Lv9「不死王、宇宙人に誘拐される③~宇宙平和~」

旗艦の艦橋は、重たい空気が漂っていた。

豪華でフカフカな椅子に座りながら、ゲェス提督は特に重く悩んでいる。

真っ赤なタコ頭を右に左にゆら~ゆら~。

たくさんある触手をくね~くね~。

ドゲス星人の科学力で、ワルキュラをどうやって倒せば良いのか、全く検討がつかない。

光子魚雷は生産コストが高すぎて、少量しか生産できず、さっきの攻撃で全てを使い果たした。

中性子ビームも効かない、下手に刺激するとブラックホールで返事される――ここでゲェスの思考は停止した。

モニターに投影されていた映像に、ワルキュラの姿がない。

あるのは――解けるはずがない無重力合金製のロープと、小惑星だけだ。


「て、提督!

化物が艦内に侵入しましたー!」


「馬鹿なぁー!?

どういう事だぁー!」


「恐らく、ワープだと思われます!

全てのセンサーを無視して、艦内にっ!突然にっ!現れましたぁー!」


「本当にそんな馬鹿なぁー!?」


ゲェスは天文学的すぎる奇跡に驚愕した。

空間を歪めて移動する……ワープ系統の技術は『理論上』は存在する。

前方の空間を圧縮し、後方の空間を押し広げる事で、光を超えた速度で目的地に移動できる夢の技術。

だが、スペースシャトルサイズの超小型宇宙船ですら、木星サイズの質量をエネルギーに変換しないと実現できない。(最新の科学)

しかも、伸縮するワープ空間を通るために、周りからの干渉を完全に防ぐ『泡』という防御フィールドを展開する必要がある。

これを展開している間は、艦艇側も外に干渉できない。つまり全く移動できないという矛盾が発生するのだ。

だからこそ、ゲェス提督の柔らかいタコ頭は、現実逃避を起こしている。

今までの常識を根底から覆され、全く未知なる恐怖に、タコの触手が冷えて、ブルブルッと震えた。


(俺は一体っ!何と戦っているのだ!?

これは本当に現実の出来事なのか!?

こんな辺境に住む蛮族が、我らの科学を超越しているだと!?)


一人で孤独な思考に、浸る暇すらない。


「やぁ、宇宙の皆さん、こんにちは。

通路が封鎖されていたから、物理的に壊した、すまん」


そう言って、ワルキュラが艦橋の床を壊して入ってくる。その骸骨顔は、静かに激怒しているように見えた。

言語が違うから、ゲェス達は、内容を全く理解できていないが、今まで、散々、非礼の限りを尽くしてモルモットにしたから、ワルキュラが怒っているのだと判断するしかない。

恐怖のあまり、一部のドゲス星人は気絶して、口から黒い墨を吐いて気絶した。


「話し合おう。

言葉が分からんが、ゆっくり話し合おう。OK?

俺の名前はワルキュラだ。争いは良くない」


ワルキュラがゲェス提督の所へとやってきて、右手を差し出した。とっても白い骨の手だ。

殺されると誤解したゲェスは、目の前の骸骨を、超科学の産物だと確信する。

自分達の発達した科学ですら、原始人にしか見えない文明が、この先には広がっているのだと。

これ以上、この場に留まっている訳にはいかない。

幸い、ここは遠く遠く離れた辺境だ。

まだまだ、お互いの文明が本格的に隣接するのに時間がかかるはずだ。そう思いたい。

でも、ワープできる化物が相手だと、距離という概念そのものが儚い。

何処まで逃げても追いかけてきそうで怖い。辛い。今すぐ、口から墨を吐きたい。

下手したら、このままタコ焼きにされて食われる。そう、ゲェスは確信する。


「俺、良い独裁者。

争い大嫌い。OK?

これ、リズミカルに歌うヒップホップ。

今日から俺と、お前、友達。

ユーは俺の友達だ

OK?」


今やるべき事は――目の前で、奇妙で独特な踊りをしている巨大な骸骨を――


「戦争は何も生まない。

平和が一番、OK?

争い良くない、一緒に歌って踊って、ヘイヘイホー。

……言葉が通じないって辛いな……

俺はどうすれば良いのだろうか?

星に帰っていいか?

可愛い嫁や同級生が待っているのだが?」


最大限、ワルキュラを接待して、帰りの道を襲われないようにする。

ドゲス星人の接待術で――文明の衝突を避けるしかない。


「全艦っー!

接待戦争の準備をせよっー!

ドゲス星人の興亡はっ!この一戦にありっー!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「狐の尻尾が一つ……

狐の尻尾が二つ……」


惑星上で、ゆっくり怠惰を貪っている狐娘がいた。裸でベットの上を寝転がり、大きな狐のぬいぐるみを抱きしめて、とっても極楽。

夜の間は、ワルキュラの面倒を見なくて良いから、ともて寝心地が良さそうだ。

だが、その安穏とした時間は即座に終了する。

部屋の扉から、コンコンッと軽く叩く音がした。

その音で、すぐにキーニャンの意識が覚醒する。

音だけで理解できた。肉の手で叩いた音じゃない。

骨の手で、扉を叩く少し硬い音だ。つまり、扉の外にいるのは骸骨系のアンデットという事になる。

つまり、ハーレムやっている悪の帝王が訪問してきた事を――意味する。


「も、もっふぅ……!?」


とうとう、エッチィ夜伽をしないと駄目なのかと、キーニャンは覚悟を決める。

黄金の延べ棒を貰って、働いている以上、仕事内容にエッチィ仕事があっても不思議ではない。

唾を飲み込んで、アンデットに蹴散らされる純潔を想像し、嫌な気持ちになりながら、キーニャンは寝巻きを着て、そっと、扉を開けた。

すると、そこに居たのは――


「旅行のお土産だ、キーニャン」


両手にたっぷりお土産を持ったワルキュラがそこにいた。

その中から差し出されたお土産は、ゲェス星人の間で大好評の、美少女タコのプラチナ像だったが、キーニャン的には無価値である。

狐の像だったら、喜んで貰うが、タコの像とか誰得である。

鋳潰して、黄金より価値があるプラチナの延べ棒にした方が、まだマシだ。

いや、それよりも、キーニャンには気になる事があった。


「そ、そういえば、今日一日居ませんでしたね、ワルキュラ様。

どこに旅行してたのですか?」


そう問いかけると、ワルキュラは真上を見ながら――


「ちょっと……宇宙文明と交流してきた。

言葉は分からなかったが……きっと良い奴らだったのだろう。うむ。

タコみたいな形をしていて愛らしい宇宙人だった。

この星も、宇宙の荒波に乗り出す日も遠くないな……」


「もっふぅ……」


もう、駄目だ。この骸骨。

長生きしすぎて、認知症のお爺さんになったんだなと、キーニャンは思った。


「宇宙は凄かったぞ。

俺が住む星はやはり――青色だった。

また、宇宙に行きたいな」





ワルキュラは人知れず、世界を救ったのだ。


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