Lv25「不死王の世界征服⑧~夢、終わる時~」


演技館は、扉を潜ると不思議な空間が広がっている。

扉は一つしかないのに、無数の部屋へと繋がっているのだ。

ワルキュラが一人で入れば、スターとは違う部屋へ。

スターが一人で入れば、演技講座の講師がいる部屋へと繋がる……そう、スターは考えている。


「演技に必要な事は、堂々とした姿勢ザマス!

成りきろうと思う心を捨てるザマス!正々堂々と振舞う事で、演技ができるザマスよ!

この、おフランス口調なのも演技ザマス!おフランスは異世界にあるおフランスな国ザマス!

それじゃレッスンスタート!ザマスー!」


実際の所、ここは何でもありの夢の世界。

部屋と講師がその場で生成されている可能性もあるから、深く考えると怖かった。


「早く演技するザマス!

考え事をしながら仕事をするのは駄目ザマス!

仕事とプライベートの切り替えをしっかりするザマス!」


スターは、深く息を吸う。そして、ゆっくり肺の中の空気を吐いた。

気分を落ち着けて、共産国での日常を思い出し、指をズビリッ!と講師に突きつけて――


「あなた、仕事に失敗したわね?」


「申し訳ないザマス!」


「いえ、許さないわ……アナタは開拓地送りよ!」


「良い演技ザマス!その冷たい目線があれば、きっと部下は従ってくれるザマス!

でも、たまには微笑んであげるのも、必要不可欠ザマスよ!

鞭ばっかりを上げていると、部下が自殺して刑事事件になるザマス!

そしたら会社は終了ザマスよ!」


ズビシッ!

スターの心が痛くなった。開拓地は強制収容所という意味だ。

収容所で自殺する人間は大勢居すぎて、数え切れない。

共産国が潰れたら、徹底的に批判されて、痛くて苦しい拷問された末に、処刑ENDだろう。


「ふむ……スター殿は、開拓の仕事も手がけているのか……

投資した費用を回収するのが大変なのに凄いな……」


スターの後ろで、呑気そうに考察しているワー君の存在が微笑ましかった。

見当違いの内容を想像してくれている。そう思うだけでスターは安心できる。

でも、毎回、嘘に嘘を重ねないといけないから、騙しているような気分になって辛かった。


「しかし、左遷先が開拓地とは珍しい……。

普通、辞職届を出してやめたりしないのだろうか?」


「ふ、不景気だから、他に就職先がないのよ。

だから、開拓地送りになっても従ってくれるの

(開拓地という名前の強制労働所に、人民を送っているなんて、ワー君に言えない……)」


「開拓地の事業は儲かるのだろうか?

後世のためになる凄い事業だと思うが、一つの会社がやるには金が足りない気がするのだが……」


「ほ、ほら!

辺境の方が良い資源が眠っている事があるから、色々と役に立つのよ!

それに変革は、辺境からやってくるって言うでしょ?」


「そうか、そういう考え方もあるのか……。

なるほどな。

スー殿は俺より立派な経営者なのだろう。

小さいのに、立派だな……うむ」


何時か、本当の事を話せる日がくるのだろうか?

スターは、目の前の優しい少年に嫌われるのが怖かった。


~~~~~~


「相槌が上手い上司は、部下に好かれるザマス!

好感度を上げるために、相手の事を肯定してあげると良いザマス!」


「ふむ……さすが、だな。俺の事をよく理解している。

その考えを、皆に分かるように話してやれ」


ワー君の威厳がある演技。

でも、どのような時に使う演技なのか、スターには綺麗さっぱり分からなかった。

上司の考えを完全に理解している時点で、その部下が有能すぎる。

普通なら、上司は部下を疎み、部下は上司を無能だと判断して人間関係が破綻しそうだ。


「ワー君、気になったのだけど……それ、どんな時に役に立つ演技なの?」


スターが何気なく問いかけると、ワー君は部屋の壁を悲しそうに見つめて――


「……俺にも分からん。

なぜか部下と付き合っている内に、このパターンができてしまった……。

なぜこうなった……」


「現実の事は突っ込みたくないけど……その部下とっても有能ね。

ワー君のやり方を理解している部下がいるんでしょ?なら、良いじゃない」


ワルキュラ「……え?」


「え……?って何よ?」


「……先ほどもいったが、俺の部下は、俺の事を全く理解してなくて有能なのだ。

その意味が分かるな?」


「意味が分からないわ!?」


「……すまん、癖がでた。

部下が俺の考えを推理して、俺が考えた以上の案を常に出してくるんだ。

全く、やり取りが噛み合ってないはずなのに、いつも上手く行って不思議だ……。

何時、このやり取りが破綻するか、不安でならない……」


「お互いに意思の疎通ができてないとか……いずれ、大きな失敗をすると思うわ。

早めに部下と相談して、分かりあった方がいいわよ?」


「何を言っても……俺は特に何も考えてないとか言っても……部下たちは俺が冗談を言っていると思い込んで笑うのだ……

本当、どうしてこうなった……」


「そ、それはそれで凄いわね……」


やだ、ワー君がストレスで胃潰瘍になるかもしれない。スターはとっても彼の事を心配した。

一応、ワー君は家庭を持つ身なのだ。ストレスで体調を崩したら、妻子の方も悲惨な人生が待っているだろう。

なんとかしてあげたかったが、全く違う人生を歩んでいる相手を、どうアドバイスしてあげればいいのか分からない。


「おや?スー殿の身体が薄くなっているぞ?」


言われて気づいた。スターの体は半透明になっている。これは現実の肉体が起きようとしている証。

幸い、身体全体が透けているから、パンツの柄は見えない安全仕様だ。

昔は服が先に透けて、パンツが見えて大変で、ラッキースケベーだったが、今のドリームワールドは女性の人権にも配慮されている。


「眠りの時間はもうおしまいって事ね……

ワー君に会えたのに残念だわ」


「名残惜しいな……」


「そういえば、ワー君に言いたい事があったの」


「どうした?」


ワー君の疑問に、スターは無言で――返してしまった。


(現実で一度会ってみたいとか、絶対に言えない)


自分は現実では、共産国の最高指導者であり、紅い大魔王と呼ばれている極悪人なのだ。

そんな悪党だと知られたら、ワー君は二度と会ってくれない。そんな気がする。

この心地いい関係を長く続けたいスターは、必死に考えて誤魔化した。


「ワ、ワー君が勤めている会社が倒産したら、ワー君を私の組織で雇ってあげるわ!

じゃ、また、夢の世界で会いましょう!」


「……ああ、またな。

スー殿も頑張って、開拓事業を頑張って欲しい」


自分を見送るワー君の黒い目は、惹き込まれるような感じに、威厳たっぷりだった。

こんな凄そうな少年(50歳くらい?)を雇っている商社は、一体何処にあるのだろうか?

きっと、とんでもない人誑し上司なんだろうなぁと、スターは思い――


~~~~~~~


「資本主義者が作った天井だわ……」


そして、現実世界で覚醒した。

超高級ホテルの白い天井が、違和感を感じさせる。

自宅以外で起きると、脳はいつも、周りの光景を見慣れていないせいで異物だと感じていた。

スターは、小さな両手を目の前で合わせて、先ほどの夢の世界を思い出す。


「……また、言えなかった。

関係が壊れると思うと、本当の事が言えないわ」


もしも、夢の世界に滞在できる時間に、制限がなかったら。

とっくの昔に、スターは夢の世界で囚われていたかもしれない。


「……いや、私には先にやる事があるわ。

私事は後よ。

世界のために、大魔王ワルキュラを倒さなきゃ。

ワー君との関係は、それから考えなきゃ」


方針を改めて確信して――十日後。

惑星から、尊いような、価値がないような100万の生命が失われた事を、スターは知った。


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ワルキュラ(現実の俺は骸骨ですが何か!)


【内政チート】「大砲の運用が大変だって!?」城壁を壊すのに6000発の砲弾がいる」17世紀初頭

http://suliruku.blogspot.jp/2016/07/600017.html

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