Lv.9999億の骸骨(勘違い物)・ω・`)ノ

@parume

Lv1「不死王、転校する」 

国立魔法学園。とある普通の国にある、とても有り触れたエリート学校だ。

変わっている所は、優秀な才能があれば、奨学金という制度で、平民の子弟も学校に通える事。

だが、秀才程度の才能で、貧民出身となると――奨学金は借金という名前に変わり、貸してくれる金額が少なくなって、利子も付き、金銭的負担が重くなる……キーニャンは、懐の財布の軽さを実感するともに、ため息を吐いた。

彼女は金髪の愛らしい狐娘。フサフサな黄金の尻尾が魅力的な巫女さんだ。

学生服が高くて購入できないから、代わりに家から持ってきた巫女服を着ている。

今、彼女は、教室にある、木製の椅子に座り、窓の外を見て、途方に暮れていた。


(はぁ、私の青春って灰色だよね。もう、救われないシンデレラさん?

アルバイトで忙しいし、セクハラされるし、貴族どもは鬱陶しいし、頑張らないと良い就職先ないって言われるし、薔薇色の青春時代を安心して送れないよ……

出来れば、金持ちで年下の彼氏とか作りたいなぁ……。

でも、この学校の男どもときたら、うざったくてキザな貴族ばっかりだし、無理して付き合っても愛人扱いか、捨てられて終わりだろうなぁ。

私ってなんて不幸なんだろう……もっふふー)


私って不幸、そう思ってワンコインすら使わない妄想遊びに彼女は耽る。

現状を変える『イケメンな彼氏』が欲しい。

それがキーニャンの望みだった。

出来れば、心もイケメンで、金持ちで、将来性があって、優しかったら、完璧だ。


(まぁ、そんな素敵な男性なら、私と出会う前に素敵な恋人がいるだろうし、望み薄だよね……私って本当に不幸だなぁ……もっふふー)


憂鬱な妄想遊びにキーニャンが耽っていると、教室の扉が開き、黒い礼服の若い男……ダメダ先生が入ってきた。

しかし、いつもと様子がおかしい。

まるで――後ろから銃口を突きつけられ脅迫された人質みたいに、先生の体が、恐怖で震えているのだ。


「み、皆~、て、転校生を紹介するぞー」


先生の口から出るのは、平凡な内容なのに、どこか違和感があった。

いや違う、一番の違和感は先生じゃない。

教室の外にいる『誰か』だ。キーニャンどころか、クラスメイト全員の心臓がドクンッ!ドクンッ!と激しく脈動する。

視線を逸らし、扉にいる『誰か』を見ないように深く注意している。

空気は軽いはずなのに、キーニャン達は水の中にいるような重さを味わって、息が苦しい。

この場から逃げ出したい気分になった。


「そ、宗主国からやってきた。

ワ、ワル……」


ダメダ先生の、転校生紹介はそこで途切れた。

ストレスで頭の欠陥が千切れて、教壇に倒れ、口から泡を吹いて気絶している。

その直後だ。教室の入口から、皆を恐怖させる『誰か』が入ってきたのは――


「ん?どうした先生殿?

過労か……?おい、しっかりしろ!

衛生兵を呼べ!」


それは大きな骸骨。身長3mのアンデッド。紫色の豪華なローブを纏っている。

顔を隠すためか、大きな白い仮面をつけていて――何もない眼窩が真っ赤に光っているから、特に意味はなかった。

仮面があっても、生徒たちには……目の前のアンデッドが、世界の敵と言っても過言ではないほど邪悪な大魔王だと、すぐに理解できる。


「ここまで仕事に熱中するとは……教師の鏡だな、うむ。

教師はブラックな仕事とは聞いていたが、過労で倒れるほどとは知らなかった……。

無理はいけないぞ、先生殿。

きっと、部活動の面倒まで見て、休日すら返上したのだろう?」


隣国の独裁者ワルキュラだった。

キーニャンは、魂すら凌辱された感覚に陥って、涙目になる。


(宗主国の支配者じゃないですかー!

やだー!私の青春おわったー!?)


この場にいる生徒全員が、キーニャンと同じ気持ちだった。

担任のモウ・ダメダ先生は、ワルキュラの部下である骸骨達に担がれて、保健室へと連行され、この場から姿を消した。

だが、生徒たちから見れば、この光景は『先生が粛清され、あの世に行った』としか思えないほどに切迫感溢れる場面にしか見えていない。

保健室じゃなくて、死体安置所に強制ゴールinしたとしか思えなかった。


(わ、私の青春は……終わりですかー!?

やだー!助けてー!

神様!魔王様!邪神サマー!私の妄想彼氏様ー!

神社のお賽銭を盗んで、アイスを食べてすいませんでしたぁー!助けてー!)


狐娘の悩みを余所に、ワルキュラはクラス中の生徒の顔を見渡し、場を仕切り直すために、先生に代わって宣言した。


「俺が転校生のワルキュラ……じゃなく、ワルだ。

気安くワルと呼んでくれ」


(宗主国の支配者を呼び捨てなんて無理ぃー!

きっと、あれだよね?

文句がある奴は、表にでろや!とか、そういう意味だよね!?)


ワルと呼べば殺されると理解したキーニャンは、狐耳が元気を失って下に垂れた。

生徒たちは、この時点で半分が気絶し、机で居眠りするような感じに、自然に倒れている。

しかし、ワルキュラはそんな事には気づかずに、慈愛に溢れた口調で――


「……朝から居眠りの生徒だらけか。

夜更かしは良くないぞ」


アナタ様のせいで、気絶しているだけですよー!

というツッコミは、キーニャンには勇気があったとしても言えない。心の中で留めた。


「あと、この仮面は、酷い火傷を隠すためにつけているんだ。気にしないでくれ」


ローブの隙間から骨が見えている時点で、説得力ないですよー!

やはり、このキーニャンの心の叫びも、口から出なかった。

独裁者の注意を引いたら、待っているのは栄光か、破滅のみ。

しかもワルキュラは骸骨の癖に、性欲絶倫オッパイマスターという謎の噂まで立っているから、キーニャンは狐耳を隠しながら、時が過ぎるのを待つしかない。


「さて、俺の席はどこだろうか?

おお、ちょうど一番後ろの席があいているな。

青春って奴を感じるぞ、うむ」


「もっふぅ……?」


だが、キーニャンの期待通りに、物事は進まない。

彼女の隣の席に、ワルキュラが歩いてやってきた。

木の椅子に豪快に座り、友好的に話しかけてくる。

きゃー!私の隣に独裁者がきたー!?助けてぇー!という悲鳴すら、狐娘は上げられなかった。


「これから一年、よろしく頼む。

君の名前は、なんと言うのかね?」


積極的に、隣人と関係を持とうとするワルキュラ。

このまま黙っていたら、キーニャンは不敬とか、不幸とか、購入して学生生活が終了すると、彼女は判断した。

深呼吸して脈拍を落ち着けた後、キーニャンはワルキュラに引き攣った笑みを見せて――


「わ、わたしの名前は、キ、キーニャンです…」


「キキニャーンか。

ジブリ映画っぽい、変わった名前だな」


「い、いえ、キ、キ、キーニャンです……」


「キキキニャーン?

なんて呼び辛い名前なのだ。

長いからキーニャンと呼んでも良いだろうか?」


「は、はい、あ、ありがとうございます……?」


恐怖で震えながら返答して、キーニャンは気づかされた。

今日から、学園生活が灰色だって。

隣が独裁者でアンデッドで、ラスボスとか、もう死ぬしかない。

テレビゲームで例えるなら、スタート地点に、大魔王の城があるようなものだ。


「うん?どうした、キーニャン?

顔色が悪いぞ?」


そう言って、ワルキュラの骸骨顔が近づいてくる。

真っ赤に輝く眼窩が、もう怖くて怖くて、キーニャンは、この世から逃げ出したい気持ちになった。


(だ、駄目ぇ!こ、殺されるっ……!

大量虐殺をしまくった史上最悪の独裁者に、魂すら陵辱されて、こ、殺され……)


ここで狐娘は意識を失った。豪快に椅子から転げ落ち、狐耳が下に垂れる。

ワルキュラは慌てて、彼女を抱き起こして、体を揺さぶった。

オッパイでけぇな、おい!と思いながら、彼はキーニャンに呼びかけを行う。


「持病の発作か!?

起きろ!起きるんだ!」


回復魔法がある事すら忘れ、ワルキュラは叫ぶ。

そして思った。こういう時、一般人は――保健室、いや、この場合は救急車を呼ぶという事を。

名案が思い浮かんだワルキュラは、生徒たちに輝く瞳を向けて――


「おい!誰か!

救急車を呼べ!」


そんなハイテクな物があるのは、お前の国だけだよ!と生徒たちはツッコミを入れたかった。

だが、ワルキュラが放つ負のオーラに威圧され、次々と生徒たちは気絶し、机に倒れてしまう。


「ひでぶっ!」「わがらないよぉー!」

「お父さんー!お母さんっー!」「たしゅけてー!」


すぐに、この教室に、立っているのはワルキュラ以外、誰も居なくなった。

一人だけで、どうしてこういう事になっているのか分かっていない本人は、知恵を巡らし、現状を考察する。

……次々と倒れていく生徒達。可愛い狐娘、オッパイ。巫女さん。最近の学生は身体が弱い、最近で細菌?

これらの要素が示す事実。それは――


「くっ……!

ま、まさかっ……!?

俺を狙った細菌テロかっ……!

なんて卑劣な奴らめっ……!俺を殺すために周りを犠牲にするなんてっ……!

お前たちの死は無駄にしないぞっ……!絶対に報復してやるからなっ……!」


気絶している生徒達を、死人扱いして、ワルキュラは教室の外に出る。

細菌テロだとしたら、大変だ。

この学校はもう危険地帯だ。ガムテープを探し出して生徒たちを隔離して、アルコールをばら撒いて殺菌しないといけない。

そして、アルコールなら、化学の実験を行う部屋にあるはずだ。

だから、ワルキュラは生き残っている生徒を探すために、大声をあげる。


「誰かー!

いないのかー!

返事をしてくれぇー!

化学実験室はどこにあるんだぁー!

殺菌しないと、君たちまで死んでしまうー!」


返事は帰ってこなかった。

ワルキュラは悪い予感を感じて、通路を歩き、隣のクラスを窓越しに覗いた。すると――


「ば、馬鹿なっ……!

もう、この学校はっ!既に死んでいるっ!?

誰かぁー!生きている奴はいないかぁー!

俺が来たから、もう安心だぁー!

返事をしろー!」


隣のクラスも、その隣も、全ての生徒と教師が気絶して、口から泡を噴いて倒れていた。

もう、ワルキュラは物事を、悪い方向に考えるしかない。


「誰も返事がない……?ま、まさか、全生徒が皆殺しにされたっ……!?

この学校は既に全域が汚染エリアだというのかっ……!

このままでは住宅地にまで被害が拡大してしまうっ……!?

許せぬっ……!

俺の青春を妨害するとはっ……!

なんて卑劣なテロリストなんだっ……!」


歴史に残る大事件だと理解したワルキュラは、異次元(アイテムボックス)から、携帯電話を取り出す。

人工衛星を経由する強力な電波を出すから、インフラが整っていない辺境でも使える便利な電話を、頭蓋骨の側面に当て、国軍の責任者を呼び出す。


「俺だ!

至急、化学テロ対策部隊を派遣してくれ!

俺が転校した学校で、細菌テロが発生した!

1時間後に演説を行う!

俺は決してテロには屈しない!」


キリッ!ドヤ顔のワルキュラ。

存在しない新たな強敵との激しい戦いが始まろうとしていた!





……見えない敵と戦う骸骨のせいで、国立魔法学園は、一週間の休校が決定した。

ワルキュラは、自分の負のオーラが、生物に害を与える代物だという事を、この時、完全にド忘れていて、事件は闇の中へと葬り去られる事になる。


そして、気絶した狐娘キーニャンの望みはこうして叶った。

格好良いイケメンが転校生としてやってきて(独裁者は格好良い)

金持ちで(独裁者は宮殿持ってる)

将来性があって(不死者だから死なない)

優しくて(嫁には優しい)

彼女は、完璧すぎるイケメン転校生と巡りあったのだった。


「もっふぅ……。

ショタな銀狐ともっふふ~したい……」


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