアン公爵が反乱を起こしました」
受話器から聞こえたのは、王国に送り込んだドッペルゲンガーの声。
とっても好都合なイベントが発生して、ホネポは嬉しかったが、その顔はやはり全くの無表情。
「人間王国だと?そんな国は公式には存在しない」
「では、なんと呼びましょうか?」
「ニンゲン地方、その呼び名が相応しい。
属国の統治に、最大限の恐怖と絶望がいる。そう……陛下は行動で示しなされた」
ひと呼吸置いて、ホネポは言葉を続けた。
「これより8日後。
サン・レイを『ニンゲン地方』と北の遊牧国家へと向けて放つ。
反乱軍をサン・レイ射線上の都市へと誘導せよ。
恐らくタコ型の宇宙人どもも、その光景を見る事になるはずだ。
この星には、キサマらの想像にも及ばない力があるという事を教えてやるのだ」
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ワルキュラ☚知らず知らず、現地の都市の配置分布を知らずに、大量虐殺計画を練ってしまった人
「う、む、水路の方が良いだろう?(経済がよく分からんから、不安そうにしている)
【内政チート】 「虫型ゴーレムを使って疫病チートする! 」
http://suliruku.blogspot.jp/2016/07/blog-post_89.html
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