Lv12「不死王、キャベツ相場に悩む」


八百屋で並ぶ無数のキャベツ。とっても豊かに育った緑色のお野菜さん。

その値段を見て、ワルキュラは心の底から驚愕した。

明らかに……生産者が得る利益よりも、出荷する経費の方が高い。

そんな安すぎるキャベツが、八百屋に大流通している。

農家の皆さんを心配したワルキュラは、衛星電話を異空間から取り出し、本国に連絡を入れた。


「俺だ!ワルキュラだ!

今すぐ、農業関連の大臣を集めろ!

キャベツ農家の皆が大変だ!」


「もっふふ。

キャベツが安くてお得です。

美味しいキャベツさんがたくさんです、もっふふ」


緊急事態を他所に、ワルキュラの目の前で、狐娘がキャベツを買い漁る……。

キャベツ農家が犠牲になっているとも知らずに……。


「このままではキャベツの未来が危ない!」


「もっふぅ?」


~~~~~


一時間後、キャベツ利権に関わるお偉いさんが、帝国の宮殿に集まり、激しい議論を交わしていた。

ワルキュラは、紅い玉座に腰を降ろして座っている。狐娘の姿はない。


「なんて事だ!このままではキャベツ農家が破産してしまう!」


「誰だっ!?この状態になるまで気付かなかったのか!」


「ほ、補助金を出せば良いのでは……?」


「補助金を出しても、キャベツは需要が伸び辛い野菜だ!無意味すぎる!

買い溜めしても腐るのだぞ!?」


熱い議論だったが、問題は解決しそうにない。

ワルキュラにも、これらの問題を解決する策が思い浮かばない。

キャベツは保存が効かない葉物だ。冷蔵庫があっても、一ヶ月そこらで腐敗を始める。

それゆえに、相場が急激に変動しやすいのだ。


(困ったな……。

野菜の値段が安いと理解できても……経済の事がよく分からぬ……。

意見を求められたら、どうすれば良いのだ……?)


経済は生きている。

キャベツの価格を、相場と全く違う価格で売るのは難しい。

相場より安かったら、犯罪組織が買いあさり転売する。

相場より高かったら、闇市が発生して、税金が取れない。

そうなると、ワルキュラがやる事は一つ――


(経済の事はよく分からん、適当にごまかそう。

こんなに専門家がいるのだ。きっと、誰かが良い知恵を出すだろう)


決心したワルキュラは玉座から立ち上がる。

それと同時に、場の熱い議論が終わった。

大臣達は、期待と畏怖を込めた視線を、自らの君主へと向ける。

軽く頷いたワルキュラが、骨の口を開けて――


「……国力とは、物を生産し、物を流す事で得られる。

俺たちは、その流れから税金を取る存在なのだ。

……わかったな?」


そう言って、すぐに玉座へと腰を降ろし、不安になった。

こんな適当な発言で、今回の問題は解決するのだろうか?

キャベツは、値段が下がって需要が増えても、やはり保存が効かないという問題点があるせいで、買い溜めしてくれる客が少ない。


(今の俺の発言は客観的に見たら……意味不明な発言だ。とっても格好悪いシーンなのではなかろうか……?)


骸骨顔なおかげで、恥ずかしくなっても顔に動揺は現れない。

ただ、静かに大臣達がどのような答えを導き出すのか、どっしり構えて待つだけだ。


「私は理解できましたぞ!

ワルキュラ様はっ!この問題をっ!たった一言で解決なされた!」


その発言をしたのはデスキング。キャベツ利権と全く関係がない骸骨だった。ぶっちゃけ、陸軍の最高権力者だ。

ワルキュラを崇拝しすぎて、軍人なのに、この場に何故かいる。


「「ど、どういう事なんだ!?」」

「「ワルキュラ様の先ほどの発言に、どんな意味があったのですか!?」」


大臣たちは、口々に問いかける。

デスキングは恍惚感が溢れすぎて漏れ出しまくりな口調で――


「ワルキュラ様は……恐らく、こう言っておられる。

キャベツを生産し、キャベツを流せと……。

この流せとは……海に、キャベツを流せという事だろう」


「キャ、キャベツを物理的に減らす事で、相場を維持するという訳ですか!?」

「さ、さすがはワルキュラ様だ!我らには想像も及ばぬ思考をなさる!」

「供給が多すぎて値段が異常に安くなるなら!」

「「その分だけ廃棄すれば良いのだ!」」

「「価格調整のために野菜を潰すなんて……誰にも真似できない凄い発想だ!」」


そのみんなの意見に、ワルキュラは戦慄した。

折角、農家が苦労して作ったキャベツを捨てるのは勿体無い。

世界には、キャベツすら食えずに飢える貧民もいるというのに、そんな酷い事はしたくなかった。

だが、ワルキュラが一人孤独に苦しんでいる間にも、大臣達が様々な提案をしてくる。


「キャベツを海に流すと、輸送コストがかかって、キャベツ農家の皆さんが破産するぞ!」

「なら、こういうのはどうだろうか?

キャベツを畑で潰して堆肥にすれば良いのです!」

「その案は実に良い!それで行きましょう!」


罪のないキャベツさん達が、食卓に上る事もなく、畑で潰される事が決定してしまった。

新鮮でシャリシャリッ!サクサクッ!という食感すら出す機会に恵まれず、無残にも畑の土へと帰るのだ。

ワルキュラは猛烈に悲しくなった。

キャベツ農家の生活を守るためとはいえ、彼らの汗と努力の結晶を潰すなんて……酷すぎる。

しかし、帝王の座は孤独である。

時には非情な決断をしなければならない。

産業を守るために、あえて――労働者の努力を踏みにじる必要があるのだ。


(キャベツは安くなっても、そんなに需要が伸びない作物……。

恨むなら、俺を恨め。

消費者は、キャベツが安くなっても、たくさん買ってくれる訳ではないのだ……)


場の議論で、結論が出た事で、ワルキュラは玉座から格好よく立ち上がり、力強く宣言する。


「俺は命令する。

キャベツを潰せ。土に還せ、キャベツのために……キャベツに死をくれてやるのだ」


地平線の彼方すら埋め尽くすキャベツさんが、価格調整のために――畑で死ぬ事が決定した。

……おかげで、キャベツの値段が、適正価格に戻り、世界初の減反(野菜の価格調整)政策として歴史に残る事になる。

ワルキュラは、キャベツ農家の生活を守ったのだ。




狐娘(もっふぅ……キャベツさんを畑で潰して、土にするなんて……。

やっぱりワルキュラ様は大魔王で、庶民の敵だったんだ……!もっふぅ……!)



「象兵は育成と運用が大変!!」 古代の重戦車

https://suliruku.blogspot.jp/2016/06/blog-post_20.html

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